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臆病な恋の結末  作者: みなみ ゆうき


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第35話 秘密の発覚(3)

 一歩も引かないつもりで、煌斗を見据える。

 俺の意志をはっきりと感じ取ったのか、煌斗の表情はあきらかに翳りのあるものへと変わっていた。

 重苦しさを感じるほどの沈黙の後、煌斗は自分の中で俺に言うべき答えがまとまったらしく、躊躇いがちに口を開いた。


「……ちょっと長くなるかもしれないし、誰かに聞かれるとまずいから、場所変えてもいい?」

「いいよ。どこにする?」


 即答した俺に、煌斗が苦笑いする。


「──俺とふたりきりとか、凛音はもっと警戒するかと思ってた」


 ボソリとそんなことを言われ、そこでようやく俺は、この間ふたりきりになった俺の部屋で、告白だけでなくキスまでされたことを思い出した。


 忘れてたわけじゃない。ただ煌斗に真相を問いただすことで頭がいっぱいで、それどころじゃなかっただけの話。

 むしろ今はそんなことを気にしてる場合じゃない。


「……この話を他の人から聞いた時点で、正直俺は煌斗に対してかなり不信感を持ってるから、そっちの気持ちのほうが大きいだけ」


 少し意地の悪い言い方になってしまったけれど、今は正直恋愛云々よりも、真実を知りたい気持ちが先に立っている。

 睨みつけるようにして、暗に次の行動を促すと、煌斗は自分の家を指さした。


「俺の部屋でいい?」

「…………いいよ」


 さっきの話のせいで一瞬だけ返事に迷いが出てしまったけれど、煌斗は素知らぬ顔で、家に招き入れてくれた。


「どうぞ。両親は今日残業で遅くなるって言ってたから、遠慮しないで」

「…………おじゃまします」


 二人きりだという事実をわざと認識させるような言い方に、煌斗が何かを誤魔化そうとして、こんな真似をしているのではないかという疑念が湧き上がる。

 俺は絶対に本当のことを聞き出してみせるという強い意志で、煌斗の部屋に向かった。



 ◇



 煌斗の部屋は、一見した感じ、中学の時とあまり変わっていないように見えた。

 でもモノトーンでまとめられた部屋は、以前とは違って、どことなく寒々しい印象を受ける。

 元々あまり物を置いていないシンプルな印象の部屋だったけど、今冷静に煌斗の部屋を見ると、趣味のものを含めて、その人の個性が強く表れているものが一切ないことに気付いてしまった。

 中学の時は、好きな人の部屋で、しかも二人きりというシチュエーションに舞い上がり、部屋の様子なんて気にしたことはなかったけれど、今更ながらにそのことに気付いてしまったら、俺は本当の煌斗のことをいったいどのくらい知っていたのか、俄然怪しくなってくる。

 ただでさえ煌斗に信用されてなかったのではないかと思った直後だけに、気持ちが嫌な方向へ揺らいでしまうのを止められない。


「で? 凛音は何を聞きたいの?」


 ここへ来た目的を促され、俺は部屋の中に巡らせていた視線を煌斗に固定した。

 ローテーブルを挟んで向かい側に座る煌斗は、やや緊張の面持ちで俺を見つめている。


「卒業式の時に言ってた『彼女ができた』って話、あれホントなんだよね?」


 俺が告白しようとしたタイミングで言われたことだっただけに、今考えたら、俺に告白させないための嘘だったのかなと思わなくもないけど。


「……それは本当。むこうから俺の彼女になりたいって言われて、了承した」

「その子のこと、好きだったの?」

「まさか。俺が好きなのは、昔も今も凛音だけだよ」


 当然のようにそう言われても、実際に付き合っていたと聞かされて、素直に信じる気にはなれない。

 それに聞けば聞くほど、一貫性がないというか、ちぐはぐな印象を受ける。


「この間も聞いたけど、煌斗はずっと前に『好きな人としか付き合わない』って言ってたよね? だから俺は、煌斗がその彼女のことを本気で好きなんだと思ってたんだけど」

「好きな人としか付き合いたくないと思ってたのは嘘じゃない」

「じゃあ、なんで彼女と付き合うことにしたんだよ!?」

「──色々考えた結果、かな」


 曖昧な答えばかりの煌斗に、言葉遊びで核心をぼかされているようでイライラする。


「もしかして、その子に脅されて付き合うことにしたって噂、本当のことなの?」


 これ以上、煌斗が自分から説明してくれるタイミングを待っていられず、俺はさっさと一番聞きたかったことを口にした。

 途端に煌斗の目つきが、剣呑なものに変わる。


「……それ、誰に聞いた? 凛音が自分から噂話に興味を持つとは思えないんだけど」

「誰だっていいだろ。噂なんて色んな人がしてるんだから」

「じゃあ、凛音が聞いた噂がどんな内容なのか教えて」

「……煌斗はその彼女に脅されて付き合ってたって。他の子の告白を断ってたのは、彼女が逆恨みでなにをしでかすかわからないからだって。でも結局、煌斗にフラれたのがショックで、遠くに引っ越したっていう話を聞いた」


 冷静に話し合いをしなきゃと思っても、どうしても口調が感情的なものになってしまう。

 煌斗はひとつため息をつくと、俺とは逆に、溢れ出る感情を堪えるかのように目を伏せた。


「……誰が言ったか知らないけど、大体合ってる。俺はあの女のことを好きだったわけじゃない。むしろ一刻も早く目の前から消えてほしいとさえ思ってた」


 いつも穏やかで優しい煌斗からは想像もできない嫌悪感が籠もった強い言葉に、一体ふたりの間に何があったのか、益々気になった。


「だからそうなるように、あの女の要求を飲む振りをして、もう二度と俺に近づこうとすら思わないように、徹底的に対処しただけ」

「なんで……? 脅されてたって話、ホントのことなの?」


 何も言わずに黙り込む煌斗を見て、それが本当のことだと確信した。


 隠し事をされていたことが悲しいというよりも、煌斗がそんな目にあっていた時に、何も知らずに告白すらできずに終わった初恋を未練がましく引き摺り続けていた自分が情けなくて、腹が立つ。


「なんで何も言ってくれなかったの? 俺ってそんなに頼りない? 煌斗の力になれないと思われてた?」


 責めたいわけじゃないのに、言葉が止まらない。

 自己嫌悪と恥ずかしさで感情はぐちゃぐちゃだ。

 かろうじて泣きそうになるのを堪えていると。


「……凛音を巻き込みたくなかったんだ」


 煌斗がポツリと呟く。


 海里が言ったとおりの理由に、俺は自分が本当に何もわかっていなかったのだと理解した。



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