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EP8#

4歳児の知能でおこなわれた大規模な逃走劇。


たしか14歳~18歳あたりだ。オニによってカプセルに閉じ込められた私の一部。誰もたどり着けないはずの大地に閉じ込められた私の元に、南極大陸探検隊よろしく女性が探検隊を率いてやって来た。

閉じ込められている私は基本的に意識を保てずに寝ているので記憶は断片的だ。


誰か来たな~すごい。何しに来たの?ここには何もないよ?っていう感情。




次に目が覚めた時には、私は白い部屋にカプセルごと機械に設置されていた。意識を飛ばしてみると巨大な機械の中にある中心部に私は設置されているらしい。なんのために?


2人の従業員が機械のそばで話している声がする。気づかれないように耳をそばだてると女性について軽口を叩いている。聞いていて気分は良くなかったけど目的はわかった。女性は私を兵器にしようとしているらしい。この女性を「野心家さん」と呼ぼう。


すこし時過ぎて、「野心家さん」が巨大な機械を見にきた。そっと様子をうかがうと野心家さんはどう私を利用して成り上がるか考えている。兵器にしようっていう考えは間違ってなさそうだ。


なんてやつだ。見込み違いにもほどがある。私に攻撃力なんてない。出来て巨大なルンバができあがるくらいだ.……と思ったところで、ふと私が抱え込んでいる悪夢や呪いはどうだろうかと思った。


ぞっと背筋に冷たいものが流れた。これら悪夢や呪いなら十二分に破壊力がある。いまは「夜」と表現しておこう。「野心家さん」はこの「夜」を使いたいのだ。


私は考えた。このカプセルから私を半分以上どこかへ逃がすとオニに気づかれる。そして私が抱えている「夜」はぎりぎり半分に満たない量だった。わずか半分に満たないその隙間にねじ込むべき「夜」を抑えられるだけの知能と記憶がいる。

焦りのままフル回転した脳が叩き出した答えは、一丁前に人が好きって感情だけ持っていればいいというものだった。夢渡りを覚えたばかりの4歳児の知能と一丁前に人が好きって感情と「夜」を自分から分離させる。黒くて小さな丸い生き物になった。


黒くて小さな丸い生き物をカプセルにつながる排水溝をイメージして巨大な機械から逃がす。カプセルの私はそのまま眠りについた。一番必要なものを分離させた私はただの情報データのようなものだ。「野心家さん」あなたの望むのものはもうここにはないよ。チラっと悪いなと思いつつほくそ笑んで寝た。




黒くて小さな丸い生き物になった私は、とにかく逃げなくちゃいけない気持ちでいっぱいだった。

夢渡りの作法なんてしらない。たすけて、たすけて、たすけて、と体当たりするかのように人の夢にあたっては別の人の夢に体当たりする。

たすけてくれる人、おもいでのばしょはどこ?

あぁ、あった。思い出の場所!


私が最終的にたどりついたのはゴミ山星だった。誰の心境風景というわけでもない、すべてのものが最後に流れ着く場所があった。夢の中でも特殊な場所だ。ここにたどり着く死人の子守唄が好きで4歳のころはずっとここにいた。ロボットなお兄ちゃんと出会った場所でもある。


4歳児の知能でおこなわれた夢渡りは、体当たりしていった夢を纏めあげてゴミ山星に街を作ってしまった。この街の一人一人が夢の主だった。もしかしたら終わらない毎日を繰り返してみる悪夢になった人もいるかもしれない。


思い出のゴミ山星について安心した私は、ゴミに潜って眠ることにした。

あぁ、疲れた。あたしを放っておいて欲しい。いまは静かに眠りたい。




しばらく眠っていると人の気配がした。神経をとがらせる。大人に捕まってはいけないことだけ覚えていたから余計だ。寝床をのぞき込んできたのは男の子だった。とぐろを巻いて威嚇した。

なによ。あたしが無害だとでも?そりゃ大したことできないわよ。だからってやられっぱなしではいられないわ!窮鼠だって猫を噛むんだから、あたしにだってできる!蛇をイメージして噛みつく準備をした。


男の子は不思議そうに2・3回瞬いたあとどこかへ消えたので、私は安心して寝なおした。




寝床の前が騒がしくて目が覚めた。複数の人が入口でなんか騒いでいる。誰かこっちをのぞき込んだ。

敵意を感じた。大人だ!あたしだってやってやる!!

うらぁ!と噛みついてぶんぶん振り回す。てやんでぇぇい。うらうらうらうらうら。


大人をぶん回す巨大な蛇になった私の足元に人が複数人あつまってきていた。

なんだおまえらもやるのか。数なんて関係ない。あたしはやってやる!


息巻いていたらパァンっと煙幕のようなものを浴びせられた。そうしたらやってやるって怒りが何処かに消えてしまい怒りで膨らんだ私の身体はあっという間にしぼんで元に戻ってしまった。

あれっ。あれっ。どうして?


敵意もなく大人たちが近づいてくる。よく見たらまだ十代後半の若い青年たちだ。そんな青年たちに感じていた敵意もどこかにいってしまっていた。

いまのなに?きみはなに?


首をかしげると、こちらを覗き込む青年も首をかしげたような気がした。

「でこぴんるーる」がちゃんと機能したんだね。




青年たちに連れられて彼らの家にいった。

彼らは廃棄物を再利用することで生計を立てていた。どうやら私も住まわせてくれるらしい。女の子1人と男の子3人で一緒に協力しながら暮らしているようだ。女の子を「あずきちゃん」、リーダーな男の子を「レモンくん」、サポートが上手そうな男の子を「イワシくん」、暴れん坊なムードメーカーを「すらいむくん」と取り敢えず呼ぶこととする。


私が「すらいむくん」をぶん回してしまったというのに、「すらいむくん」と「あずきちゃん」は好意的だった。寝床どうする?とか、食べ物は?とか嬉しそうに話している。

段ボールの寝床を作ってくれた。嬉しい。

2~3日一緒に過ごしてみて、彼らはなかなか気の良い人たちなんだと分かった。見かけによらないね。

「すらいむくん」と「あずきちゃん」は私をすごく好いてくれて通り掛けに必ず声をかけるくらいにマメだ。なんだか私は嬉しくなってしまった。

食べ物なんでもいいよ。なんならそこのゴミ箱の鉄くずとか要らないもの全部食べてあげるよ。

チラっと視界のよこで「野心家さん」がテレビに映ったのが見えた。


視線と体の動きでゴミ箱をしめす。ゴミ箱に乗りたいのかな?って思ってくれたみたい。ゴミ箱の上にのせてくれた。そのままゴミ箱のものを食べようとしたら「あずきちゃん」か「すらいむくん」に慌てて回収された。

寝床に戻されて、2人してこの子は何食べるんだろうねーって真剣に悩み始めてしまった。本当はごはんも要らないんだけどその気持ちが嬉しくてむずがゆくて眺めてしまう。


そんな何を食べさせるのかという話題に興味なさそうにしてた「レモンくん」が、唐突に私にレンチを放ってきた。思わず口を開けて食べてしまう。別に食べるものは要らなかったんだけど何だか美味しそうにみえたんだ。実際、情が込められていて美味しかった。私に興味ないように見えるけど嫌ってはいないんだなって思った。不思議な人だ。

それから私にあげるのは鉄くずということになった。アルミでもいいのに凄く几帳面に鉄くずだった。

ただ、鉄というのは再利用価値があるものが多くて私に与えられるものは少ない。「すらいむくん」と「あずきちゃん」が処分に困っている鉄釘をあげたらいいのではと「レモンくん」に話していた。

最初は鉄釘を与えるのを嫌がっていたけど、鉄釘の処分に困っている様子をみて私がコレが良いって鉄釘をぼりぼり食べたら「レモンくん」が溜息をついた。




「野心家さん」は情報データだけになったカプセル内の私では満足できなかったみたい。欲をかいて追いかけてきた。美徳として彼女は努力家だった。正面堂々と法に収まる範囲できっちり距離を詰めてきた。アナウンサーから始めて人気と知識とノウハウを得て都市計画に関与できるところにまで登りつめた。

そこには円卓があった。皆が平等な議員で私の存在を知っていた。7~8人の円卓をイメージしてくれたらいい。誰もが知っていて知らないふりをした。お互い監視しあいながら、どう相手を出し抜いて私を手に入れるか考えていた。


たとえば。

家にいる私を捕らえるために議員Aが警察を動かしたとする。そうすると議員Bが公安を動かして先んじて手に入れてしまう。議員Bが公安を動かせば議員Cが判事を動かし、議員Cが判事を動かせば議員Aが警察を動かす。やんわりそんなイメージ。三つ巴のような硬直状態のような関係に彼らはあった。

結果、青年たちの家にいる限り私は安全で彼らには手が出せない存在だった。


そんな硬直状態に風穴をあけたのが「野心家さん」だ。都市計画の延長としてゴミ山を壊すことにした。

私を狙うのではなくて、青年たちが自ら敵対しにくるよう仕向けた。敵対したならば名目が立つ。私を没収することなど容易なことだ。


もういちど言うが、彼女は素晴らしい美徳の持ち主だ。人だって殺してない。法だって破ってない。ただ私を使ってやろうとしていることが夢の中で死と終わりを呼ぶだけだ。




「レモンくん」は忙しいようだった。「イワシくん」は家にふらっと立ち寄る感じで常に旅しているかのような雰囲気だ。立ち寄ってはソファで軽く睡眠をとっていく。互いに忙しくて2週間に1回くらい会っては二言三言かわすだけ。でも不思議と仲は良いようだ。


3日間ほど「あずきちゃん」と「すらいむくん」が帰ってこないときがあった。

私は別に平気だけど、寂しいしちょっと外に出ようかなって考えていたところだった。寝床からよいしょと身を乗りだすと玄関のドアが開いて誰かが入ってくる。私は寝床におとなしく戻った。

入ってきたのは5日ぶりの「レモンくん」。家に戻らず働いていたのだろうか?体によくないよ。


ん?と部屋を見渡す「レモンくん」

私をチラリと見た。あいつらは?といった思念を感じる。

ちょっと逡巡したのち、考えるのを諦めたのか机の上の書類に目を通し始めた。


ねぇ、ちょっとは休みなよ。

そこのソファとかどう?「イワシくん」がたまに寝ているから悪くないはずだよ。


なんとかジェスチャーで意思疎通を試みる。疑問符が「レモンくん」から飛んできたように思う。

寝床から身を乗りだしてソファを指さしてみれば、近づいてきて私を出して床においてくれた。

そうじゃないんだけどな。


「レモンくん」を休ませることを諦めた私は、こんどは「レモンくん」が何しているのかが気になった。

床から机の上に乗りたいと意思表示してみる。疑問符ばかりが返ってくる。3回目くらいで机の上にのせてくれた。机の上の書類の中に見覚えのある書類がある。都市計画だ。


ね。これなに?詳しいこと知りたいから読んで欲しい。

また意思疎通を試みる。


「レモンくん」は私がこれを見てほしいことには気が付いたようだけど、読み上げて欲しいことには気づかなかった。都市計画?といぶかしむ感情が伝わってきた。

正直、潮時を間違えた。この家を離れなければ彼らを巻き込むことを分かっていながら居心地の良さに離れられなかった。ゴミ山が壊されることに彼らも仕事を奪われると感じたようで対立の様相は成り立った。




しばらくは穏やかな日常が過ぎていった。嵐の前兆のようで内心どきどきしながらその日を待った。彼らは素敵な友情と柔軟さを持っていた。もしかしたら切り抜けられるかもしれない。


ある午後のことだ。「あずきちゃん」と「すらいむくん」が車に乗って反ゴミ山撤廃デモに動き出した。その車に私も連れて行ってくれた。彼らはもうこの家に戻ることはないと本能で感じていたようにみえた。


「レモンくん」の方にある目に意識をやると追い詰められていた。たすけてたすけて。

「イワシくん」が間に合った。


街中だと騒動になる。議員たちは最初に示し合わせた計画通りに青年たちをゴミ山に追い詰めた。

ここなら何が起きても不問にできる。いくらでも情報を書き換えられる。そうゆう魂胆だ。




ゴミ山にて。

後方に巨大ルンバ、前方に「野心家さん」と議員たちの手足。挟まれてしまった青年たち。

ここまで追い詰められても私は彼らが何とかするだろうと楽観視していた。さぁ次はどうなる。


そしたら「レモンくん」が銃を手放そうとした。一瞬で思考が走った。それはだめだ。それだけはダメだ。


本能のままにNOを叫んだ。銃を飲み込む。私が武器になる。だから打て!


夢の中で大事なのはイメージだ。ロケットランチャーのように空に打ち出してくれたらいい。イメージは正しく「レモンくん」に伝わったようだ。正しく空に打ち出してくれた。


「野心家さん」は美徳の持ち主だ。欲をかき過ぎただけで。

そして、この対立構造を続けさせてはならない。ならその目的が消えればいい。つまり夜の消費だ。巨大ルンバの破壊だ。私の消失だ。


空に打ち出された私は、「夜」を鉄くずとともに打ち出してルンバを破壊した。「野心家さん」が再開発しやすいようにゴミ山も燃やしてあげた。おっと、街の人たちが不安がらないように花火に扮してあげないと。


すべての「夜」を吐き出して花火になって塵に分子に霧散した私は、「野心家さん」の耳元を通りすぎる際に囁いた。

欲のかき過ぎはよくないよ。勉強になったね。

聞こえたのか聞こえなかったのか「野心家さん」は茫然と巨大ルンバが燃えるのをみていた。


爆発後も「すらいむくん」が血気盛んにバットを振りかぶって戦おうとしていた。

もう戦う理由はない。この対立を続けさせたくない私は、「すらいむくん」がバットを人に振り下ろすたびに彼の時間を巻き戻した。何千回だって付き合ってあげる。君がそのバットを振りかぶるのを諦めるまで。

私の意気込みをよそに「すらいむくん」は三回目で諦めて地面にバットを振り下ろし諦めた。思ったより素直さんだ。





燃え上がる炎で巻き上げられた空気と一緒に、塵となった私は空に浮かんだ。巨大ルンバにあった私と合流する。幸運にもカプセルまで破壊できたようだ。合流した私は彼の成長も確認できたことに満足した。ちょどいいこのまま「さよなら」だ。


空から街を見下ろす。ゴミ山が綺麗に燃えてなくなっている。


ふと誰かの声がした。

「……ドーナッツ?」

あは。確かにドーナッツに見えるかもしれない。綺麗な円形だもの。端をみるとちょっと燃えちゃった家が見えた。たぶん気のせいだ。


「君の名前はなんていうの?」

私?私の名前はーーだよ。

そこで目が覚めた。




いつものことだけど、目が覚めると名前に靄がかかって思い出せない。

分かっているのは現実の名前とは違うってことだ。


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