魔王を倒したらただの人?今日から勇者は食べるために働きます。9
三人で森に入った。
マリーとアメリアは採集、俺はその周囲の警戒に集中する。
どこから何が出てくるか分からない以上、油断は禁物だ。
「この辺り、薬草が多いですわね」
「ほんと、今日は豊作だね!」
二人は楽しげに採集を進めていた。
そのとき──
ガサッ。
緑色の影が草むらから飛び出す。
「ゴブリンか」
一匹。
大した脅威ではない。
しかし、先に動いたのはアメリアだった。
「わたくしに任せてくださいまし!」
言うや否や剣を抜き、ゴブリンに向かって駆け出す。
その動きは予想以上に鋭かった。
「はあああっ!」
アメリアの横薙ぎの一撃がゴブリンの首元に決まり、緑の体が崩れ落ちた。
「やった……!」
誇らしげに胸を張るアメリア。
だが次の瞬間、茂みが大きく揺れた。
「三匹……!」
ゴブリンが三方向から現れる。
さすがに数が多い。
アメリアの表情から余裕が消える。
「くっ……!」
そのうちの一匹が、武器を持たぬマリーに向かって突っ込んだ。
「マリー!」
俺は瞬時に飛び出し、一撃でゴブリンを弾き飛ばす。
続けざまに残りの二匹を薙ぎ倒した。
ぜぇ……とマリーが息を整えている。
アメリアは唇を噛みしめ、肩を震わせていた。
「……も、申し訳ございません……」
完全にうなだれてしまう。
王族特有の自尊心を砕かれたというより──
マリーを危険に晒した自分が許せないらしい。
「謝る必要はあろません。ほら、怪我もありませんし」
マリーはアメリアを気遣った。
「そうだ、護衛は俺の仕事だからアメリアが気負う事はない」
帰り道、アメリアは一言も喋らなかった。
夕食時。
マリーはいつもどおり明るく料理を並べるが、アメリアは静かに皿を見つめている。
そして、しばらくしてから──
意を決したように席を立ち、俺の前に歩み寄ってきた。
そして頭を下げた。
深く、真剣に。
「ロキ……剣の稽古をつけていただけませんか」
俺も目を見開いた。
(あのアメリアが……頭を下げるだと?)
昔、傲慢で気位が高くて、俺の指導を「苦行」呼ばわりしていたあのアメリアが。
今はただ、自分の未熟さと、守れなかった悔しさだけが表情に滲んでいる。
「お願いします……強くなりたいのです。わたくし自身の力で……誰かを守れるように」
その声は震えていたが、意志は確かだった。
俺は静かに頷いた。
「分かった。明日の朝からだ」
「……ありがとうございます」
アメリアは深々と頭を下げたまま、動かなかった。




