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1-8 おっさん、人助けをする

 毒蛇(アシッド・ヴァイパー)を倒した俺は、森を抜けようと歩き続けていた。

 歩きながら、ふと『ステータス』がどうなったのか気になり始める。あれだけの強敵を倒した後だ。きっとレベルも上がっているに違いないだろう。

 

(…となれば)


 まずは安全の確保だ。俺は周囲の気配を探るが、特になにも感じない。『気配察知』も反応しないなら、今なら多少警戒を緩めても大丈夫そうだ。


(どれどれ…)


 『ステータス』を意識すると、頭の中に浮かび上がってきた。そこには――


=====


タケシ・クヌギ

42歳 男

ジョブ:芸人(侍)


レベル:5(5)↑


力:60 (420+40)↑

技:70 (420+40)↑

速:60 (420+40)↑

体:60 (420+40)↑

魔:50 (420+40)↑

抗:50 (420+40)↑

運:50 (420+40)↑


スキル

死んだふり

(剣術、抜刀術、忍術、投擲術、格闘術、偽装、隠密、看破、危機察知 ↑、毒耐性 ↑、精神耐性)


称号

『斬られ役』

(『侍マスター』『忍者マスター』『巻き込まれし者』)


[暗器]:木刀(大)、木刀(小)、酸毒蛇の牙


=====


(なるほど…こうなるのか)


 ステータスには色々と変化があった。

 まずレベルが5になった。能力値に” ↑ ” が付いていて” +40 ”と記載されている事から、レベルが1上がる毎に一律で”10”増えるようだ。だが、ベースの420は変化しないらしい。

 何故か『偽装』している方も上がっており、そちらには偽装後の”20+40”とは表記されず”60”となっている。


(…この世界の人間は違うのか?)


 もしかしたら、”20+40”のように表記されるのは、俺たちが『召喚された』存在だからなのかもしれない。勇者たちの分しか見た事がない上、あの時はレベル1だったから、今はこれ以上の判断は出来なさそうだ。


(他人のステータスも『看破』してみるか…)

 

 王国では”無能”を装う必要があったが、今後は無理にそうする必要はない。むしろ、まだまだ情報が足りない以上、積極的に使っていった方がいいのかもしれない。


(悪いが、まずは一般人から試すか)


 一般市民になら『看破』された事が発覚することは無いだろう。そう今後の方針を定めて、俺は更にステータスを確認していく。

 すると『気配察知』が『危機察知』に変化していた。毒蛇相手に何度も危険な目にあったからだろうか…もしかしたら『火遁の術』が発動する直前に進化したのかもしれない。

 更に『毒耐性』にも ↑ がついていたが、毒蛇に噛まれた記憶はない。


(…まさか、あの時の)


 そこまで考えて、毒蛇の血を思いっきり浴びた事を思い出した。おそらく、あの毒蛇の血には毒が含まれていたのだろう。


(耐性があって助かったな)


 何故俺にこのスキルがあるのかは、もう考えないでおく。多分、夏の撮影中にロケ弁が強い日射しで痛んでいたとか、そんなものだろう。今はただ、スキルの存在に感謝した。


(そういえば…)


 『忍術』が使えるようになった今、以前王宮で『看破』した時とは違う説明が出るかもしれない。そう思って『忍術』を改めて意識してみる。


=====

『忍術』

自分が具体的に想像が出来る”忍びの術”が使用可能になる。


[暗器][火遁][水遁][土遁][雷遁]

=====


 忍術の説明が変化していた。俺がスキルについて認識出来れば、それも『ステータス』に反映されるらしい。それなら『看破』や『偽装』なども『危機察知』のようにスキルが進化するかもしれない。


(検証が要るな…)


 まだまだ知らない事が多すぎる。この世界で生きる為には、もっと色々と試していかねばならなそうだ。『ステータス』についてもっと詳しく調べておきたいが、現在地も分からない以上、ここで時間をかけ過ぎるのは問題だった。

 確か、ルーンベルグの東門から出発して南下して来たから、この森は王都の東南にある筈だ。だが、毒蛇との戦闘で闇雲に移動したから、今はどの方向に進んでいるのか分からなかった。

 このままこの森で一晩明かすのは、さすがに危険だ。人里までどれだけかかるか分からない今、のんびりしている時間は無い。


(まずは、森を抜けるか)


 俺はそう判断して、全速力で移動することにした。木々の間を縫うように走りながら、身体の状態の確認の為に、時々忍者のように木から木へと飛び移る。

 レベルが上がったからか、あるいは『忍者マスター』の影響か、俺は軽く3メートルはジャンプ出来るようになっていた。


(…身体が、軽い)

 

 思った通りに――いや、思った以上に動く自分の身体に感動しつつも、どこか冷静な自分が待ったをかける。調子に乗るとロクな事にならないのは、長年芸能界で生きてきて何度も経験済だ。そうやって若い頃、何度も失敗をして師匠に怒られた事か。 


『…武士(たけし)くん。自分が出来ていると思っている時こそ、気を付けなきゃダメだよ』


 そう注意された師匠の言葉を思い出す。

 

(丁度いい機会か…)


 ただ移動するだけでは時間が勿体ない。だから俺は王宮では出来なかった、全力を出した上での身体制御の訓練をしながら進む事にした。

 少し移動速度を下げて周囲に気配を探りながら、同時に身体の隅々にまで意識を広げる――特にやることは地球に居た時と変わらない。これまで稽古を重ねてきたように、自分の身体が今どうなっているのか、どの筋肉を使っているのか、どれだけの力で動かしているのか、それを意識しながら動かすだけだ。 

 

 何度か何かの気配を感じる事もあったが、俺の速度には追い付けず置き去りにしたり、あるいは進路をずらして気配を避けたり――そんな風に森の中を急いで進んでいると、急に視界が開けた。

 

 ――ついに森を抜けたのだ。


---


 森を抜けたところで、俺はようやく一息ついた。移動しながら身体への意識と、スキル頼りとはいえ外への警戒と、かなり頭を使っていたので、さすがに疲れている。

 目の前には、行きと同じような平原が広がっていて、空は少しずつ茜色に染まりかけている。時刻はまもなく夕暮れ、といったところだった。

 

(さて、どこへ向かう?)


 地球と同じで太陽が西に沈むのなら、夕日を右手に進んでいけば南下できる。確かルーンベルグの南は五つの小国のひとつ、リベルタ自由都市だったはずだ。そこなら魔族の国と言われるゼノビア連合とも近く、なにか新しい情報が手に入るかもしれない。


(…南に行くか)


 俺は夕日の位置を頼りに、再び走り出した。

 誰に見られるか分からないので、ある程度は常識的な速さにしている。騎士団の隊服姿のままなのは正直気になるが、この世界では和服姿の方が目立ちすぎるだろう。幸い印章は森の中に置いて来たし、シンプルな黒いシャツなので、上着さえ無ければ大丈夫な筈だ。

 

 小一時間ほど走った頃だろうか…もはや夕日が傾き始めた頃、前方で何やら争っているような無数の影が見えた。


(どういう状況だ?)


 まずは状況を確認しようと、俺は『隠密』のスキルを意識して気配を消す。


(…よし、行ける)


 そのまま距離を詰めようと走る速度を上げると、『隠密』のスキルが解除されたのが自分でも分かった。


(…そういう仕様か!)


 どうやら『隠密』のスキルは、走ったら解除されてしまうらしい。仕方がないので再度スキルを使って気配を消し、今度は早歩きで距離を詰めようと試みる――早歩きなら大丈夫らしい。

 ようやく視認できる距離まで近づいた俺の目の前では、一台の馬車が盗賊に襲われていた。

 

 馬車から少し離れたところに何人か倒れていて、ピクリともしていない。おそらくは馬車の護衛なのだろう――ここまで血の臭いが漂っている事から、既に死んでいる可能性が高かった。

 

 盗賊の数は二十人くらいで、生きている護衛は十人満たないくらいか。護衛の方が腕が立ちそうだが、防戦一方で馬車を守るように囲んでいた。逆に盗賊の方は二、三人で護衛一人と戦っていて、その様子は何処か弄んでいるようにも見える。

 

(……惨いことを)


 その弱い者いじめのような光景に、怒りが沸々と込み上げてきた。

 俺は『隠密』を解除して近くに落ちていた石を拾うと、盗賊の一人に向かって投げつける。


「ぐわッッ!!」 

 

 石は思った以上の勢いで後頭部に当たると、そのまま盗賊は後ろ向きに倒れた。どうやら『投擲術』の補正が入ったようだ。


「何だ!?」

 

 突然の事態に、馬に乗った盗賊の頭らしき男が声を上げると、両者の動きが止まった。

 俺は馬車にゆっくりと近づいていき、途中で倒れた護衛が持っていた剣を借りる。ふと見れば、石が当たった盗賊は、泡を吹いて倒れていた。

 

「誰だ、テメェ!!」


 こんな奴らに名乗るつもりもない。

 怒鳴りつける男に、俺は剣も構えずに静かに答える。


「…通りすがりの、ただのおっさんだよ」

「はっ! そんな恰好で、正義の味方のつもりかよ!」

「そんな事より、なぜ命まで奪う? 荷物だけでいい筈だ」

「そんなの、一人でも逃がせば騎士団に通報されるからに決まっているじゃねぇか! 男は殺して女は売るんだよ!!」


 盗賊の頭の言葉に、部下たちが下卑た笑い声を上げた。


「この世間知らずが!!」

「誰か知らねぇけど、コイツからやっちゃいましょうよ!」

「そうだ! エゴンの仇だ!!」


 騒ぎ立てる盗賊たちの注意が俺の方を向く。

 すると護衛たちはこの隙に体勢を立て直すようだ。お互いに声をかけ合いながら集まっていた。


(それでいい)


 立ち尽くす俺に、じりじりと盗賊が近づいてきて――


「やっちまえ!!」


 頭の号令で、盗賊たちが一斉に襲い掛かってきた。


「遅い」


 俺は近くにいた一人目が剣を振り下ろすのを待たずに、鳩尾を殴りつける。

 悶絶する男を無視して、背後から近づいてきた二人目の不意を付いて、後ろ回し蹴りを放つ。それは盗賊の顔面に当たって吹き飛び、何人かを巻き込んで地面に倒れた。

 ようやく斬りかかってきた三人目の大振りの剣を避けて、金的を入れる。そのまま喚き声を上げる男を蹴り飛ばすと、また何人か巻き込んで地に転がっていく。

 『格闘術』のおかげで、こいつら相手なら剣を使わなくても余裕だった。『ステータス』の影響で、盗賊たちの動きが全て手に取るように解る俺には、負ける要素は何一つ無かった。


 そうやって盗賊の相手をしていると、体勢を立て直した護衛たちも加わり再び乱戦となる。

 だが数の優位が無くなり、俺という存在のせいで浮足立った盗賊では護衛たちの相手にはならず、みるみる内に形勢は逆転していく。


「…テメェのせいだ! テメェだけは許さねぇ!!」


 部下が次々と倒れていくのを見て、高みの見物をしていた頭がついに動き出した。馬を俺の方に向けて、馬の腹を蹴って突撃してくる。


「死ねぇ!!!」


 その勢いのまま、馬上から剣を振り下ろしてくる頭。その剣筋はそれなりに鋭かったが――


 ――ドガッ!!


 俺は、余裕で後ろに跳んでその一撃を躱すと、落ちていた石を頭に向かって投げつけた。鈍い音を立てて後頭部に石が当たり、そのまま奴は落馬した。


(…剣を使うまでも無かったか)


 落馬の衝撃で完全に気絶している頭を放置して、俺はそのまま残党たちの掃討に加わった。


---


「クヌギ様! 本当にありがとうございます! なんとお礼を言ったらいいのやら…」

「気にするな。困った時はお互い様だ」

「おぉ! なんというお人でしょう!! このエンリコ、感服いたしましたっ!!」  


 あの後、盗賊を全員縛り上げた頃に馬車から出てきた商人がこの男――エンリコ・ヴァレンティだった。リベルタ自由都市の商人で、アルカディア連邦で商いをしてきた帰り道だという。


「申し訳ありません。雇い主を危険に晒してしまって…」

「いえ。本来なら、この辺りに盗賊は出ないはずなのですが…油断しましたね」


 アルカディアで護衛として傭兵を雇ったという事だが――彼らを見ていてふと、疑問が沸いた。


「一つ聞きたいが、いいか?」

「はい! なんでしょう?」

「この護衛たちは、みな同じチームに所属しているのか?」

「全員傭兵ギルドに所属していますが、チームという意味ではバラバラです…それが何か?」

「いや……何故、盗賊がここに居たのか気になってな」


 彼らの装備が、同じような恰好をしている者と、点でバラバラな者の二種類なのが気になっていたのだ。そして目の前では、俺の話を聞いたエンリコの表情が変わった。


「まさか……いや、でも…」


 エンリコは何やらぶつぶつと呟きながら思案顔となる。彼もまた同じ疑問を抱いたのかもしれない。

 そう、傭兵の一部が盗賊と繋がっているのではという事だ。


「…クヌギ様。貴方の腕を見込んでお願いがあります」

「何だ?」

「リベルタまでの護衛を引き受けて下さりませんか? 勿論料金は弾ませていただきますので」 


 そうして打って変わって真剣な表情になったエンリコが、俺に手を差し出してきた。 


「…いいだろう」


(助かった…)


 内心とは裏腹に、俺は余裕を装ってその手を取り握手をした――交渉成立だ。

 エンリコは護衛を、俺はリベルタまでの道案内を、それぞれの目的が一致してくれて本当に助かった。


「それで、この盗賊たちはどうする?」

「では、私が馬で一足先に近くの宿場町に知らせてきます」

「それでは、この近くで野営ですね。クヌギ様は問題ありませんか?」

「あぁ、大丈夫だ」


 そうして護衛の一人が盗賊の馬に乗って駆けていく。もう日が落ちかけていたので、俺たちはここで一晩野営をする事になった。

 エンリコは馬車の具合を確かめ、俺は護衛たちの指示を受けて野営の準備を進めていく。その傍ら、護衛の一部は仲間たちの死体を埋めていた。そうして辺りはすっかり暗くなり、空には一面の星空が広がっている。


 簡単に食事を済ませたが皆、口数は少なかった。想定外の襲撃に心身共に疲れていたのだろう。

 そして、後片付けをして夜間の見張りの順番を決める。だが俺は助けてもらったお礼という事で、見張りは免除される事になった。

 さすがに一日中動き回って疲れていたので、ありがたく休ませてもらう事にする。寝袋に入って横になると、地球とは比べ物にならないほどの美しい星空が見えた。

 

(さぁ、始めようか。この世界の真実を知る旅を…)


 目を閉じるとすぐに睡魔が襲ってきて、意識が遠のいていく。



 ――その先に何が待っているのか、この時の俺には知る由もなかった。



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