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3-3 おっさん、虎穴に入る

「…おや、またお会いしましたね?」


 背後から声をかけられた俺が振り向くと、そこには商業ギルドで会ったマッシモが居た。

 彼は大げさに両手を上げると、嘗め回すように俺を見て、そしてニヤリと笑った。


「確か、クヌートさん…でしたっけ? 最近飛び級をしたという話題の」

「そうだが?」

「エンリコさんとも仲が宜しいみたいで?」

「それがどうした?」

「いえいえ、私もヴァレンティ商会さんとは仲良くさせていただいておりますので」

「そうは見えなかったが?」

「おや、誤解ですよ。ウチの薬も買っていただいてるお得意さんですから」


 そこまで言うと彼がサッと手を挙げた。すると路地から黒いフードを被った人影が三人ほど現れて、その手には小瓶を持っていた。トラブルを恐れてか、既に周囲から人の気配はしない。


「こちらが、その薬なんですがね。どうです? お一ついかがですか? 今ならサービス致しますよ」

「結構だ。あいにくと健康なんでな」

「いえいえ、そうはおっしゃらずに」


 マッシモがそういうと、周りの男が小瓶の蓋を開けた。すると中から何やら香草を更に燻したような臭いがしてきた。


(…当たり、か?)


 もしこれが原因だとしたら、小さな子供がこれを変な臭いだと言ってもおかしくはない。だが、マッシモが話している内容が本当の事だとは限らない。薬の実物を見た事が無い以上、別の薬である可能性も当然ある訳だ。


「どうやら、私どもの”商売”に興味がおありのようですし、これからゆっくりと説明させていただきますよ、クヌートさん?」

「ほう?」


 マッシモがそこまで言うと、フードの三人が手に持った小瓶を俺の足元に投げつけてきた。すると瓶が割れて俺の周りを変な臭いが充満する。

 

(これは…何だ?)


 マッシモはハンカチをポケットから取り出して口を覆っていた。フードの男たちはそもそも口元が隠れているし、毒ガスのようなものだろうか。


(『看破』)


 俺が『看破』を使って自分の周りの空気を調べてみる。Dランクになった事で、俺には街中でスキルを使う許可が降りていたのだ。


=====

睡眠香(強)

香りを嗅いだ生物を眠らせる。独自に改良されている。

=====


(なるほどな)


 会話で時間稼ぎをしながら、俺を眠らせて拉致をしようとした訳だ。つまり、俺の予想はどうやら当たっていたらしい。だが、街中で堂々とここまで強硬手段を取ってくるのが解せなかった。そこで俺は、先日のヴェレーノたちの一件を思い出す。オンブラが持っていた弓矢は、この商会から買ったものだったはずだ。


(伝手、か)


 盗賊ギルドと繋がっているとしたら、これくらいの行為は問題なく揉み消せるという事だろうか。マッシモはどうやら手慣れている感じだし、おそらくそういう事なのだろう。


(…行ってみるか)


 俺には毒耐性があるからか、いつまで経っても眠気が来る気配は無かった。このまま抵抗してもいいのだが、せっかく色々と”説明”をして貰えるそうだし、寝たふりをしてアジトに案内してもらうのも有りかもしれない。

 勿論、命の危険はあるが、事態は一刻を争う。ここは多少のリスクを取ってでも流れに乗る方が良いように思えた。


(…虎穴に入らずんば虎子を得ず、か)


 俺は覚悟を決めて、このまま拉致される事にした。


「何だ、これは?」

「ふふふ、ウチの特注品ですよ」

「くそ、眠気が…」


 俺は地面に膝をついて、そのまま倒れ込み目を閉じる。万が一襲われるなら危機察知のスキルが教えてくれる筈だ。すると、俺は何かを被せられて、そのまま持ち上げられた。


「さて、エンリコがどんな顔をするか楽しみですね」


---


「ここでしばらく眠っていろ」


 そう言い残し、俺を運んできた男が何処かに俺の身体を投げ捨てた。俺はそのまま床に叩きつけられてしまう。ご丁寧に手足を縛られているので、受け身をとる事も出来なかったのだ。

 男が部屋から出ていくと、外からガチャ、と鍵を閉める音がした。そして足音が離れていくと、俺は一人部屋に残される。


(…どうする?)


 剣を持ってはいたが、こちらも当然奪われてしまっている。『忍術』があるから縄抜けくらいは問題がなさそうだが、果たしてどう動くべきか。


(説明、か)


 強硬手段に出た以上、俺を素直に返すつもりは無いだろう。口封じの為に殺すつもりなのか、はたまた別の何かを考えているのか分からないが、どう転んでもただで済むとは思えない。ここまでくれば、マッシモの薬が病と関係しているのは間違いない筈だ。ルカたち患者の事を考えれば、マッシモの薬以外の治療法を探る必要がある。


(魔法でも無理だったとか…)


 確か、最初に話を聞いた医者が、解毒魔法を試したと言っていた。術者のレベルのせいか分からないが効かなかったと聞いている。


(そもそも、ここは何処だ?)


 目隠しをされていたので、何処に連れて来られたのかも分からない。俺が長時間姿を見せなくなれば、エンリコが騒ぐのは目に見えている。マッシモだってそのくらいは理解している筈だ。ならばその前に俺をどうにかするつもりだろう。


(動くか…)


 ここは後手に回るより、先手を打った方が良さそうだった。俺が早速縄を外そうと両手に意識を集中させると、スルっと縄が外れて床に落ちた。何故か足を縛っていた縄も外れている。


(…結果オーライだ)


 相変わらずの『忍術』の謎仕様に頭痛がするが、俺は立ち上がって改めて部屋を見回してみる。薄暗いこの部屋には、俺が外した縄以外は何も無かった。床が擦り減っている事から、人の出入りはあるのだろう。窓も無い事から、恐らく倉庫のような部屋なのだと推測出来る。


(部屋を出るか)


 特に部屋の外からは人が居る気配は感じない。俺は念のため縄を『空蝉』で回収すると、ドアに近づいてノブを握った。鍵が掛かっているのは知っているが、『忍者』なら鍵開けも得意な筈だ。縄抜けが出来たのなら――


(開錠)


 そう心の中で念じるとガチャ、と音がして、鍵が開いた。俺がそのまま部屋を出ると、一番奥の部屋に居たようで、廊下が真っすぐに伸びている。その先の角から薄暗い廊下に光が漏れていたので俺は『隠密』のスキルで気配を消して、明かりの方へと向かう。ここまで誰の気配も感じないが、用心するに越したことはない。

 角を曲がると、内側の壁には扉が二つ並んでいて、その先は上り階段があった。


(…どっちだ?)


 階段を上るか、部屋を調べるか、俺が悩んでいると階段の上から人が来る気配がする。


「そろそろ起きている頃でしょうかね」

「そうだろうな」

「さて、何処まで耐えてくれますかね」

「Dランクとはいえ、たかがおっさんだろう? 無理なんじゃないのか」

「まぁ、そうでしょうけど」


 階段を降りてくる二人の声がする。その内の一人がマッシモなのは間違いが無かった。俺は様子を見る為に飛び上り、両手両足を広げ天井に張り付くと、隠密で気配を隠して下の二人が通り過ぎるのを待った。そうして、マッシモたちが俺が居た部屋に行くのを見届ける。


「居ない! そんな馬鹿な!?」

「おい。探すぞ!」 


 慌てて部屋を出てきた二人が、俺の下にあるドアを開けて、中に誰も居ない事を確認する。


「くそ、どうなっていやがる」

「まだ中にいる筈です。外にさえ出られなければ間に合います」


 二人が、ドタドタと階段を上がっていくのを見て、俺は天井から降りて後を追う事にした。


---


 階段を上ると、空間が広がっていた。何やらテーブルが並んでいて、その上には壺やら何かの薬草をすり潰した粉やら色々なものが散乱しているが、マッシモたち以外の人影は見えない。二人は広間の奥の方にある部屋に急いで走っているので、俺は気配を消したまま後を付けていく。途中で机の上を調べるのも忘れない。


=====

アルカナ草

人の精神に作用する効果がある草。量には注意が必要。

=====


(精神に作用?)


 これが、恐らくマッシモの薬の原材料なのだろう。確かに病の症状を抑える効果があるのは判明している。だが、精神に作用という説明が気になった。以前ハーブティーを見たときは


=====

ハーブティー

精神を落ち着かせるハーブが使われている。

=====


 と書かれていたからだ。”作用”という言葉では、良いようにも悪いようにも働きかけるとも捉えられる。


(…少し貰っておくか)


 証拠の一つとして、アルカナ草を少しだけ『空蝉』に仕舞うと、俺は二人の後を追うと、マッシモたちが丁度、ある部屋のドアを開けるのが見えた。


「おい! あのおっさんが居ないぞ?」

「…は? 嘘だろ?」

「ええ。縄もありませんでした」

「だって、見てないぞ?」

「どうします、ルシアーノ?」

「おい、お前たち。まだ外には出ていない筈だ。探せ」

「行くぞ、ロッシ」

「くそ、わかったよ」


 ルチアーノと呼ばれた男は、身長が俺より高い、顔が傷だらけの男だった。黒い上下の服が筋肉で盛り上がっていて、鍛えられているのが分かる。残りの二人の男は見るからに下っ端という感じで、おそらくマッシモの手駒なのだろう。


(…薬の工場といったところか)


 俺を探しに慌てて子分達が部屋を出ていくのと入れ替えるように、マッシモたちは部屋の中へと入っていく。気配を消したまま、俺はドアの前に張り付いて、中の様子を探った。


「もし外に逃げられたらどうする?」

「その時は仕方ありません。またあの人に頼みますよ」

「あまり盗賊ギルドに借りを作りたくはないが」

「他に手段が仕方ありません」

「そうなんだがな」

「大丈夫です。今までも上手く行ってきたのですから」

「そうだな」

「ええ。とりあえず仕事を済ませてしまいましょう」

「わかった」


 そこで会話が聞こえなくなり、何やら作業をするような音が聞こえてきた。しばらく様子を探っていると、工場中を見て回ってきたのだろう、子分二人がドタドタとこっちに戻って、部屋のドアを開けた。


「マッシモさん、何処にも居ません!」

「入口の鍵を閉まったままでした!」

「…という事は」

「ええ。まだ中にいますね」


 子分たちの報告を受けると、マッシモたちは頷いた後、そのまま椅子から立ち上がった。俺はその隙をついて部屋に侵入する。


「三人は引き続き捜索を。私はあの人のところに行ってきます」

「分かった。行くぞ」

「はい」


 マッシモたちは部屋を出ると、ドアを閉めて二手に別れたので、俺は改めて部屋の中を調べる事にした。部屋の壁には棚が並んでいて、棚には小瓶が大量に置いてある。中には桃色の液体が入れられていた。


(…これか?)


=====

アルカナ滴

フェーロ商会が売っている夢見病と呼ばれる病の特攻薬 アルカナ草が原料。 

=====


 俺が小瓶に『看破』をかけるとそう説明が出たが、妙な空白が気になった。普通は最後に”。”が必ずついているからだ。こんな事は初めてだった。


(もっと調べられないか?)

 

 剣術の説明を見た時みたいに、”特効薬 ”の部分に意識を集中する――どれくらいそうして居たか、周りの気配も感じられない程に極限まで集中をしていると、突然視界にノイズのようなものが奔り、俺は驚きのあまり一瞬目を瞑ってしまう。

 だが、自分の中で一つ”壁”を超えたような、確実に何かが変わった感覚があった。俺が再び目を開けて薬を見ると、そこにはこう表示されていた。

 

=====

魂蝕薬(こんしょくやく)

アルカナ草にあるハーブを混ぜる事により偶然発見された、飲んだ相手を精神を蝕む薬。気化させた煙を吸う事により、夢見病に罹る。液体のままで飲めば症状は治まるが、依存性が高くやがて薬を飲まなければいられなくなる程、中毒性がある。これは呪いの一種なので、解呪をしなければ治らない。

=====


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