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1-2 おっさん、事情を説明される

「おぉ…成功したぞ! 五人の召喚に成功した!」

「だが枢機卿、一人多くありませんか? 勇者は四人のはずでは?」

「ふむ…まあ、多い分には構わぬだろう。役立たずならその時はその時だ」

「…ならば、その時はいかがいたしましょう?」

「処分するかどうかは、後で考えればよい。まずは様子を見ようではないか」


 俺が気付くと同時に、物騒な言葉が聞こえてくる。

 どうやら床に倒れているみたいだが、声の主は俺の意識が戻った事に気が付いていないようだ。

 薄目を開けてみれば、目の前は石畳の床だった――どおりで冷たい訳だ。さっきまで、確かに大秦時代村の待機場所にいたはずだから、本来なら有り得ない状況だ。

 そのまま少しだけ視線を巡らせると、近くに袴姿の誰かか倒れているのが見えた。あの袴の色は、おそらくは早乙女さんだろう。

 あの光の円――魔法陣を見たせいか、「異世界召喚」という言葉が頭から離れなかった。

 それに先程聞こえた不穏な言葉から、最悪の事態を想定してしまう。俺がモーションキャプチャーの仕事で関わったアニメの中で、奴隷契約のようなものを結ばれた挙句、捨て駒扱いされた作品があったからだ。


(こういう時は…確か『ステータス』だったか)


 冷静になって心の中で念じてみると、頭の中にパソコンのウィンドウのようなものが現れた。


=====


タケシ・クヌギ

42歳 男

ジョブ:侍


レベル:1


力:420

技:420

速:420

体:420

魔:420

抗:420

運:420


スキル

剣術、抜刀術、忍術、投擲術、格闘術、偽装、隠密、看破、気配察知、毒耐性、精神耐性


称号

『侍マスター』『忍者マスター』『巻き込まれし者』


=====


(おいおい…レベル1でこの数値は、明らかにおかしいだろ)


 頭の中が、真っ白になった。

 職業(ジョブ)が侍なのは、おそらく地球での職業が殺陣師だからなのだろう。忍術なども、絡みの仕事で忍者もやっていたからだと推測は出来る。

 しかし、これでもゲームはそこそこやっていた方だ。その経験からすれば、レベル1でこの数値やスキルの数がおかしいのは分かる。


(…もしかして42歳だから420なのか?)


 数値だけではなく、称号というところにある『マスター』という表記も気になった。

 俺の技術はまだまだで小竹先生にも遠く及ばない。『マスター』なんて呼ばれるほどの自信はないからだ。更に『巻き込まれし者』というのは一体何の事だと、与えられた情報の多さに俺は内心焦っていた。その時――


「…うーん」

「…え、ここどこだ……」

「何だこれは!!」

「何! 何なのよ!?」


 どうやら四人とも”こちら”に呼ばれていたようだ。みんな今、意識が戻ったみたいで、それぞれが驚きの声を上げている。

 その声がまた、俺に冷静さを取り戻させてくれた。

 そういえば、アニメでこういう時のお決まりのパターンがあった事を思い出す。”仕事”で関わる以上、作品の雰囲気を知る為にと見始めたのだが、案外面白くて普通に観るようになっていたのだ。


「おお、勇者殿!!あなたたちをお待ちしておりました!!」


 ――その声が聞こえた瞬間、俺の警戒心が強まった。

 これでも長年、海千山千の芸能界にいた身だ。人を利用してやろう、という悪意にはそれなりに敏感になっていた。


「勇者? ……勇者って、あのゲームとかアニメの?」

「あ、もしかしてアレか!」


 早乙女さんはいきなりそう言われて戸惑っているようだが、神崎くんはどうやら状況に気が付いたようだ。彼は明らかにテンションが上がっていた。


(皆には悪いが、用心しておくに越した事はないか)


 俺は自分のスキルの中の『偽装』という表情に意識を向ける。

 こういうものはお約束のはずだ。俺の予想か正しければ恐らく――予想があたったのだろう。頭の中で、自分の『ステータス』の表情を変更出来るイメージが浮かび上がる。

 今の俺にはこの世界のレベル1の数値が、どれくらいが普通なのか想像が吐かない。だが低ければ低い方が利用されにくくなるし、都合がよさそうだった。


(これくらいにしておくか)


=====


タケシ・クヌギ

42歳 男

ジョブ:芸人(侍)


レベル:1


力:20 (420)

技:30 (420)

速:20 (420)

体:20 (420)

魔:10 (420)

抗:10 (420)

運:10 (420)


スキル

死んだふり

(剣術、抜刀術、忍術、投擲術、格闘術、偽装、隠密、看破、気配察知、毒耐性、精神耐性)


称号

『斬られ役』

(『侍マスター』『忍者マスター』『巻き込まれし者』)


=====


 どうやら()内の表記は他人には見られないようだ。

 これで様子を見て、もしあまりに標準と違うようならこっそり変更しておけばいい。

 

 ジョブを芸人にしたのは戦国時代、忍びは芸人に化けて諸国を渡り歩いていたという話を聞いた事があるからだ。

 お約束の展開なら、ステータスの確認がこの後あるはずで、その時に役立たずの印象を持たれたい。俺の杞憂であってほしいが、今の状況を楽観視は出来ない。


「……ん、何が起きた?」


 俺もたった今気が付いたように装い、目を開けた。皆、衣装のままで石畳の上に座り込んでいて、さらに俺の腰には大小二本の竹光が差さったままだった。

 ここはどうやら円形の広間のようで、石畳には直径十メートルほどの魔法陣が描かれている。天井から鎖で吊るされた巨大なシャンデリアが、ぼんやりと部屋を照らしていた。

 

 そして目の前には、二人の男が立っていた。

 一人はカソック――地球では神父が着ている服によく似た黒衣を着ていて、見るからに宗教関係者だとわかった。立派な白い髭を蓄えており、その態度から見てかなり上位の立場なのが伺える。

 もう一人はいかにも貴族といった格好だ。フリルの多いシャツに、燕尾服のような上着を羽織っている。こちらも髪には多くの白いものが混じっていて、それなりの高齢だという事が伺えた。


「あ、おっさん!」

「功刀さん!?」

「ちょっと、おっさん! マジわけわかんないんだけど!!」

「……ふん」


 四人とも俺には気づいていなかったようだ。三人が口々に騒ぎたてるが、天童だけは腕を組み、無言でじっと俺を睨みつけてくる。俺が口を開こうとしたその時、宗教関係者と思われる男が前に出た。


「私はイグナティウスと申します。このルーンベルグ王国で、光明(こうみょう)教会の枢機卿を務めております。隣の男はこの国の宰相でアルフレッド。異世界の方々、どうか我々の国を救っていただきたい」


 そう言って二人は恭しく頭を下げた。


---


「遥か昔、ここルーンベルグ王国はローランド帝国と呼ばれていました。その栄華は魔族の侵攻により分断され、多くの領土を奪われたのです」

「…魔族の、侵攻?」


 そう聞き返す早乙女さんの表情は硬かった。現代人の彼女には、馴染みのない内容だったからだろう。

 だが、イグナティウスは彼女の様子を気にする事もなく説明を続ける。


「そうです。邪悪なる魔族どもは、ゼノビア連合と名乗り、神聖なる我ら王国に牙を向いております。このままではこの世界エルディラントは、魔族に支配されてしまいます。なので創世神クレアトル様の御意思の元、皆様をお呼びしました」


 延々と語るその表情は誇らしげだった。まるで、俺たちが望んでこの世界に来たと思い込んでいるように。

 それに相反するように、宰相アルフレッドは黙って隣でこの会話を聞いている。


 ――だが、そんな枢機卿に向かい、突然詰め寄る男がいた。


「ふざけるな! 今すぐ元の世界に戻せ!」


 天童が声を荒げる。


「俺には大事な現場があるんだ! 映画の主役なんだぞ!

 こんなふざけた悪戯に付き合っている暇なんかない!!」


 天童は怒りも露わに、イグナティウスに向かって牙をむく。

 すると早乙女さんと氷室も、彼に続いて断罪の声を上げた。


「…帰してください」

「そうよ! アタシたちには関係ないジャン!!」


 その剣幕に、枢機卿は一瞬たじろぐ。

 だが、すぐに何かに気付き、穏やかな笑みを浮かべた。


「お気持ちはわかります、勇者殿。ですが――」

「すまないが、それは出来ないな」


 ――その時、広間の扉が開く重い音がした。

 

 音がした方向に視線を送ると、そこには煌びやかな服装の男が、甲冑を纏う騎士を引き連れて立っていた。肩には赤いマントを身に着けていて、頭には王冠を被っている。


(まさか、この男は…)


「儂はこのルーンベルグの王、エドヴァルト七世だ。勇者たちよ、残念ながら魔族の王を倒さなければ、元の世界には戻れぬ」

「何でよ!」

「魔王を倒せば、創世神クレアトル様のお力で元の世界に戻れるだろう」

「そんな…」


 王の言葉に、絶句する早乙女さんたち。

 俺は黙ってそのやりとりを聞いていた。いかにも最もらしい理由だが、王国側からだけの情報ではそれが真実なのか判断するのは危険すぎる。下手をすれば、全く立場が逆の可能性があるからだ。


「拒否したらどうなる?」

「それならそれで構わないが……いいのかね? 元の世界に帰りたいのだろう?」

「くっ…」


 エドヴァルド相手だと、天童も分が悪かった。さすがは一国の王といったところか、まだ二十歳そこそこの若者で太刀打ち出来る相手ではないようだ。


「さて、ここでこれ以上話をするのも何だ。場所を変えようではないか。其方ら、名は?」

「神崎隼人だ!」

「…早乙女蓮です」

「天童麗司」

「氷室鏡華よ」

「功刀だ。功刀武士。姓が功刀で名が武士だ」

「そうか、わかった。では皆の者、儂に着いて来い」


 王の宣言を聞いて、騎士たちがその手に持つ槍を一斉に床に叩きつけた。

 その迫力にビクッとなる四人――これは武力行使も辞さない、という意味だろう。今は流れに任せるしか手はない。


「とりあえず、行こう。今は逆らわないほうがよさそうだ」


 俺がそう促すが、早乙女さんは不安げに俺を見つめてきた。


「功刀さん…大丈夫でしょうか」

「あぁ、大丈夫だ。落ち着いて行動すれば、必ず道はあるさ」

「おっさん、なんか頼もしいな!」


 俺の言葉に、早乙女さんは少しだけ安心したようだった。今まで堅かった表情が少し解れている。

 対照的に神崎くんは明るく笑っていて、どうやらこの状況を楽しんでいるようだ。


(この状況でも前向きなのは、いいことか…若いな)


 一方、天童と氷室が逆に何かを考え混んでいるようで、無言のままだった。


---


 王は颯爽と振り返り、先頭を歩き出した。

 俺たちは騎士たちに挟まれて、そのまま移動を始める。長い長い石畳の階段を上る間、誰も口を開かなかった。

 やがて階段を登りきると、赤い絨毯の敷き詰められた廊下に出た。廊下を飾る柱の一本一本に彫刻が彫られていて、ところどころに豪華な美術品が飾られている。


 ――そう、俺たちが召喚されたのは、贅の限りを尽くした王宮の地下だったのだ。


「この部屋で、しばし待て」


 俺たちは、とある部屋に連れて来られた。

 王は枢機卿と宰相を連れて何処かへと向かうが、騎士が二人残った。そして扉の内外にそれぞれ一人ずつ立っている。

 案内された部屋は、客間なのだろう。やはり贅沢な調度品や絵画などが飾られている。ふと見れば四人は部屋の豪華さに圧倒されているようだ。

 勿論、俺も例外ではない。確かに何度かは、撮影で豪華なホテルに泊まった事はある。だが、それとは比べ物にならないほど豪華なこの部屋は、居心地が悪く落ち着かなかった。

 更に王宮のメイドが五人分の飲み物を持ってくると、部屋の豪華さと相まって四人とも完全に場の雰囲気に呑まれていた。


(完全にあちらのペースか…まずいな)


 内心この状況を苦々しく思っているが、努めて冷静を装う。勿論何が入っているか分からないので、出された飲み物には手を出さない。

 近くに居る四人も緊張のせいか、ただ椅子に座って固まっていた。


(さて、どうする…)


 そういえば、俺はここで『ステータス』に『看破』という表示があった事を思い出す。もしかしてこれなら色々と調べられるかもしれないと思い、試しに目の前の紅茶と思われる飲み物に向かって『看破』と念じてみた。


===

紅茶(品質:上)

高級な茶葉を使った紅茶

===


 期待通りの効果が現れた事に、俺は安堵する。

 どうやら毒や変な薬は入っていないらしい。この後の展開がどうなるかわからないが、今のままの雰囲気に呑まれていたら、色々と不利なのは間違いない。

 俺はテーブルの上の紅茶に手を伸ばし、一口飲んだ。


「…うん、旨いな」

「功刀さん!?」

「大丈夫だ。仮にも俺たちは「勇者」なんだろう? 変な薬を入れるとか、失礼な事はしないはずだ」


 俺がそう言いながらメイドの方を見ると、彼女はにっこりと微笑んだ。

 それを見て少しは緊張が解けたのだろう。四人ともおずおずと紅茶に手を伸ばす。


「おっさん、これ旨いな!」

「ああ」

「ちょっとだけ…ほっとしました」

「そうだな」


 早乙女さんと神崎くんとは短く言葉を交わすが、あとの二人は無言のままだ。


(…やれやれ、どうしたものか)

 

 ふと、見張りの騎士を『看破』しようと一瞬考えたが、相手か"視"られた事を感知出来るかもしれないと思い、途中で止める。

 そんな事を考えていると、ふいにノックの音が響き、扉が開いた。


「お待たせいたしました」


 凛とした女性の声が聞こえる。

 振り返ると、そこには美しい女性が、枢機卿と共に立っていた。金色の髪を優雅に結い上げ、深い青のドレスを纏っている。その立ち姿は気品に満ち、まるで絵画から抜け出してきたようだった。


「初めまして、勇者様方」


 彼女は優雅に一礼する。


「私はエリザベート・フォン・ルーンベルク。この国の第一王女にございます」


 

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