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EP12/

お月さんの話


夢の中のある晩のこと。3週間くらい連続してみた夢で私が小学生の頃だ。

大きなエッフェル塔のような建物と住宅が並び立つ場所で、屋根の上をふわふわと飛んだり、すれすれに滑空して遊びながら、死人の未練を集めては街の嘆きを眺め子守唄を歌っていた。


エッフェル塔をほとんど覆ってしまいそうな大きな月があった。

最初の数日はただの月で夢の中の風景としか思ってなかった。あっちへこっちへ子守唄はいらんかね~と訪ねども無力感を味わうばかりで、未来に任せるしかない手一方塞がりな感じだった。


3回目にその街を訪れたとき、ふと月が一つの家庭にその光を投げかけているのを見る。

その家庭は中流階級でも上の方の裕福な家庭でなにも問題なかった。一人の息子と教養ある夫婦でお金も問題ない。

問題があるとしたら共働きで会話が少なく両親はいつも疲れた顔だったことだ。息子は両親の仲が悪いと思って塞ぎこんでしまい、夫婦間でも息子のそんな雰囲気を感じ取ってお互い力不足なのかもしれないと距離を取ってしまっていた。それをみて息子は自分のせいで両親が仲が悪くなっていくと思い、さらに塞ぎこんだ。


息子の様子にお手上げ状態の夫婦は離婚してしまうところまで来ていたそんな最中、月が男の子に光を投げかけた。そしたら男の子は何かに気づいて勇気づけられたようだった。

「そうだ、どちらにせよ僕のせいで離婚してしまうのなら思いの丈を伝えてみよう。」

心の中で捏ねまわしてきた屁理屈はどっかにいってしまったようだった。いや実際はあるのだろうけど何かが彼を変えた。


その晩、彼は夜遅く帰ってきた両親に思いの丈を伝えた。両親はそんな息子の本心に驚いた。

私たちの愛する息子が、私たちに嫌われていると思っていただなんて!


それから3時間ほど3人で話し合っていた。夜の2時を過ぎてもなお3人で涙を流しながら抱き合って、男の子にどんなにお互い愛しているかを伝えていた。


私は感銘を受けた。あの月なら何だって救えるだろう。

だから月に声をかけた。

「ねぇ、今のどうやったの?」


ぎょっとした雰囲気を感じた。見られていると思わなかったようだ。そのまま知らんふりをされた。

仲良くなりたくていろいろ声をかけたけど、気配を消して背景になりきる月。

しびれを切らした私は聞きたいことを聞くことにした。

「ねぇ!どうして他の人にはやってあげないの?」

「たとえばあそこの兄妹とか。」

私は廃材が捨てられている街の端、大きな土管を雨風をしのぐ家として使っている兄妹を指さした。

血のつながりはないけれど一緒に暮らしていた。でもその仲も侘しさと飢えでいまにも終わりそうだった。


そこまで私が話すと、黙っていた月がとても堪えられない話を聞いたように嘲笑した。

曰く、そういった「幸せになるための気づき」はある程度裕福でないと効かないんだって。無知で愚かだと言われた。ここ数日お前がやっていたことを知っている。その結果を知っているか?見ろ。なにも変わらないではないか、と。


私は実のところ知っていた。私がしてきたことで何も変わってないこと。でも悪くもなっていないこと。でも痛いところを突かれて涙ぐんでしまった。地団駄を踏む。

「でも、悪くもなってもないじゃん。」


そういうと月は意地悪そうに一人の男の子を指さした。先日、私が悪夢を払ってあげた子だ。

また悪夢に飲まれている。今度はもっと深くだ。月は、前の悪夢を払わなければもっと酷い悪夢に飲まれることはなかっただろうと言いたげだ。


「そんなことは分からない!誰にもわからない!悪夢に飲まれるなら何度だって!」

私は彼の悪夢に飛び込んだ。

月は嗤った。




その悪夢は本当に根深くて払いきれなかった。何かに祟られているんじゃないかって気づいたのは3日目だ。その何かに飛び込んだら力不足で自分が悪夢に飲み込まれてしまったけど、なぜか男の子が助けてくれた。私の姿を小さな生き物に変えてバレない様に逃がした。だから必ず助けに来るからと約束をした。


悪夢から這い出た私は涙をぼろぼろ溢しながら屋根の上を歩いた。飛ぶことも出来ないくらい疲弊していた。そんな私を見て、月がしたり顔で嗤いながら声をかけてきた。


私は認めた。無知だってことも。愚かだってことも。

でも諦めきれなかった。だって男の子は私を助けてくれたんだ。

だから夢の中の私は月に向かって言い放った。


「あなたが助けてくれないなら私が月になる」



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