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2-4 おっさん、初依頼を受ける

 翌朝、ロザの朝食を食べた後に、俺はギルドへと向かった。


「早いね? 仕事かい?」

「そんなところだ」

「気を付けなよ?」

「あぁ、行ってくる」


 そんなやりとりをしてから、俺は宿を出る。

 昨日、宿へ戻る途中に古着屋があったので、そこで服を買っておいたのだ。いつまでも王宮騎士団の隊服では目立つと思い、それを着ている。

 腰にはエンリコを助けた時に、護衛から借りた剣を吊るしていた。あの後ジョンに確認したが、遺品は別にあるから、命を助けて貰った礼としてそのまま使っていいと言われたからだ。

 背中には、いつもの背負い袋を背負っている――服以外、特に何も変わっていないのだが、あまり無駄使いをする訳にはいかないので、しばらくはこのまま使い続けるつもりだ。

 

 中央広場は朝から活気に満ちていた。

 どこからかパンを焼く匂いが漂ってきて、子供たちは笑顔で走り回っている。


(こんな光景も悪くないな)


 そんな光景を眺めながら、中央広場を抜ける。

 ギルドの前に着くと、昨日とは違い冒険者の姿がちらほら見えた。比較的若者の姿が多いのは、割りのいい仕事を朝一番で取りにきたからかもしれない。


「あ! クヌートさん! 早いですね」


 ギルドの中に入ると、レイラが笑顔で迎えてくれた。その明るさに少し肩の力が抜けるのがわかる。


(意外と緊張していたんだな…)

 

 内心苦笑しながら、レイラに話しかけた。


「レイラ、おはよう。早速だが依頼を受けようと思うんだが――」

「はい! 初めての依頼なので、無理はしないでくださいね」

「ああ、気をつける」


 俺が掲示板の方に向かおうとすると、そのやりとりを見ていた若い冒険者たちが、俺を見てひそひそと話しているのに気が付いた。


「あれが昨日の…」

「ルーカスといい勝負をしたらしいぜ」

「嘘だろ!? あんなおっさんが…」

「じゃあルーカスがヤケ酒していたのは…」

 

 なんとなく話している内容が小耳に届いてきたのだが、ふと誰が広めたのかと疑問に思う。あの場にいたのはレイラとグイド、それに彼のパーティメンバーだけだったはずだ。受付のレイラを振り返ると、彼女はどこか気まずそうに視線を逸らしていた。


(気にしても仕方ない、か)


 そんなことを考えながら掲示板に近づくと、目の前にいた若い冒険者たちは、避けるようにして受付に向かってしまった。


(…避けられてる?)


 そんな態度にも疑問を覚えつつも、俺はFとEランクの依頼書をざっと見比べる。

 Fランクは街の中でのちょっとしたお使いやドブ掃除等、本当に雑用といったものが多かったが、Eランクの依頼になると、街の外での活動が増えて弱い魔物退治や薬草等の素材収集があった。


(…これにするか)


 俺は、演習で戦ったホーンラビット退治の依頼を受けようとした。畑が奴らに荒らされているから、退治してほしいという内容だ。その依頼書を剥がそうとすると、横からすっと手が伸びてきた。


「これは俺たちがやる!」


 聞き覚えのない声の主は、見るからに人相の悪い二人組の男だった。痩せ型の小男と、スキンヘッドの大男で、俺を見ながらニヤニヤとしている。


「これはおっさんには無理だ! 素直にドブさらいでもしてな」

「そうそう、身の程を知れよ」


(またか…)


 この世界に来てからはよくある光景過ぎて、もう慣れてきたものだ。俺はその下にあった薬草収集の依頼書を剥がして、受付に向かおうとする。だが――


「おい! 無視かよ!」

「おっさん、聞いてるのか?」


 二人組が俺の前に立ち塞がってきた。その視線は明らかに敵意に満ちている。

 これはどう対応するべきかと逡巡していると、レイラが声を上げた。


「ヴェレーノさん! オンブラさん! またですか!!」

「なんだよ、レイラ? 俺は親切で教えてやってるんだ」

「そう! おっさんが大怪我する前になぁ」


 だが二人組はニヤニヤしたまま、レイラを嘗め回すように見つめていた。彼女の言う事を聞くつもりはないようで、明らかにギルド職員である彼女を下に見ている。

 周囲の冒険者たちも、見て見ぬふりをしているということは、何か後ろ盾でもあるのだろうか。


(…仕方ないな)


 これ以上、黙っている訳にはいかないようだ。

 俺が意を決して、口を開こうとする。だが――


「お前たち! それ以上はペナルティを与えるぞ」


 重い声が入口の方から響いてきた。

 振り返ると訓練官であるグイドが立っていて、二人組を睨んでいる。彼の視線は鋭く、まるで獲物を狙う獣のようだ。


「…ちっ――行くぞ」

「ああ」


 二人組は俺を睨みつけると、奪った依頼書を投げつけてきた。そしてそのまま受付から去っていく。

 グイドの視線はずっとその二人を追っていたが、二人がギルドから出ていくと改めて俺の方を向いた。


「すまなかった」

「いいえ。大丈夫です」

「あいつら新人相手によくやるんだ」

「そうなんですね?」

「…何も聞かないのか?」


 訝し気になった彼が声を潜めてきたので、俺も小声で答える。


「ここでは言えないことでしょうから」

「…助かる」


 彼は俺の肩を叩くと、何事も無かったように訓練場の方へと歩いていった。その背中を見送って受付に向かうと、レイラがとてもバツが悪そうにしている。


「クヌートさん、すみません!」

「気にするな。それより受付を頼む」

「はい!」


 レイラに依頼書を渡して説明を受ける。

 畑が荒らされているとの事だが、どこそこの畑にいく訳ではなく、ただホーンラビットを五匹以上退治してくればいいらしい。そして退治した証拠に、その角を刈り取ってくれば依頼達成だ。魔物退治は、魔物によって証拠となる部位が違うのは、お約束だろう。

 薬草収集の方も十束以上持ってくれば依頼達成だった。常に需要がある事から”常備依頼”として掲示板に貼られていて、依頼を受けていなくても実物を持ってくればいいらしい。


(…分かりやすくて助かる)


 俺はレイラに礼を言って、ギルドを後にした。


---


 幸いギルドの外で待ち伏せされているという事は無かった。

 リベルタの外に向かう為に西門まで来た俺は、門番にギルドカードを渡す。


「見ない顔だな。新人か?」

「あぁ。ホーンラビット退治だ」

「そうか。気をつけろよ? あいつら群れで襲ってくることもあるからな」

「肝に銘じるよ」


 門番に見送られて、俺はリベルタの西門を潜った。

 街の外はしんと静まり返っていて、朝のひんやりとした空気が心地いい。リベルタを囲むセレーナ河は、朝日を浴びた水面が宝石のように輝いていて、時折魚の跳ねる音が聞こえてくる。

 

(綺麗だな)


 目標の居場所を探そうと辺りを見回すと、少し離れたところに小さな森が見えた。


(…あそこなら居そうだ)


 俺は生物の気配を探りながら、早足で森に向かって歩いていく。

 途中『看破』を使って”薬草”が無いか調べるのも忘れない。

 

(…しかし、考えが甘かったな)


 昨日レイラに聞いて知ったのだが、基本的に許可の無い人物は、他人に対して街中でスキルを使用する事を禁止とされていた。なので、『看破』で人のステータスを見る行為自体が出来なかったのだ。


(自分に使う分には構わないらしいが)

 

 それでも、例えば『隠密』を使って窃盗などの犯罪をすれば、罪はとても重くなるそうだ。武器と同じで、使いようによっては容易に人を傷つけられるのだから、ルールが厳しくなるのも当然だとは思う。


 途中、薬草を回収しながら十分ほど歩くと、森に辿り着いた。気配を探ると、”何か”が潜んでいるのが分かる。

 俺は剣をそっと抜いて森の奥へと進んで、角ウサギを探す。演習の時の森とは違って、木々の間隔は広くてとても歩きやすかった。


(いるな)


 木の向こう側に、角ウサギが二匹集まっているのが見えた。どうやら草でも食べているらしく、こちらには気が付いていない。


(一気に仕留める)


 俺は木の枝に飛び移ると、狙いを定めた。


(狙うは、首)


 目標に向かって飛び降りる。振り下ろした剣は角ウサギの首に吸い込まれていき、一撃でそれを落とした。返す刀で隣の一匹に斬りつけると、相手は何の反応も出来ずに地面に倒れた。

 一方的な虐殺に罪悪感が少し沸くが、相手は魔物で人を襲う。これがこの世界の仕組みというなら慣れるしかない。


(出来れば人は斬りたくないが…)


 そう思ってはいるが、俺は盗賊の件で思い知った。

 この世界では、地球より人の命は軽く扱われている。相手が容赦なく命を奪いに来るのなら、こちらも甘い事を言ってはいられないだろう。

 幸い、俺には人より高いステータスとスキルがある。ならば、やりようによっては極力相手を殺さずに制圧する事も可能な筈だ。

 

(…上手くやるしかない)


 そんな事を考えながら、解体用のナイフで角を切り離していく。

 そして薬草を探しつつ残りの三匹をあっさりと発見した俺は、それらを退治して角を剥ぎ取った。


---


 薬草も難なく集まり、無事に依頼を達成した俺は、ギルドへと戻ることにした。

 森から出て街へと戻り、門番にギルドカードを見せると、彼は少し驚いたようだった。


「もう戻ってきたのか?」

「ああ。運が良かったみたいだ」

「初仕事でそれなら上出来だな。お疲れさん」

「ありがとう」


 門番と軽く挨拶を交わして中に通してもらうと、街の喧騒にどこかほっとする自分がいた。


(…緊張、か)


 初の撮影現場を終えた後みたいな懐かしい感覚に、つい苦笑してしまう。

 ふっと息を吐いて中央広場の時計を見れば、まだお昼過ぎだった。 

 

(昼飯でも食べるか)


 昨日はゆっくり見れなかった中央広場の露店をぷらぷらを見て回ると、様々な店が並んでいた。

 ふと匂いに釣られてしまったので、串焼きを買い食いする。この世界にも醤油みたいな調味料があるらしく、まさに焼き鳥のタレの味がした。


(食に困らないのはありがたいな)


 俺が見ていた異世界召喚ものでは、食に困る作品も多くあったので、その意味ではこの世界でよかったと思ってしまう。


(…何を考えているのやら)


 そんな子供染みた考えが浮かんだ自分に内心戸惑いながら、俺は中年の店主に串を返した。

 どうやらゴミは向こうで捨ててくれるようだ。


「旨かったよ」

「だろ? ウチのホーンラビットの肉は新鮮だからな」

「…そうか」


 この世界では魔物の肉も、立派な食糧になるらしい。そういえば討伐部位以外の扱いについて聞いていなかったと反省した俺は、ギルドに戻ってから聞いてみようと決意する。


 そうして俺は、少し露店を冷やかしてからギルドの入り口まで戻った。

 だが、何やら中が騒がしいようだ。


(…何かあったのか?)


 重いギルドの扉を空けて中に入ると、そこにはルーカスの仲間の弓使いが座り込んでいた。


「お願いだ! 誰か助けてくれ!!!」 

 


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