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臆病な恋の結末  作者: みなみ ゆうき


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第28話 二人の繋がり(5) ※海里視点

 凛音を好きだと公言してからというもの、周囲から温かい目で見られることが増えた。

 それは俺が一方的に凛音に構いに行ってる事実を目の当たりにし、さらに凛音が思っていた以上に俺に対して塩対応だったことで、どうやら俺がものすごく不憫に見えていることが原因らしい。

 本人たちは全くと言っていいほど気にしてないし、凛音だって俺と一緒にいることを当たり前のように受け入れてくれているのだが、俺のほうが凛音に対する気持ちが圧倒的に重い分、必死さが滲み出た結果なのかもしれない。


 告白とも言えない、凛音への一方的な気持ちの表明は、成り行きというか、その場勢いではあったものの、自分の中にあるものを言葉にしたことで、凛音に対する気持ちが、どういうものに変化しようとしてるのか自覚した。

 血の繋がりによる親近感から、仲の良い友達に対する親愛の情へ。そして特別な相手に抱く恋愛感情へ。

 凛音のことは出会うまえから親近感を感じていて、一緒にいるようになってかなり好きになったけど、凛音に対し恋人同士の付き合いを望むわけでもなかった俺は、この気持ちがまだ友達の領域を越えていないのだと思っていた。

 秘密を抱えていることや、軽い気持ちで凛音に近付いた後ろめたさはずっとあったし、何も知らない凛音に対するもどかしさは、恋とは別物だと認識していたから。


 本人は知らなくても俺と凛音には深い繋がりがある。ちゃんとした絆が生まれる要素があるのに、恋なんていう不安定な感情を必要としていない。


 ──あの日まで、俺はそう信じていた。



 ◇



 体育祭の打ち上げの日。

 クラスメイトの女子たちに頼まれ、全く参加する気のなかった凛音を打ち上げに参加させるという役割を担うことになった。

 凛音がこういうの苦手だって知ってるけれど、女子たちの熱意としつこさに押し切られ、また、俺自身も『休みの日の凛音』を見たいという下心を抑えきれず、凛音に拝み倒す手段に出た。


  凛音は優しい。普段は素っ気ない態度をとっていても、他人を不快にさせる言動は絶対にしないし、何より押しに弱い。

 だから俺はクラスメイト達には渋々と言った体をとりつつも、内心では絶対にこのチャンスを逃してなるものかと意気込んでいた。


 案の定、凛音は打ち上げに参加する気はないようで、クラスのグループチャットすら見ていなかった。それは想定内のことだとみんなわかっていたようで、俺だけでなく他のクラスメイトたちも、個人的に凛音に連絡をし、どうにか打ち上げに参加してもらえないかという、誘いというより懇願に近い内容のメッセージを送っていたらしい。

 俺に至っては、メッセージだけじゃ、いつもどおり既読スルーで終わりになる可能性を考え、俺から送ったものに既読がつくのをじっと待ちかまえ、既読後すぐに音声通話を開始するという、一歩間違えればヤバい感じの手段に出た。

 結局、根が優しくて押しに弱い凛音は、彼女たちの頼みを無下にはできなかったのか、それとも了承するまで俺がしつこく粘ったからか。無事に打ち上げに参加してくれることが決まった。


 それをクラスのグループチャットで報告したところ、女子だけでなく男子からも『よくやった』的な反応があり、体育祭効果でクラス全体に妙な一体感が生まれているからという一過性の理由だけじゃなく、俺たちというか凛音に対して、概ね好意的な印象を抱いているんだということを感じて嬉しくなった。


 実際のところ、今はなんやかんやで盛り上がっている女子たちも、最初は俺たちが一緒にいる姿をただ遠巻きに見ているだけだった。それから少しずつクラスの女子たちが話しかけてくるようになり、最近は俺と凛音が一緒にいる時もいない時でも、わりと気軽に声をかけてくるようになったのだ。

 根が優しい凛音は彼女たちを邪険にできず、いちいち律儀に対応してるのだが、それがまた妙に女子受けしているようで、凛音がひとりでいる時にも話しかけにいく人が現れ始めた。

 そういう時、凛音は困った顔をして、俺に視線を寄越して助けを求める。

 それに気付いた俺が颯爽と間に入っていく、ということを繰り返しているうちに、俺たちと話したいというよりは、俺たちの反応を見て楽しむといった流れが出来上がっていたように思う。

 しかも俺がいない時に初日のようなことがおこらないようにという気遣いなのか、凛音を困らせるような真似をする人間を近寄らせないことがクラス内での暗黙のルールになってるらしく、女子たちほどではないものの、周りの男子もそれなりに凛音の様子を気にかけてくれるようになっていた。

 ちなみに初日に俺に話しかけ、凛音を見下した態度をとった女子は、他の女子から白い目で見られたことが堪えたのか、俺や凛音に全く近寄ってこなくなった。


 そんな感じで、今のクラスメイトたちは、俺たちが一緒にいることを半ば公認のように扱ってくれるばかりか、俺たちが嫌な思いをしないよう気遣ってくれる。

 凛音も去年よりもずっと、俺と一緒にいるのが当たり前だと思ってくれているのが伝わってくるばかりか、俺を頼りにしてくれていて。

 1年生の時よりも確実に縮まった距離に、俺は喜びを感じるのと同時に、初めて凛音の存在を知った時からずっと思い続けてきた自分が報われたような気がしていた。 


 でも、凛音と一番仲が良いのは俺だし、凛音とは本人すらも知らない切っても切れない縁があることが、少しずつ慢心と油断を生み出す原因になっていたのかもしれない。

 後に俺は、それをまざまざと認識させられることになり、自分では意識していなかった感情と、強制的に向き合う羽目になったのだ。



 ◇


 

 打ち上げの日の朝、母が大慌てで、寝ている俺を起こしにきた。

 何事かと思って話を聞いたところ、飼っている犬が、母がうっかり落としてしまったピアスを飲み込んでしまったかもしれないという話だった。

 休日でも診療してくれる動物病院をスマホで検索しつつ、両親と俺で家中を探しまわった。

 そんなことをしているうちに時間はどんどん経過していき、打ち上げの開始時間に間に合わない可能性が出てきたため、凛音とクラスのグループチャットに《用事があって遅れる》という連絡をした。

 結局、ピアスは洗面台の脇の隙間から見つかり、飼い犬は何も飲み込んでいなかったことがわかった。

 そこから大急ぎで準備をし、打ち上げ会場であるカラオケ店にむかった。電車に乗っている最中、クラスのグループチャットや俺の個人IDに打ち上げの様子が送られてきて、凛音もちゃんと参加してくれていたことを知って嬉しくなった。さらに、凛音を写した画像も送られてきて、俺はそれを眺めながら、早く最寄り駅に着かないかな、とそわそわしていた。


 電車を降りたところで、凛音に《もうすぐ着くから》と連絡を入れ、焦る気持ちを抑えながら改札に向かった。その時、思いがけず凛音の姿を見つけたのと同時に、見覚えのない人物が一緒にいることに気付き、胸がざわついた。


 親し気に凛音に何かを話している様子から、友達かなとは思ったものの、凛音の表情は困っているというか、戸惑っているようにも見える。

 凛音を助けなきゃと思った瞬間、俺は人目も憚らずに声を上げていた。


『あ、凛音いた! 遅くなってごめん?』


 まだ少し距離はあったものの、俺の声はちゃんと届いていたらしく、凛音は突然自分の名前を呼ばれことに驚いてはいたものの、すぐにほっとした表情になった。

 俺は凛音の側にいた人物をさりげなく観察しつつ、凛音だけに話しかける。

 凛音もこの人物とこれ以上話すつもりはないようで、いつもより親し気な感じで俺に話しかけてきた。

 蚊帳の外になった人物が俺に探るような視線をむけていることに気付いていたが、俺はあえてそれに気付かなかった振りをして、凛音と親しいのは俺だと、わざとアピールするような真似をし牽制した。

 そして凛音がそいつにあっさり別れを告げた時、俺は優越感にも似た気持ちを感じていたのだが。

 そいつは突然、凛音の腕を掴んで自分のほうに引き寄せると、凛音には気づかれないように、俺に鋭い視線を向けてきた。

 挙げ句に、俺に二人の関係を見せつけるかのように、耳元に唇を寄せ何かを話し始めたのだ。


 どういうつもりかはわからない。でも、凛音がそれに対して戸惑いつつも、『わかった』と返事していたことで、俺の知らない二人の時間があったことを見せつけられた気がした。


 その瞬間、俺の中にあったものが音を立てて崩れていき。


 ──俺の中にある凛音への気持ちが、親愛から『恋』に変わっていたことを自覚した。


 

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