魔王を倒したらただの人?今日から勇者は食べるために働きます。2
次の日、俺は朝から肉体労働に汗を流していた。
勇者という肩書きとは無縁の世界だが、こうして働くのも案外悪くない。汗をかくたび、少しずつ今の現実に馴染んでいくような気がしていた。
休憩時間、同じ現場の男が声をかけてきた。
「兄ちゃん、すげぇ力だな。あんな重いもん、ひょいひょい運ぶなんて」
「力には自信があるんで」
そう答えると、男は感心したように笑った。
「それだけ力があるなら、ギルドの仕事とか、もっと割のいい仕事あるんじゃねぇの?」
「……ギルド?でも、ギルドはなくなったって」
そう、俺の知っているギルドは、便利な複合施設「デパート」に取って代わられていた。
だが、男は首を振る。
「ああ、移動したんだよ。規模はだいぶ縮小したけど、ちゃんと残ってる」
驚いた。完全に消えたものだと思っていたが、まだ希望はあった。
「ありがとう。明日、行ってみるよ」
翌日、男に聞いた場所に足を運んでみると、確かにそこにはギルドがあった。
……ただし、かつてのギルドとはまるで違った。
建物はオンボロで、手書きの看板が風に揺れて今にも落ちそうだった。
立派な装飾も冒険者で溢れかえっていたあの頃の面影はない。
けれど、その文字は確かにこう書いてあった。
「ギルド」
ギルドは生きていたのだ。
その事実だけで、胸の奥が熱くなった。
俺は扉を開けて中へと足を踏み入れた。
ギルドの扉を開けると、中には若い女性が受付に一人座っていた。
どこか素朴な雰囲気の彼女に声をかける。
「何か仕事はありますか?」
「そうですね」
彼女は分厚い台帳を手に取り、ページをめくる。
「あぁ、今なら森での素材採取の護衛の仕事があります。モンスターはだいぶ減りましたが、森の方はまだ注意が必要でして。一日で2万バリーです」
──2万バリー。
昨日の肉体労働の報酬が8,000バリーだったことを考えると破格だ。
さすがは戦闘職の報酬である。
「分かった。それを受ける」
「かしこまりました。ギルドカードはお持ちですか?」
俺は古びたギルドカードを差し出した。
「最近じゃ見ないタイプのギルドカードですね。少々お待ちください」
そう言って受付の女性は台帳をめくって照合する。
有効期限など無かったはずだ──と思っていたが、内心少し不安だった。
しかし数分後、彼女は微笑んで言った。
「問題ありません。依頼者にはこちらから連絡を入れておきますので、明日の朝にまたお越しください」
「了解だ」
ギルドを後にして、俺は考える。
──そういえば、武器がない。
エクスカリバーは王に献上して以来、まともな装備は何もなかった。
このままでは護衛どころか自衛すらおぼつかない。
俺は武器屋へと向かった。
店内には様々な武器が並んでいた。
どれも既視感のある品々だが、今の自分にはどれも新鮮に映る。
「この鋼のロングソードをくれ」
店主にそう伝えると、手馴れた動きで会計が進む。
──ロングソード。間合いもあり、扱いやすい万能型。
小回りの効くショートソードも候補だったが、今の俺には一撃の重さが重要だ。
鋼製であれば耐久も十分だろう。
こうして、俺は新たな剣を手に入れた。
エクスカリバーには遠く及ばないが──今の俺には、これで十分だ。
宿屋に戻り、明日の依頼に備えて早めに床に就く。
新たな冒険の始まりに、胸が少しだけ高鳴っていた。




