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2-6 おっさん、実績を積む

 俺は木の上で、ルーカスたちの様子を確認しながら、盗賊の仲間が来ないか警戒していた。

 やがて、広場の砂埃が収まっていくと、彼らの表情が驚きに満ちる。


「嘘…」

「…何が起きたんだ?」


 ルーカスは呆然としたまま周囲を見回している。魔法使いの女性もまた、地面に座ったまま混乱から立ち直っていなかった。

 彼らの周囲には、盗賊たちが気絶して倒れている。殺されると覚悟していたのに、次の瞬間にその相手が全員倒されていれば、混乱するのも無理はないだろう。


「…誰が……助けてくれたの?」 

「そんなことより、今のうちに逃げよう!」

「ブルーノの言う通りです。…ジュリア、立てますか?」


 状況を理解した盾役の男――ブルーノは我に返ったようで、冷静に判断を下す。すると、僧侶姿の女性も立ち上がって、魔法使いの女性に手を差し伸べていた。


「ルーチェ…ありがとう」


 ジュリアと呼ばれた女性が、その手を取って立ち上がるのを見て、ブルーノはルーカスの肩を叩いた。


「ほら、ルーカス! 逃げるよ!」

「あ、ああ…」


 彼に喝を入れられて、ルーカスもようやく我に返ったようだ。改めて周囲の様子を確認してからメンバーの顔をぐるっと見た。


「…でも本当に、何があった?」

「わからない…突然視界が真っ白になって…」

「砂嵐みたいでしたね」

「…でも、そんな魔法知らない…」


 四人が不思議そうに顔を見合わせた。


「とにかく! ギルドに報告に帰ろうよ」

「…そうですね」

「ええ。縛るものが無いのが悔やまれますが…」


 盗賊たちが気絶しているだけなのに気がついているのだろう。僧侶のルーチェが奴らが逃げないか心配をしていた。


「仕方ないさ。今は報告するのが先だ」

「だから、最初からそう言ってたんだけど?」

「うっ…すまなかった」

「いいから…早く帰ろう?」

「そうですね。悔やむのは後にしましょう」


 四人とも最後にもう一度盗賊たちを見てから、安堵の表情で歩き始めた。


「…誰だか知らないが、助かった。ありがとう」


 ルーカスが誰もいない森の中に向かって頭を下げると、あとの三人もそれに倣った。


「マルコは無事かな?」

「アイツの足なら大丈夫だろう」

「…そうですね」


 そんな事を話しながら、ルーカスたちの姿が見えなくなるまで静かに見送る。

 森の中を歩く四人の足取りは軽かった。


(…なんとかなったか)


 俺はその様子を見届けて、安堵の息を漏らした。今回はぎりぎり間に合って、命を奪う事も失う事も無かった。だが次も上手くいくとは限らない。いつかは命のやりとりを経験する時が来ると改めて実感したからだ。

 だが[風塵]が発動出来たことで、『忍術』の新しい可能性を発見することが出来たのは良かった。

 具体的に想像出来て、且つ本心から必要だと思った時に、発動するようだ。これなら『収納』もできるかもしれない。

 俺は木から飛び降りて、気絶している盗賊の一人の前に立つと、首に巻いているフードに目を付けた。そして、それに触れて武器のように『収納』するイメージを思い浮かべるが、何も起こらない。想像が具体的ではないのか、それから何度か試したものの、結局『収納』する事は出来なかった。


(…何が違う?)


 思い返せば、竹光の時は、王国に奪われたくないという気持ちがあった。火遁も、風塵も、必要に駆られた時だからこそ発動していた。だが、盗賊のフードが対象では発動しないのは、本心から『収納』したいと思っていないからだろう。


(そう上手くはいかないか…)


 日が暮れようとしているし、仲間が来る可能性もあるので、あまり時間をかけても居られない。

 俺は一先ず『収納』のことは一旦置いていき、街に戻ることにした。


---


「遅かったな」

「なかなか見つからなくて、ムキになってな」

「残念だったな」


 北門の衛兵とそんなやりとりをしてリベルタへと戻ってきた俺は、そのまま宿に戻ることにした。

 おそらく今日の件でギルドは大騒ぎになっているだろうし、そもそも俺は何もしていない事になっている。様子を見に行くのも不自然だと思ったからだ。


「…おや、遅かったね?」

「あぁ。初仕事だったからちょっと手間取ってな」

「まぁ、最初はそんなもんさ。ケガがないだけマシだよ」

「まったくだ」

 

 宿の扉を開けると、夕食のいい匂いが鼻を刺激してきた。結局街の外に二度も行く事になり、盗賊たちを相手にした事で腹が減っていたらしい。


「夕飯を貰えるか?」

「あぁ、いつでもいいよ」

「なら、すぐに戻る」


 鍵を受け取り部屋に荷物を置いた俺は、すぐに食堂にとんぼ返りした。だが荷物を降ろしたはずなのに、何故か足が重く、妙な疲労感がある。食堂に着くと、ちょうどロザが奥の厨房から出てくるところだった。


「よっぽど腹が減ってるみたいだねぇ」

「一日中動いていたからな」

「ほら、たんとお食べ」


 今日のメニューは白身魚のムニエルに、野菜がごろごろ入ったスープ、そして例によって黒パンだった。ロザの作る汁物の味が濃い目のせいか、黒パンの固さが逆に合っていて、食が進む。

 あっという間に食べ終わると、俺は席を立ってロザに礼を言って部屋に戻った。すると余程疲れていたのか、すぐに眠気が来たのでベッドに倒れこむ。


(…なんだ、この疲れは)


 そのまま目を閉じると、すぐに意識が遠のいていき、気がつけば朝になっていた。窓から差し込む朝日が眩しい。俺が身体を起こすと、昨日の妙な疲労感は消えていた。


(…あのまま寝てしまったのか)


 ロザに朝の挨拶をし、桶に身体を拭く水を貰って部屋に戻る。そうして身体を拭いていると、ふと疑問が沸いてきた。王宮の訓練もそれなりにハードだったが、ここまでの疲労感は感じなかった。だが、リベルタについてからは妙に疲れているような気がする。


(体力が落ちた…いや、そんなはずは)


 王宮時代の時と、今の生活との大きな差を考えてみると、思い浮かぶのはただ一つだった。


(…『忍術』か?)


 思えば、エンリコと助けた日も毒蛇(アシッド・ヴァイパー)との連戦だったし、あの日はすぐに眠ってしまった。昨日も依頼とルーカスの救助で忍術を多用している。もしかしたら『忍術』は体力をかなり消耗するのかもしれない。


(いっそ、数値で見れれば楽なんだが)


 ゲームのように『ステータス』があるのなら、体力や精神力みたいに数値で表してくれてもいいのだが、あいにくこの世界のステータスには、その項目は無い。


(…スキル全般に言えることかもな)


 スキルのような便利な力を、無制限に使えるというのも普通に考えればおかしい。おそらく何かしらの限界があるはずだ。戦闘中に倒れでもすれば、それこそ命取りだ。なら、自分で限界を見極める必要があるだろう。


(また課題が増えたな…)


 俺は思わず肩をすくめると、身体を拭いたタオルを絞って身支度を済ませて部屋を出る。

 そして桶ごとロザに返して朝食を採った後、ギルドへと向かった。


---


「あ! クヌートさん! 昨日ルーカスさんたち無事に戻ってきましたよ!!」

「そうか。無事でよかったな」

「はい!」


 ギルドに入るや否や、俺を見たレイラが開口一番に報告してきた。

 厳しいことは言いながらも、なんだかんだで心配していた彼女の声が明るいのも無理はない。

 俺はできるだけ自然な反応を心がけた。

 

「そのかわり無茶をしたペナルティとして、全員一週間の謹慎と、街のゴミ拾いです!」

「命が助かったんだ。軽いものだろう」

「そうですね」


 レイラの本当に嬉しそうな表情を見ていると、昨日の己の行為を少し誇りに思う。

 あの状況では、彼らが助かる事はなかっただろう。何もせずにいたら、後悔していたに違いないからだ。そんな事を考えていると、レイラがじっと俺を見ている事に気づく。


「どうかしたか?」

「…クヌートさん、じゃないですよね?」

「何がだ?」

「いや、ルーカスさんたち、誰かに助けてもらったって言ってたんですよね」

「ほう?」

 

 一瞬、心臓がドクンと跳ねたが、あくまで冷静を装う。


「突然視界が白くなって、気が付いたら盗賊たちが気絶していたって」

「たまたまお節介な冒険者が通りがかったんじゃないか?」

「でも、ルーカスさんたちの件を知っていたのは、あの時ギルドにいた人間か、自警団だけのはずなんですよ」

「なら自警団じゃないのか?」

「自警団は、動いてないんですよ」


 レイラがじっと、俺を見る。


「それに、ジュリアさんもそんな魔法知らないって」

「そもそも、俺はただの剣士だぞ?」

「それはそうなんですけど、クヌートさんのスキルを知りませんし…実は魔法剣士だとか!」


(…さすがギルド職員)


 強ち間違っていないその鋭い指摘に、心の中で苦笑する。


「なら『鑑定の水晶』で見てみるか? タダなら見せてもいいぞ」

「それは…うーん、でも」


 冗談のつもりで言ったのに、レイラはそれを真面目に受け取り考え込んでしまった。


(…おいおい)


 それはダメなんじゃないかと内心で彼女に突っ込みを入れる。こちらとしては『偽装』しているし、別に見られても問題はないのだが、昨日あれだけギルドの規則について言っていたのに、さすがに示しがつかないだろう。


「…冗談だぞ?」

「え? 今本気でポケットマネーから出そうと悩んでましたよ?」

「そこまでか?」

「なんて、冗談ですよ」


 にこやかに笑うレイラだが、その目を見れば半分本気だったと感じられるので、俺は話を逸らす事にする。


「なんにせよ、無事だったんだ。それでいいじゃないか」

「…そうですね」

「それじゃ、依頼書を持ってくるよ」

「はい! お願いします」


 背中に彼女の視線を感じながら、俺は掲示板へと向かった。


---


 それから一週間――俺は毎日リベルタの内外で依頼をこなしていた。


 ある時は迷子探し。孫を見失った祖母がギルドに駆け込んできたのがきっかけだった。市場で買い物をしていたら、いつの間にかはぐれていたらしい。

 俺はすぐに市場を歩き回ったが、時間帯からも人の気配が多くて難しい。結局二時間かけて歩き回り、運河の近くで泣いている少年を発見した。


「おばあちゃん……」

「すぐ連れて行ってやる」


 少年を連れてギルドに戻るとすぐに、老婆が駆け寄ってきた。涙を流しながら少年を抱き締める。


「本当に、本当になんてお礼を言ったらいいか!」

「気にするな。…もう手を放すんじゃないぞ」

「うん。おじさん、ありがとう!」


(…悪くないな) 


 ある時は街の薬師の依頼。西の森で赤い花の薬草を採ってきてほしいというものだった。

 詳しい生息地を聞いて森へと向かうと『看破』を使いながら、ほかの薬草もついでに採取していく。


「おぉ! これも上質だ!!」


 薬師は満足そうに頷き「追加料金を払う」というので、そのまま全部渡した。


 ある時は荷物運び。港まで荷物を運んでほしいという商人からの依頼だった。

 重い荷物を運んで、彼の店から港まで荷物を慎重に運ぶ。壊れ物なので、馬車は使えないとの事だった。


「おっさん、意外と力あるな?」

「年の功ってやつですよ」


 世間話をしながら、港へと歩いていく。


「最近、ルーンベルグ王国が戦支度を進めているらしい」

「へぇ…」

「どうやら周辺諸国に圧力をかけ始めたとか」

「そうなんですか」

「まぁ、リベルタには関係ない話だがな」


 そういって商人は笑っていたが、俺は内心穏やかではなかった。


(…ついに動くのか)


 そうして、あまり人気の無い依頼を受けながら、旅の資金と情報を集めていった。俺が王国を離れた理由の一つが”真実”を知る事だ。本来の目的を忘れた訳ではない。 


 あっという間に一週間は過ぎていき――次の日の朝。


「クヌートさん、ランクアップの審査を受けてみませんか?」


 ギルドに入ると、レイラが笑顔で待ち構えていた。 



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