魔王を倒したらただの人?今日から勇者は食べるために働きます。11
気にはなるが、人にはそれぞれ成長の仕方が違う。
人と比べて焦らせるのは良くない。
武とは、他人ではなく 己とどう向き合うか の道だ。
だからこそ、アメリアの上達が遅い理由があるとしても、余計なことは言わず、じっくり見守るべきだろう。
……しかし、引っかかりは完全には消えていなかった。
(本当に、ただ成長が遅いだけなのか?)
だが、その疑問は胸の奥にしまい込む。
そうして数日が過ぎた。
今日はマリーと街に買い物に来ていた。
市場は活気に満ち、商人たちの声が飛び交っている。
「あっ、ロキさん見てください! 武芸大会の張り紙です!」
マリーが掲示板を指差す。
そこには華やかな装飾で“武芸大会・参加者募集”とある。
「ロキさん出たらどうですか? 強いから優勝できるかもしれませんよ?」
「いや……俺は……」
ロキは言葉を濁す。
魔王を討伐した勇者が、今さら大道芸みたいに人前で腕比べをするなんて、どうにも格好がつかない。
それに、今の自分は勇者でもなければ栄光の象徴でもない。
ただの流れ者に過ぎない。
「わ、見てください、副賞はマジックバックですよ!」
マリーの声が一段階明るくなる。
「マジックバック……?」
ロキは思わず張り紙に目を凝らした。
そこには確かに“優勝者にはマジックバック進呈”と書かれている。
マジックバック。
内部が魔術空間につながっており、見た目以上の容量を持つ超便利アイテム。
重さも感じないうえ、希少価値はとてつもなく高い。
冒険時代、パーティーに一つあったが──それがどれほど役に立ったかは、嫌というほど知っている。
ロキは腕を組んで考え込んだ。
「ロキさん……出たくないんですか……?」
マリーの声が、少し寂しげに聞こえた。
「……」
ロキは俯く。
出たくないわけじゃない。
ただ、勇者の力を見せびらかすような真似が嫌なだけだ。
しかし──
(いや、今の俺が出ても勇者としてではなく、“ロキ”として戦うだけだ)
それに。
(アメリアはずっと努力してる。マリーも毎日素材の処理や店の仕事で大変だ。俺は……何か返せているだろうか?)
剣を振るえるのは、仲間がいて自分を信頼してくれるからだ。
それなら、できる形で恩返しすべきだろう。
「……ロキさん?」
マリーが不安そうに覗き込む。
ロキは小さく息を吐いた。
「わかった。出てみるよ」
「ほんとうですか!? やったぁ!」
マリーが心から喜んで笑った。
その笑顔を見れば、迷いは消える。
「ただし、優勝できる保証はないぞ?」
「ロキさんならできますよ! 応援しますね!」
元勇者のプライドではなく──
大切な仲間のために。




