魔王を倒したらただの人?今日から勇者は食べるために働きます。1
宿屋を出た俺は、ポーチの中の小銭を確認する。
「……これじゃ、飯を一度食べたら消えるな」
思わず溜息が漏れる。魔王を倒した“元勇者”のくせに、生活能力ゼロとは情けない。
だが、いくら嘆いても始まらない。
今の俺に残されたもの──それは、魔王討伐の旅で鍛えたこの身体だけだ。
貴重な防具は国に没収されたが、素手でもそこらの奴よりはずっと強いはず。
「そうだ、ギルドに行ってみよう。護衛の仕事くらいならあるかもしれない」
そう思い、かつてギルドがあった場所へ向かった。
しかしそこにあったのは「デパート」だった。
「……デパート?」
食品も日用品も全部揃っているという、現代の便利すぎる複合施設。
冒険者が集まっていたギルドは、時代の波に飲まれ、もう存在していなかった。
通行人に話を聞くと、
「もうモンスターが暴れることもないし、冒険者たちは職人や商人になっちまったよ」とのこと。
俺はギルドを頼りにしていた。
モンスターを倒せば金もアイテムも手に入った時代が終わってしまったのだ。
風に舞う張り紙が足元に張りついた。
拾ってみると、こう書かれていた。
日雇い募集!
力仕事:一日8000バリー
「8000バリーか……宿屋に一泊したら消える額だな」
かつては一日狩りをすれば何ヶ月も悠々自適だったのに、今ではこれが相場らしい。
「……やるしかないか」
俺はそっと張り紙を握りしめた。
再び歩き出すために──。




