第18話 エピローグ
そして――盛大な結婚式から約1年後。
王宮の中庭にて。
アリステリアは、穏やかな陽射しの下、噴水の前で白い花を手折っていた。
「……ようやく、花が美しいと思える日が来たわ……」
背後からそっと肩を抱かれ、振り返ると、セイランが静かに微笑んでいた。
「もう、ひとりじゃないからね」
アリステリアは、ふわりと笑った。
あの日の誓いは嘘ではなかった。
でも、今のほうが、ずっと本当の幸せに近い気がする。
彼女はそっと、自らのお腹に手を添える。
まだ膨らみも感じないその場所に、命が宿っていることを、ただ二人だけが知っていた。
「――きっと、大丈夫よね」
「……ああ。君となら、どんな未来でも乗り越えられる。
でも、できれば……その全部を、君の笑顔と迎えたい」
セイランは言い終えてから、少しだけ視線を外し、耳の後ろをかいた。
「そもそも……。また聞いちゃうけど――本当にこんなおじさんで良かったの?」
「……わたくしが、あなたを“選んだ”のです。迷いなどありませんわ。
それに――あなた、いつまで経っても『君が欲しい』の一言すら仰ってくださらなかったでしょう?」
「いや、でもさ。年も離れてるし……髪も白いし……ヒゲもあるし……」
「そこはむしろ魅力ですわ」
「……そ、そう?」
「ええ、断言します! この国でいちばん素敵な“おじさん”ですから!」
セイランは言葉を失って頬を赤らめる。
「じゃあ、聞いちゃうけど……どこが素敵なのかな?」
「それはね――」
言いかけて、くすりと笑った。
「……秘密です」
「ええ……そこは教えてくれてもいいんじゃ……」
「では、代わりにひとつ質問。セイラン、わたくしのこと、愛してます?」
「……いや、そういうこと、ちゃんと言うのは……まだ慣れなくてさ」
アリステリアはそっと笑うと、彼の手を握った。
「では、練習しなくてはいけませんわね、陛下?」
「い、今? ここで?」
目を瞑った彼女の髪を、やわらかな風がそっと撫でる。
「はい、今、ここで。さあ、大きな声でお願いします」
「……ア、アリステリア、愛してるよ!」
「もっと!」
「アリステリアーー! 愛してるーーーーーっ!!」
庭中に響き渡ったその声に、王宮中が笑い声で包まれる。
遠くの鐘の音が、春の空に溶けてゆく。
風が、花びらを揺らす。
うららかな春の陽の中、ふたりは肩を寄せたまま、確かに始まった未来を静かに見つめていた。
アリステリアは満足そうに笑い、ゆっくりとセイランの目を見つめた。
「――ね、私」
「うん?」
――そうして、アリステリアは 「今、すごく幸せです」と、微笑んだ。
……Fin.
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