2-2 おっさん、冒険者登録する
俺は中央広場に向かって歩きながら、自分の『ステータス』について考えていた。
流れからいって、冒険者登録をするからにはステータスを確認されるだろう。王国から脱出できた以上『偽装』する必要はないのだが、あまりに高すぎて目立ってしまうのも問題だ。何処から王国に情報が洩れるか分からない。
かと言って今のままでは低すぎて、冒険者としてやっていけるのか不安に思われるだろう。
(…ジョンを参考にするのが無難か)
彼とその仲間たちを一つの基準としておけば、そこまで突出したステータスにはならないはずだ。十分カモフラージュをする事が出来るだろう。
(…後は名前だな)
エンリコたちには”クヌギ”と本名を名乗ってしまった。緊急事態だったから仕方がないとは思うが、そこまで気が回らなかったのは失敗だったかもしれない。
(タケシ…いや、違うな)
下の名前も和風すぎて、この世界ではあまり無い響きだろう。とは言え、あまりに関係の無い名前にして咄嗟に反応できなくでも怪しまれる。ならば、元の名前を少し西洋風に変えてみるのはどうだろうか。
(クヌア…クヌイ……)
俺は歩きながら地道に功刀の語尾を少しずつ変えていく。すると――
(クヌテ、クヌト……クヌート?)
これが一番しっくりときた。
「クヌート」なら本名と響きが似ているし、和風な感じもしない。これならたぶん名前で目立つことはないだろう。俺は名前も含めて『ステータス』を新しく『偽装』をする。
(…こんなところか)
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クヌート(タケシ・クヌギ)
42歳 男
ジョブ:剣士(侍)
レベル:5(5)
力:70 (420+40)
技:70 (420+40)
速:70 (420+40)
体:60 (420+40)
魔:50 (420+40)
抗:50 (420+40)
運:50 (420+40)
スキル
剣技、危険感知
(剣術、抜刀術、忍術、投擲術、格闘術、偽装、隠密、看破、危機察知、毒耐性、精神耐性)
称号
なし
(『侍マスター』『忍者マスター』『巻き込まれし者』)
(忍術)
[火遁][水遁][土遁][雷遁]
[暗器]:木刀(大)、木刀(小)、酸毒蛇の牙
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能力値はジョンとのレベル差を考えて、単純に約1/3にしておいた。これでジョンの仲間たちとほぼ同じ数値なので問題ないだろう。ジョンの持っていた『危険感知』のスキルだが、看破で調べてみたら説明はこうだった。
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『危険感知』
身に迫る危険を感知できる。
危険感知、気配察知、危機察知の順で効果が倍増する。
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俺が最初に持っていた『気配察知』の下位互換だった。もしスキルを習得している理由を聞かれたら、故郷からリベルタまで旅をしてきたからだろう、と答えるつもりだ。
そう、俺は故郷を追い出されて辺境から出稼ぎに来た中年剣士という、よくある話を使うことにしたのだ。故郷を追い出されたといえば、このリベルタの雰囲気なら受け入れられそうだと判断した。それに今は地球に帰る術を持たない以上、あながち間違っている訳でもない。
なので、他人には俺のステータスはこう見えるはずだ。
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クヌート
42歳 男
ジョブ:剣士
レベル:5
力:60
技:70
速:70
体:60
魔:50
抗:50
運:50
スキル
剣技、危険感知
称号
なし
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これなら、遅咲きの新人冒険者として変に目立たずに済むだろう。
そんな事を考えながら歩いていると、どうやら中央広場に着いたようだ。
ここには自由の塔と呼ばれる高さ五十メートル近くの時計台がそびえ立っている。その周囲には露店が並んでいて、人々が行き交い活気に溢れていた。
その大きな時計は、まもなく三の鐘――午後三時を指そうとしている。
エンリコから聞いた話では、リベルタにはこの自由の塔がある為、ルーンベルグのように鐘を鳴らす事は無いそうだ。さらに街の至るところにも小さな時計台が設置されているから、市民も時間が分からなくて困る事はないとの事だった。
俺はそんな賑やかな中央広場を抜けて、少し離れたところにある一軒の大きな建物に辿り着いた。
三階建てで見るからに頑丈そうな石造りの建物で、入り口には、大きな盾に剣が二本、バツ印に描かれている看板がある。これがこの世界の冒険者ギルドの紋章だった。屋上に翻る大きなギルド旗にも、同じ紋章が描かれている。
(…でかいな)
まだ夕方には少し早いからだろうか――ギルドの入口には今のところ人影は見えなかった。
俺は意を決して、重い扉を開けて中へと入る。
ギルドの一階は受付だった。
正面に受付のカウンターがあって、受付嬢が二人並んで立っている。タイミングがいいのか悪いのか、冒険者の姿は見えない。
その左側は待合室のようになっていて、壁の掲示板には何やら色分けされた紙がたくさん貼ってある。おそらく、あれが依頼書なのだろう。
右側の奥の方からは少し喧噪が聞こえてくるので、食堂か酒場にでもなっているのだろうか。
「いらっしゃいませ! 冒険者ギルド、リベルタ支部へようこそ! どのような御用ですか?」
俺の姿を見つけると、受付にいた赤毛のポニーテールの女性が明るく出迎えてくれた。その緑の瞳は活気に満ちていて、周りの人間に元気を与えてくれそうな印象の娘だった。
「あー、冒険者登録をしたいんだが」
「はい。ではこちらにどうぞ!」
彼女は手招きしてカウンターに呼んだので、俺は素直に指示に従う。
「えっと…所属変更では無く、初登録ですか?」
「ああ」
「そうですか…それでは、こちらにご記入して下さい」
彼女は引き出しから一枚の紙を差し出してきたので、俺はそれを受け取って目を通す。だがそこには、名前と年齢とジョブの三つしか項目が無かった。
「…これだけでいいのか?」
「はい! 登録用紙にご記入後、『裁きの水晶』に触っていただくので問題ありません」
「『裁きの水晶』?」
「ご存じありませんか?」
「すまない。辺境から出てきたものでな」
「そうなんですね! 冒険者ギルドは基本来る者は拒みませんが、犯罪者だけは別です。なので前科だけは初回登録時に『裁きの水晶』で確認する事になっています。これは本人の”魂”に刻まれた情報を読み取るので、誤魔化すことは出来ませんから!」
「そうか。わざわざ説明させてすまないな」
「いえ、これが仕事ですから!」
(取り越し苦労だったか…)
ステータスの鑑定がなかったのは俺にとっては都合がよかったが、どうにもこの世界にきてから疑心暗鬼になっている気がする。
内心苦笑をしつつも、俺は受付嬢と話しをしながら、登録用紙の各項目を記載していった。すぐさま記入を済ますと彼女に向かって差し出す。
「これでいいか?」
「はい! 確認しますね」
ーーーーー
名前:クヌート
年齢:42
ジョブ:剣士
ーーーーー
「42歳…ですか」
彼女は俺の年齢に少し驚いたみたいで、俺の顔を登録用紙を何度も見比べている。
その姿に俺は思わず苦笑する。
「年齢制限があるのか?」
「いえ、でも珍しいことは確かですね」
「まぁ…訳アリなんだ」
「そうですか。……ではこちらに手を置いて下さい」
(…いい娘だな)
俺の態度から何やら察してくれたのだろう…彼女はそれ以上は触れずに、受付の下から灰色の長方形の板を取り出した。その大きさは、手のひらがすっぽりと収まるほどだった。
(これが『裁きの水晶』か)
そういえばリベルタに来る前に盗賊を退治した。あれは正当防衛だと思うがどう判定されるのだろうか。
(…大丈夫だろうか)
俺は少し緊張しながら板の上に手を置いた。だが――何も起きない。
(これは…どういう意味なんだ?)
一秒、二秒、三秒。
そのままの体勢で居るが、特に反応はないままだ。
(大丈夫、なのか?)
内心俺が内心戸惑っていると、その様子をじっと見ていた受付嬢が笑いかけてきた。
「はい、クヌートさん。お疲れ様でした!」
「これでいいのか?」
「はい! 犯罪歴があると『鑑定の水晶』みたいに宙に浮かび上がってくるんです!」
「そうなのか」
「はい。なので、反応がないのは、問題なしという事になります!」
そして、彼女は笑顔で灰色のプレートを渡してきた。
「これがクヌートさんのギルドカードになります。紛失したら再発行には料金が発生するので気を付けてくださいね」
「登録料は要らないのか?」
「はい。その代わりにランクの昇給試験を受ける際には料金がかかります」
俺は渡されたギルドカードに視線を送る。そこには――
ーーーーー
クヌート 42歳
ランク:F
ジョブ:剣士
管轄:リベルタ支部
所属:無
ーーーーー
(シンプルだな)
そこには本当に最低限の情報だけ記載されていた。ちなみに裏面には何もない。俺がしげしげとカードの裏を見ていると――
「クヌートさん、裏面にはステータスが記載されるんですよ」
「そうなのか?」
「はい! 有料になりますが、ギルドにも『鑑定の水晶』はありますので。自分のステータスを調べられる上、希望をすれば裏に記載が出来ます。」
「記載していないと、どうなるんだ?」
「特に何もないですね。ただ高いステータスはある意味自分の宣伝にもなりますから」
「なるほど。依頼主にアピール出来るという訳か」
「はい。なので記載するかどうかは別として、定期的に自分のステータスを確認する事をオススメしています!」
そう笑顔でアピールする彼女は、純粋に冒険者を心配しているように見えた。
「余裕が出来たらな」
「はい。それでは、ギルドについて説明しますね」
「頼む」
それから彼女は、冒険者ギルドについて説明をしてくれた。
まずは絶対的な禁止事項。
ギルド内での殺人、他の冒険者の依頼の横取り・妨害、依頼主への危害、許可の無いスキルの使用、ギルドへの背信行為。
ただしギルド内で暴れる暴漢の制圧など、事情によっては許される事もあるとのことだ。
次に、依頼について。
ソロ活動でも構わないが、出来ればパーティを組む事を推奨しているようだ。依頼はランクが一つ上のものまで受けられる。パーティなら、その中で一番上のランクが基準となるが、二つ上までのランクの人間までしかパーティは組めない。つまり、最高で三つ上のランクの依頼を受ける事が出来るが、荷が重いと判断された場合、受付で止められるそうだ。
依頼書は掲示板に、ランク毎にギルドカードと同じ色で張り出されている。
Fから順に、灰、茶、緑、青、紫、銀となりSが金。
最高ランクのSSは白金となるが、それは最難関の任務となりほぼ指名依頼になるので掲示板に貼られる事はない。
ランクアップは、内部評価で一定数の依頼を完了させると、ギルド側から昇給試験を提案されるそうだ。
ちなみに、受付嬢の名前はレイラ・フォックスといい、このギルドの名物受付嬢らしい。
「――また、何か分からない事がありましたら、いつでも相談してくださいね!」
「ああ、そうさせてもらうよ」
「それでは、クヌートさん。……よい冒険者ライフを!」
レイラがにっこりと笑って俺に手を差し出してきたので、俺が握手をしようとその手を取ると――
「おい、おっさん! レイラちゃんに何してやがる!!!」
――右の奥から、何やら怒鳴り声が聞こえてきた。




