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臆病な恋の結末  作者: みなみ ゆうき


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第27話 二人の繋がり(4) ※海里視点

 見た目が良くて、ノリもいい。性格は穏やかで優しいし、フットワークも軽い。


 ──それが他人から見た俺の印象。


 でも、いざ付き合いだすと、女の子たちが満足するような理想の彼氏ではなかったようで、むこうから告られたのに、フラれるのは俺のほうっていうのが、いつものパターンだった。

 そんな俺の評価は、『友達なら最高。でも彼氏だと物足りない』というものらしい。

 そう言われる原因はずばり、コミュニケーション不足。

 実は俺、凛音と会うまで、用もないのに毎日誰かに連絡をするなんて、たとえそれが彼女だとしても、無駄とまでは言わないけれど、絶対に必要なものだとは思えなかったのだ。


 いわゆる恋人関係において、かなりの頻度でメッセージのやりとりや通話をすることが、相手に対する気持ちのバロメーターのように思われているのは知っていた。

 用もないのに一日に何度も連絡し、相手からのメッセージには即レス。

 正直、それらを面倒だと感じることが多かった俺は、相手の望みに応えられていない自覚があったし、それが原因で別れを切り出されるんだったら、それはそれで仕方ないとさえ思っていた。


 でも凛音に会ってからというもの、まるで意識が全部塗り替えられたかのように、ふとした瞬間、ほんの些細なことを口実に、連絡したくなってしまう自分がいる。

 彼女たちと俺との違いは、相手が反応してくれるのが当たり前だと思っていないことくらいで、俺はあんなに理解できないと思っていた彼女たちと同じような行動をしてしまっていることに、正直自分でも呆れている。

 歴代の彼女たちにもしたことのないような甲斐甲斐しさを発揮し、凛音の心の内に少しでも俺の存在を入れてもらえる時をじっと待つ。

 それは健気なようでいて、実は自分勝手な行動なのだと、わかっていてもやめられない。


 凛音と出会ってからというもの、これまで味わったことのない感情が次から次へと湧いてきて、正直戸惑うことも多い。

 その上、俺たちの距離がゆっくりとしか縮まらないことに、焦りやもどかしさを感じたりもする。でも凛音と出会ってからの俺の人生は、確実に色鮮やかなものに変わっていった。


 ──その変化が、どういった感情から生まれたものなのか、自覚することができないままに。



 ◇



 新学期。俺は期待と不安で胸をドキドキさせながら校門をくぐった。

 俺たちの学校では、二年生に進級する時にクラス替えがある。進路や選択した授業によってクラス分けされるのだが、俺と凛音の選択したコースと授業は、学年の中でも一番多くの人が選ぶものだったため、同じクラスになれない可能性が大いにあった。

 凛音は最初の時よりもだいぶ気を許してくれているのだと感じることが増えたところだったのに、クラス替えによって物理的に距離が離れた途端、凛音の中で俺の存在がリセットされてしまう気がしてならず、不安でしかたなかったのだ。


 祈るような気持ちで、生徒玄関前に掲示してあるクラス発表を確認すると、俺と同じクラスに凛音の名前があって、心底ホッとした。

 三年でのクラス替えはない。卒業までずっと凛音と一緒だということが確定し、俺は踊りだしたくなるくらいに浮かれながら教室にむかった。


 一年前の教訓を生かし、声をかけられても軽く挨拶する程度で、一切立ち止まることなく、真っすぐに教室を目指した。

 教室に入ってすぐに、すでに席についていた凛音を見つけた。凛音も俺が来たのに気付いたらしく、さりげなくこちらに視線を寄越す。

 その視線は去年とは違い、すぐに下げられることなく、俺をしっかり捉えていた。

 本当に距離が縮まったな、なんて感慨深いものを感じながら、若干早足で凛音のところにむかった。


 昨夜俺は凛音に、


《今年も一緒のクラスになれるといいね》

《てか、絶対なりたい!》


とメッセージを送った。すると凛音は珍しく、


《そうだといいけど》


と返してくれたのだ。


 返信がきただけでなく、同意ともとれる言葉に、俺は喜びを感じながらも、もし同じクラスになれなかったら、という不安でほとんど眠れず、そのまま朝を迎えた。


 でも俺の祈りが通じたのか、それともやっぱり運命なのか、俺たちは同じクラスになることができたのだ。しかも、凛音の反応をみる限り、ちゃんと友達だと認識されてるようだとわかり、嬉しくなった。


『おはよ! 同じクラスですっごく嬉しい! 今年は修学旅行もあるからさ、凛音と離れ離れになったらどうしようかと思ってた』


 いつも以上にハイテンションで話しかけると、凛音は少しだけ苦笑いしつつも、ちゃんと言葉を返してくれた。


『……おはよう。俺も海里がいてくれてよかったよ』


 ぶっきらぼうな言い方だけど、凛音が俺と同じクラスになったことを喜んでくれているのが伝わってきて、胸が熱くなる。

 幸先の良いスタートだな、なんて思っていると。


『おはよ、海里! 一緒のクラスになるの、中二の時以来だねー』


 突然凛音との時間を邪魔され、俺は反射的に舌打ちしそうになった。

 凛音を見ると、自分には関係のないことだといわんばかりに、聞こえないふりというか、関わる気は一切ないといった感じで、俺から視線を外していた。


 その態度に気持ちが沈んでいくのと同時に、空気も読まずに話しかけてきた同中出身の女子に対し、苛立ちが湧いてくる。

 でもここであからさまに冷たい態度をとってしまったら、凛音に変なとばっちりがいきかねないと思い直し、当たり障りのない対応をすることにした。


『おはよう。そうだね、久しぶり』


 張り付けた笑顔と共に、簡潔に言葉を返す。すると相手は凛音のほうをチラリと見た後、話の矛先を変えてきたのだ。


『──そっちは友達? あ、もしかして、海里が自分から絡みに行ってるっていう人? 確かにそのへんの女子よか綺麗だけど、陰キャって感じ。なんかこういうタイプと一緒にいるの意外だねー。話合わなそう』


 もしかしたら本人に悪意はないのかもしれないが、嫌な感じを受ける言い方に、俺はかなり頭にきていた。

 俺自身があれこれ言われるのは受け流すことができるのに、凛音のことに関しては寛容になれない。──しかも俺のせいで、こんな言葉を聞かせてしまったのなら、尚更。


 事を荒立てず、でももう二度とこんなことを言わせないためにはどうしたらいいか考えていると。


『ホントに二人は仲良いよね。一年の時からずっとベッタリだし。海里は隙あらば凛音のとこに行ってるイメージ』


 それまで俺たちの様子を遠巻きに見ていたらしい他の女子たちが、ここぞとばかりに俺たちの会話に参戦してきたのだ。


『凛音は普段は不愛想だけど、海里と一緒にいる時は、ちょっとだけ柔らかい表情になるんだよね。それがなんか特別って感じで、見てるこっちも嬉しくなるの』

『わかる! 海里と凛音、二人とも顔面偏差値高いから、絵になるっていうか、ぶっちゃけ目の保養だよ』


 本人も自覚してなかったらしいことを熱く語られ、凛音は苦虫を嚙み潰したような顔をしていた。

 そんな凛音を見て、苛立ちなんてすっかり吹き飛んだ俺は、せっかく出してもらった助け舟に全力で乗ることにした。


 ──周りを味方につけつつ、凛音に悪意の矛先がむかないように。


『俺が凛音のことが好きで付きまとってるだけ。今のところ完全に片想いだけどね』


 そう発言した途端に、周りから小さく悲鳴のような声があがる。

 凛音を下げるような発言をした女子は、バツの悪そうな顔で離れていった。

 一応告白されたかたちになった本人はというと、驚きのあまり目を丸くした後、すぐにふざけんなとばかりに俺を睨んでいた。



 ◇



 その日から、俺は凛音のことが好きだと、躊躇いなく口にするようになった。


 幸いにも今はこういうノリを喜んでもらえる時流らしく、俺の発言に対して奇異な目を向けられたり、嫌悪されることもなく、むしろクラス中から温かく見守られ、応援されている状態だ。


 凛音は、俺が好きだと口にする度、複雑そうな顔をする。

 それがどういう気持ちからくるものなのかはわからない。

 もしかしたら、時折見せる暗い表情となにか関係があるのかもしれないけれど、そこに踏み込んでいくにはまだ足りないものが多すぎる。


(もう少し、凛音に俺のことを意識してもらわないと無理かもな……)


 そう感じていた矢先、俺の気持ちと俺たちの関係に大きな変化をもたらす人物が現れた。



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