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臆病な恋の結末  作者: みなみ ゆうき


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第30話 過去の告白(1)

 なんとなく気まずい感じで海里と別れた翌日。

 教室に入ると、そこにはすでに自分の席に座っている海里の姿があった。

 俺と目があった瞬間、苦笑いしながら軽く手を振ってきた海里に、俺も小さく手を振り返す。

 その様子に微かな違和感を感じたものの、すぐに普段と変わらない表情になった海里にホッとした。

 しかし、いつもならすぐに俺のところに来るはずの海里は座ったままで、視線もすぐに逸らされた。

 あきらかに様子のおかしい海里に、俺が感じた違和感は間違いではなかったのだと確信する。


 正直、昨日の煌斗とのことで手一杯だった俺は、海里のことにまで気が回っておらず、どうして海里がこんな態度なのか、見当がつかなかった。


(もしかしたら俺の気の所為かも……)


 そう考え、海里のほうに視線を向けてみたものの、海里がそれに気付いてくれることはなかった。



 ◇ 



「ちょっと凛音、一体どういうこと?」


 二時間目が終わってすぐに、数人のクラスの女子に取り囲まれた俺は、いきなりそんな風に尋ねられ、困惑した。


「え、なにが?」


 海里のことを言っているのはわかっても、正直どう答えていいのかわからず、あえてそう問い返す。


「なにが、じゃない。どうなってんの、あれ」


 『あれ』という言葉と共に指をさされた方向に視線を向けると、そこには自分の席で教科書を開いて、ノートになにかを書いている様子の海里の姿があった。


(休み時間も勉強してるなんて珍しい。そうする理由が、今日提出しなきゃいけない課題があった、とかだったらいいけど……)


 そんなことを考えていると、俺の思考を読んだらしい女子から即座に否定されてしまった。


「言っとくけど、課題なんてないから。あっても海里は学校じゃ絶対やらない」

「え、そうなんだ」


 反射的にそう答えた途端、周りにいた女子だけでなく、少し離れた場所からも深いため息が聞こえた。


「あのさ、普段は無関心な凛音に対して、そういうものありかなって思うけど。今はないわ。絶対ない」


 ハッキリと断言された挙句に、一斉に頷かれ、居心地の悪さを感じた俺は、観念することにした。


「……ごめん。察しが悪くて」


 素直に謝りながら海里のほうに視線をむけると、ちょうど席を立ったところだったようで、こちらには目もくれず、すぐに教室から出ていった。

 こんなところで話してたら、聞きたくなくても聞こえてしまっていたに違いない。

 申し訳ないし、なんとなく後ろめたいし、滅茶苦茶気まずい。

 そんな風に感じている俺のことなんて気にかける様子もなく、彼女たちの追及は続く。


「で、なんなの? まさかケンカしたとか?」

「してないと思うけど……」


 歯切れが悪くなってしまうのは仕方ない。

 思い当たることといえば、不可抗力とはいえ、海里が送ってくれると言ってくれたのを断って、煌斗を選んだ感じになってしまったこと。

 ほぼ初対面のはずなのに、やたらと険悪だった二人の様子を思い出す。

 海里は俺のことが好きだと言ってくれているのに、他の人と帰るのは無神経だと思われたのかもしれないし、もしかしたら海里を傷つけてしまったのかもしれない。


(でも煌斗は同じ駅だけど、海里は全然違う方向だし。べつに煌斗を選んだわけじゃないことくらい、あの会話でわかると思ってたけど……)


「思い当たることがあるんなら、早めに話し合って解決しなよ」

「……思い当たることはなくもないんだけど、それじゃない場合もあるかもしれない」

「だったら直接、『どうしたの?』って聞きなよ」

「そうだよ。凛音ってさ、いつも海里のほうから何かしてくれるのが当たり前になってない?」


 鋭い指摘に、ぐうの音も出ない。


「こういう時くらい、凛音のほうから歩み寄りなよ」

「……そうだね」

「頑張れ!」

「……ありがとう」

「ほら、海里戻ってきたよ」

「早く行きな」


 俺たちの仲を心配してくれているらしい彼女たちに発破をかけられ、俺はどうやって海里に話しかけようか必死に考えた。

 自分の席に座って、こちらを見ようともしない海里は、俺知ってる海里とは別人のようで近寄りがたい。

 でも彼女たちの言うとおり、今回は俺のほうから行かないとダメなんだと、自分を奮い起こして声をかけた。


「海里」

「なに? どうしたの?」


 名前を呼ぶと、返事はしてくれたものの、やっぱり微妙に視線が合わない。

 どうしていいのかわからなくなった俺は、それ以上何も言うことができないまま、チャイムの音で時間切れを知らされることになった。

 結局その後も、タイミングが合わないのか避けられてるのか、海里に話しかけることができず、クラスメイトに気を遣わせるだけの時間が続いていった。


 これまでは、いつでも海里のほうから話しかけてくれて、俺がどんな反応をしても気にする様子もなく、ずっと好意を示してくれていた。

 それは当たり前のことではなく、海里の優しさと気遣いで成り立っていたのだと、あらためて思い知らされたかたちだ。

 そして今更ながらに海里の好意に甘えていた自分に気づくのと同時に、海里とちゃんと向き合わなければという思いに駆られた。


 とは言っても、周囲に見守られている状況では、海里に近づくのもなかなか緊張する。

 どう行動すればいいのかわからないまま下校時刻を迎え、クラスメイトたちの、何やってるんだという視線が痛いくらいに突き刺る。

 作戦を考えて出直そう。そう考えていた時、不意に俺の前に見慣れた人影が現れた。


「一緒に帰ろう」


 いつもより緊張した表情から、海里も俺にどう接したらいいのかわからずに今日を過ごしていたことが窺えた。

 また気を遣わせてしまったことに申し訳なさを感じつつも、きっかけを作ってくれたことにホッとする。

 さりげなく周囲に視線をむけると、クラスメイトたちが俺たちの様子を固唾をのんで見守っているのが伝わってきた。


 俺はアドバイスしてくれた女子たちに、ありがとうの意味を込めて軽く手を振る。

 彼女たちは笑いながら、頷いてくれていた。

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