魔王を倒したらただの人?今日から勇者は食べるために働きます。8
翌朝。
俺は家の裏手で、いつもどおり剣の素振りをしていた。
特に予定のない日でも、この朝の鍛錬だけは一度も欠かしたことがない。
毎日続けるのは大変だと思うかもしれない。
だが、いったん日課になれば逆に“やらないほうが落ち着かない”。
剣を振りながら、体の動きを確かめていく。
違和感はないか。
筋肉の動きはいつもどおりか。
次の動作へ無駄なく移行できているか──。
ひとつひとつ点検しつつ、最も効率のいい動きを考える。
どうすれば隙がなくなるか。
どうすれば、相手より早く反応できるか。
考えて、削って、組み上げて、
そして繰り返し身体に叩き込む。
実戦では考えている暇はない。
だからこそ、訓練で徹底的に考えておく必要がある。
そうすることで、身体は自然に動き、一瞬の差が生死を分ける。
素振りを続けていると、余計な音がすべて消えていく。
世界が静まり返り、時間が止まったような感覚が訪れる。
汗が止まらない。
握る手の中の剣だけが、確かにそこにある。
――ふと、視線を感じた。
二階を見上げると、アメリアがこちらをのぞいていた。
目が合った瞬間、彼女は慌てて奥へ引っ込む。
(なんだ?)
少しだけ考えたが、すぐに意識を切り替えることにした。
汗で濡れた服を脱ぎ、井戸から桶に水を汲んで頭から浴びる。
「ふぅ……気持ちいい」
流れ落ちる水で体を清め、タオルで拭き取ってから部屋へ戻った。
マリーが用意した朝食を、俺・マリー・アメリアの三人で囲んでいた。
「今日は確かアメリアの服を買いに行くんだったな。その後はどうするんだ?」
俺が尋ねると、マリーはパンにジャムを塗りながら答えた。
「そうですね。できればまた採集に行きたいですね。素材は集められるときに集めておきたいですから」
「そうか。では昼過ぎに街の入口で待っている」
女の買い物に着いていく必要はないだろう。
長いし苦痛だ。
同じようにしか見えない服を前に、延々と悩む姿を見せられる。
しかも、うっかり「どっちでも同じだろ」と言おうものなら反感を買う。
そして最悪なのは──
『どっちが似合うと思う?』
あれは罠だ。
悩んでいるように見えて、本人の心の中ではもう答えが決まっている。
外すと、確実に機嫌が悪くなる。
だから俺は、行かない。
「分かりました。ではそういうことで」
マリーがそう言い、買い物へ向かった。
昼過ぎ。
待ち合わせ場所で待っていると、マリーとアメリアが歩いてくるのが見えた。
「似合ってるじゃないか」
俺は素直に言った。
アメリアは冒険者風の格好になっていた。
革の胸当て、ブーツ、腰にロングソード。
前のドレス姿より、よほど実用的で似合っている。
「ふん。お世辞はいいですわ。行きますわよ」
アメリアは鼻で笑いながらも、どこか照れくさそうにズンズン歩いていく。
「今日はどこに行く?」
歩きながら聞くと、マリーが答えた。
「森へ行きましょう」
アメリアも軽く頷く。
こうして俺たちは、再び森へと向かった。




