魔王を倒したらただの人?今日から勇者は食べるために働きます。14
「さてと……お手並み拝見といくか」
「ええ……そうですわね」
俺たちは観客席へ向かった。
「次は、あの李 雀蘭だな」
「ええ」
「……」
アメリアの返事は、それきり途切れがちだ。
さっきから「ええ」しか言っていない。完全に上の空だ。
視線はずっと試合場に釘付けになっている。
やがて、会場にアナウンスが響いた。
「次の試合、李 雀蘭!」
雀蘭は悠々と試合場の中央へと進み出る。
歩き方に無駄がなく、観客の視線を自然と集める佇まいだ。
対戦相手は剣士。
装備を見る限り、経験はそれなりにありそうだが、特別強そうには見えない。
開始の合図と同時に、両者が前へ出た。
相手は好戦的なタイプだ。間合いを詰め、積極的に攻めてくる。
武器はロングソード。
一方の雀蘭は──素手。
明らかなリーチ差。
普通なら、ここが最大の不利点になる。
(……どう詰める?)
次の瞬間、剣士が上段から斬りかかった。
雀蘭はそれを真正面から受けず、刃に軽く合わせるようにして受け流す。
同時に、一歩踏み込み──
掌が、相手の腹部に触れた。
一瞬だった。
剣士は何が起きたのか理解できていない。
次の瞬間、体がふわりと宙に浮き、そのまま崩れ落ちた。
沈黙。
そして──
割れんばかりの歓声が会場を包んだ。
「なっ……!」
アメリアが思わず声を上げる。
「凄いな……」
俺は低く呟いた。
「あれは、おそらく内側から衝撃を与える技だ。普通は外からダメージを受けるが、達人になると体内の内側に直接衝撃を通すことができると聞いたことがある」
「……いつの間に、あんな……」
アメリアは呆然としていた。
雀蘭は、まるで何事もなかったかのように試合場を後にする。
「アメリア。次はお前の番だぞ」
「えっ……? あ、はい!」
我に返ったように返事をする。
「落ち着いてやれば、初戦は問題ないはずだ」
「……はい」
アメリアは一度、大きく息を吸い、試合場へと向かっていった。




