魔王を倒したらただの人?今日から勇者は食べるために働きます。15
アメリアが試合場の中央に立つ。
剣を正面に構え、静かに相手を見据えた。
足運びは慎重で、間合いを測る動きにまだ硬さが残っている。
(力が入りすぎているな)
相手は中堅どころの剣士といったところだ。
経験はあるが、動きは素直。嫌な癖もない。
試合開始の合図。
相手が先に仕掛けてきた。
横薙ぎの一閃。アメリアは慌てて剣で受ける。
金属音が響き、アメリアの体がわずかに押し込まれた。
「っ……!」
一歩、二歩と後退する。
焦りが表情に出た。
(落ち着け……)
俺は無言で見守る。
ここで声をかけても意味はない。
相手は攻め続ける。
連続した斬撃に、アメリアは受けに回る形になった。
だが――
三合ほど打ち合ったところで、アメリアの目が変わった。
(……来たな)
無理に受けるのをやめ、相手の剣をいなす。
半歩引き、体勢を整え、呼吸を整える。
相手が踏み込み、上段から振り下ろした瞬間。
アメリアは剣を斜めに合わせ、受け流す。
そのまま踏み込み、胴へ一閃。
「ぐっ……!」
相手がよろめいた。
アメリアは迷わなかった。
続けざまに突きを放ち、相手の剣を弾き飛ばす。
「勝負あり!」
審判の声が響く。
アメリアはその場で大きく息を吐いた。
(……よし。よく立て直した)
危なさはあったが、確実に成長している。
観客席に戻ってきたアメリアは、少し照れたように笑った。
「……勝てましたわ」
「ああ。よくやった」
短くそう言うと、アメリアは少し誇らしげに胸を張った。
続いて俺の試合だ。
相手は力量差のある剣士だった。
必要以上に力を出す必要はない。
間合いを詰め、二太刀。
剣を弾き、体勢を崩し、一本。
「勝者、ロキ!」
歓声が上がるが、俺は軽く剣を下げただけで戻った。
(問題なし)
そして、トーナメント表が更新される。
アメリアは掲示板を見上げ、息を呑んだ。
「……二回戦……」
そこに並ぶ名前。
アメリア・クラウンハイト
対
李 雀蘭
アメリアの喉が小さく鳴る。
「……雀蘭……」
さきほど見せつけられた圧倒的な勝利。
内側から打ち抜く、異質な技。
「……怖いか?」
俺が尋ねると、アメリアは一瞬だけ目を伏せ、すぐに顔を上げた。
「……いいえ」
その声は震えていない。
「強いからこそ、戦う意味がありますわ」
その目には、もう迷いはなかった。
俺は小さく頷く。
(……さて。どこまでやれるか)
武芸大会は、ここからが本番だった。




