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臆病な恋の結末  作者: みなみ ゆうき


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第34話 秘密の発覚(2)

 彼女ができたという話は嘘だったのか。

 なんで、本当のことを話してくれなかったのか。

 俺が煌斗から聞いた、告白を断る理由は嘘だったのか。


(なんで煌斗はそんなことを……)


 今までずっと信じてきたものが足元から崩れ落ちるような感覚に、俺は半ば呆然としてしまっていた。

 とてもじゃないが、頭の中も気持ちも、すぐに整理がつくような状態じゃない。

 俺の知らない煌斗の話は衝撃的過ぎて、正直何をどう考えたらいいのかさえわからなかった。




「俺って、そんなに頼りないかな……」


 下校中、ずっと考え事をしながら歩いていたせいか、心の声がうっかり口から出てしまい、慌てて口を噤む。

 隣にいる海里はよく聞こえなかったらしく、不思議そうな顔で聞き返してきた。


「どうしたの?」

「……ごめん、ただの独り言」


 それで有耶無耶にしようと思ったものの、海里は俺の意図を汲む気はないようで。


「香川のこと考えてるんでしょ」


 苦笑いで指摘され、俺は否定も肯定もできずに、黙り込むことしかできなかった。

 海里にはバレバレだろうけど、それを素直に話すのは違うと思うし。俺自身、この気持ちをどう処理していいのかわからないから、何も言えない。


 すると海里はその場で立ち止まり、俺の手をやんわり掴んできた。

 どうやら顔を合わせて、ちゃんと話したいということらしい。


「あのさ。俺が告白したから気を遣ってんのかもしれないけど、俺は凛音がひとりで悩んでるほうが嫌なの。そんな風に思い詰めたような顔されたら、気にするなってほうが無理だし。──それに俺は、凛音の友達でもあるんだからさ、悩んでる時や困ってる時には、相談くらい乗らせてよ」

「…………ありがと」


 思いがけない言葉に、気持ちが少し楽になった。


 本当なら海里に話す内容ではないかもしれないけれど、ひとりで考えていても埒が明かない気がして。

 申し訳ないと思いつつも、ここは素直に海里の好意に甘えることにした。


「海里はさ、さっきの煌斗の話聞いてどう思った?」

「うーん、そうだなぁ。あれが本当のことだとして、前に凛音から聞いた話と合わせて考えてみたら、香川は凛音を巻き込みたくなかったのかな、って思った」

「巻き込むって、何に?」

「しつこくしてきてたっていう子とのイザコザ」


 当事者から聞いたわけじゃない以上、あの話が本当のことかどうかはわからない。

 でも火のないところに煙は立たないっていうし、全部が嘘ってわけじゃないだろうから、俺の知らないところで何かがあったんだとは思うけど。


「……あの話、本当だと思う?」

「どうだろ。凛音はどう思ってんの?」

「煌斗の性格を考えると、しつこくされたり、脅されたりしたくらいで、誰かの言いなりになるとは思えないんだよね。だから、何か特別な事情があったのかな、って。あの噂がただのやっかみで、煌斗が彼女に本気だった可能性も捨てきれなくて……」

「そもそも香川は、その子とホントに付き合ってたわけ? さっきの話だと、一方的に付きまとってただけって感じだったけど」

「この間煌斗に彼女のことを聞いた時、『すぐに別れた』って言ってたから、どういう経緯であれ、付き合ってる期間はあったと思う」


 俺はずっと、煌斗が彼女のことを本気で好きなんだと思ってた。

 そうじゃなかったというのなら、一体どんな理由があって付き合うことなったのかが想像できない。


 単に俺を厄介事に巻き込みたくないだけなら、わざわざ付き合う必要はないように感じるし、そもそも煌斗が告白を断っていた理由についても、俺の認識とさっきの話とでは、全然違うのだ。


「……話聞いてて思ったんだ。ずっと煌斗の側にいたのに、知らないことばかりだったな、って。煌斗が告白を全部断ってた理由も、好きな人としか付き合わないからだって言ってたし、俺はそれを鵜呑みにしてた」


 言葉にすると、俺がいかに何もわかっていなかったのかが浮き彫りになり、再び気持ちが沈んでいく。


「凛音がそういうトラブルを何も知らなかったのは、アイツが凛音にだけは知らせたくないと思ってたからでしょ。(ないがし)ろにされてたわけじゃないと思うよ」


 うつむき加減になっていた俺の頭に、海里の手が優しく触れる。

 俺は潤みかけていた目元を誤魔化すために、ゆっくり瞬きをしてから顔を上げると、海里と視線を合わせた。

 少し色素の薄い、明るい色の瞳が、優しく俺を見つめている。


「とりあえず、ここで勝手な推測をして落ち込んでるくらいなら、この件についてアイツとちゃんと話したほうがいいと思う。本当のことはアイツしか知らないわけだし」


 俺はずっと自分の気持ちばかりに目を向けて、煌斗が本当はどんな気持ちでいるかなんて考えようともしなかった。

 でも俺の失恋の背景に、俺の知らない事情が隠れている可能性があるのなら。


「……煌斗に直接聞いてもいいと思う?」

「当たり前でしょ。むしろアイツは凛音にちゃんと何があったか説明するべきだと思う。そんなことすらしないくせに、元の関係に戻りたいなんてムシのいいこと言ってきたことに文句言ってもいいくらいだよ」


 冗談とも本気ともつかない海里の言い草に、俺はつい笑ってしまった。

 おかげでだいぶ気持ちが軽くなった気がする。


 こうして海里に背中を押され、俺は自分の気が変わらないうちに、煌斗に直接会って話を聞くことに決めた。



 ◇ 



 久しぶりに訪れた煌斗の家は、あの頃と何も変わらないままだった。

 中学の時、何度もお邪魔させてもらったな、なんて懐かしく思いながら、緊張で少し震える手で、家の前に着いたことを知らせるためのメッセージを送る。


 あの後すぐ、煌斗に連絡をした。

 今日は塾が休みで、もうすぐ家に着くところだという話だったので、俺はそのまま直接煌斗の家に向かうことにした。

 海里とは駅で別れたのだが、正直、海里は一緒に行くと言い出す可能性もあると思っていただけに、意外にもあっさり送り出してくれたことに驚いた。

 過去のことは、海里には関係ないことだから、遠慮したのかもしれない。

 後で報告しなきゃな、なんて考えていると。

 あらかじめ連絡していたからか、数秒も経たずにドアが開き、煌斗が姿を現した。


「突然来てごめん。ちょっと煌斗に直接聞きたいことがあって」


 挨拶もそこそこに用件を切り出した俺に驚いたのか、煌斗が僅かに目を瞠る。

 でもすぐにいつもと変わらない穏やかな笑みを浮かべて、俺を見つめた。


「凛音と会えて嬉しいから、俺は全然大丈夫。どうした? 何かあった?」


 俺がこれからしようとしている話なんて、想像もしていないように見える煌斗に、あの話はやっぱり単なる噂でしかなかったんじゃないかとさえ思えてくる。


「今日、煌斗と例の彼女のこと、聞いたんだ」


 でもその瞬間、煌斗の笑顔が貼り付けたようなものに変わったことで、あの話があながち嘘じゃないことを察した。


「どういうことなのか、ちゃんと話してくれるまで帰らないから」


 何も言ってくれない煌斗に、畳み掛けるようにそう言うと、煌斗は観念したように、深いため息を吐いた。











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