第1話 プロローグ
眩い光が差し込む王城の朝。
ここは、私たち王太子夫妻の寝室。
鏡の前ですっと紅を引き、そっと微笑む。
「……いってらっしゃい、殿下」
侍女たちが微笑んで見守る中、
彼は私の手を取り、優雅にキスを落とした。
「愛してるよ、アリステリア」
――絵に描いたような、理想の夫婦の朝。
(……まったく、よくやるわね)
唇には笑みを湛えたまま。
けれど、心の奥底では――もう、何も感じない。
◆
――あれは、運命の日。
私が王太子妃となり、
この国の“未来”を背負うことになった、はじまりの日だった。
ついに、彼と――夫となる人との人生が始まる。
深呼吸して、そっと胸元に手を当てる。
今夜からは、ずっと彼と――
そう思うだけで、体の奥が、わずかに熱を帯びた。
ほんの少しだけ、扉の向こうに立つ彼の姿を想像してみる。
きっと笑ってくれる。
手を取ってくれる。
そして、名前を呼んでくれる――
希望に胸を膨らませ、少しの緊張を抱いて――
私は、ファンファーレが鳴り響く中、その扉の前に立った。
……ねえ、あのときの私は、幸せになれると信じてたのよ。
あれは、ちょうど一年前――
新婚初夜、私は人生で最も残酷な裏切りを知った。
あの日、あの時から、もう私は“妃”ではなくなったのだから。
……それでも彼は、今朝も忘れず、キスをしたわ。
手の甲ですけどね。
プロローグ、最後までお読みいただきありがとうございます。
本作は【全18話・約30,000字】の連載型短編です。
空いた時間にさくっとどうぞ(=^・^=)