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第2話 祝福の扉の向こう

扉が開くと――

祝福の鐘が高らかに響き、白と金の花びらが天から舞い落ちた。


その一歩ごとに、私は人生の新しい章へと足を踏み出していく。


王城の大聖堂には、万の花々が咲き誇り、

ステンドグラスから差し込む春の光がそれを祝福するように降り注いでいた。


貴賓席には近隣国の大使や諸侯たちが並び、各国の伝統衣装が花のように彩りを添えている。


高座には、大王フリードリヒ五世陛下が穏やかな表情で座し、

その隣には若き王妃が控えていた。


――王妃ソフィア様。


淡い薔薇色のドレスに身を包んだソフィア王妃は、

繊細な笑みをたたえながら、そっと大王の手に自らの手を重ねている。


まさに“理想の王妃”――その姿には、気品と優しさが宿っていた。


幼少の頃から、その美貌と清楚で可憐な佇まい、

誰にでも隔てなく接する人柄で称賛され、まるで聖女のようと言われる女性ひと


王権派と教会派の橋を渡すための政略結婚ではあったが、

年の差を越えたロマンスとして、昨年の婚儀は国民から熱狂的に祝福された。


義理の母――とはいえ、年のころは私とそう変わらない。

そんな彼女との交流を、私は密かに楽しみにしていた。


ふと目が合うと、ソフィア王妃はふわりと微笑んだ。


その慈愛に満ちた眼差しが、胸の奥にわだかまっていた小さな不安をやわらかく解きほぐしていく。

王家という世界に踏み込むことへの緊張も、いつしかふと消えていた。


ああ、この人がいてくださるなら、

大丈夫―― そう思わせてくれる、優しく、あたたかな微笑みだった。


そして、その隣。 静かに背筋を伸ばし、深い藍の礼装を纏って控えるのは


――王弟セイラン殿下。


長年、政務と軍務の両輪を一手に引き受けてきた実務の要にして、王家の影の舵取り。


表舞台に姿を現すことは稀で、豪奢な場には不釣り合いなほど、

無駄を削ぎ落とした佇まいだった。


けれど、その静けさこそが、彼という人物の“本質”なのだと感じさせる。


侍女たちの間では、密かに「王城で一番頼れる男」と囁かれているという。


未婚――それも、浮いた噂の一つもない。

けれど不思議と、誰も“それ”に異を唱えたりはしなかった。


王家に仕え、国を守ることが、彼のすべて――誰もが、そう思っていたから。


そして、その中心――

すべての視線が集まる壇上に立つのは


――王太子 エルネスト・フォン・グラウゼンベルク。


輝くような礼装に身を包み、すっと伸びた背筋と整った面差し。

威厳と気品に満ちたその立ち姿は、まさに“王たる者”の象徴だった。


亡くなられた前王妃の子であり、

幼い頃から次代の王としての教育を受け、知識と礼節を誰よりも重んじ、

民と国を誰よりも想ってきた人。


彼こそが、すべての民に希望を、国に未来を示す存在――

……そして私にとっては、ただ真っすぐに心を引き寄せる光だった。


そう。 エルネスト様は、私のすべてを預けられる人。

私の信頼も、私の愛も、疑うことなく注げる、たった一人の人。


今日、この方の隣に立てることを―― 私は、誇りに思う。


そう、あの頃の私は――

何の疑いもなく、心からそう思っていたのよ。

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