魔王を倒したらただの人?今日から勇者は食べるために働きます。13
会場に着くと、すでに多くの見物人で賑わっていた。
歓声とざわめきが入り混じり、武芸大会特有の熱気が肌に伝わってくる。
「自分の持てる力を出し切るんだ」
俺が声をかけると、アメリアは小さく頷いた。
「はい、分かりましたわ」
表情はやや硬いが、雰囲気に飲まれてはいない。
緊張はしているが、覚悟は決まっているようだ。
俺たちは掲示されたトーナメント表を見上げた。
「……李 雀蘭!」
アメリアが目を見開く。
「やはり……さっきの方は李 雀蘭でしたのね」
「変わった名前だな」
「ええ。ここから遠く東の国の方ですわ。わたくしラグーニ公国のクラウンハイト家と、カウロン国の李家は、家同士で付き合いがありますの。小さい頃に何度かお会いしました」
「家、か。じゃあその雀蘭も王家の人間か」
「そうですわ。もっとも……強さについては分かりません。会ったのは随分昔ですし、武芸を習っていたという記憶もありませんから」
「なるほど。なら、負けてられないな」
「ええ」
アメリアは、力強く頷いた。
そのとき──
「あら、先程の方。……って、アメリアじゃない」
声に振り返ると、そこには話題の李 雀蘭が立っていた。
先程と同じチャイナドレス姿で、その背後には付き人の男が控えている。
「雀蘭!」
「アメリア。あなたも大会に参加されるのですか?」
「その通りですわ。何か問題でも?」
雀蘭はアメリアの言葉にも動じず、足元から顔までじっくりと見回した。
「へぇ……あの泣き虫の甘ったれが、ねぇ」
余裕たっぷりの笑みを浮かべる雀蘭。
「なっ……それは昔の話ですわ!」
「ふうん。まぁ、実力は後で分かるでしょう。期待してますわ」
そのとき、付き人が一歩前に出た。
「雀蘭様、そろそろ一回戦が始まります」
「そう」
雀蘭は軽く頷き、付き人を振り返る。
「雷牙。あなたは初対面ですわね。この方がアメリア・クラウンハイトです。覚えておきなさい」
「はっ」
付き人の男が一礼する。
「初めまして。私は黄 雷牙と申します。以後、お見知りおきを。
それでは我々は試合がありますので、これにて失礼いたします」
「アメリア。楽しみにしていますわよ」
そう言い残し、雀蘭と雷牙は人混みの中へと消えていった。
アメリアはその背中を、静かに見つめていた。




