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臆病な恋の結末  作者: みなみ ゆうき


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第21話 動き出す時間(4)※煌斗視点

 凛音と再会し、告白ともいえない想いを伝えた後、あらためてちゃんと顔を合わせて話がしたいと思った俺は、凛音に『直接会って話したい』というメッセージを送った。


 しばらくしてから既読がついたものの、返ってきたのは、『また連絡する』という、少し素っ気ない印象を受ける言葉だった。


(もしかしたら、迷惑だと思われたのか……?)


 そうは思っても、ここで引き下がったらまた疎遠になってしまうのではないかという不安に駆られ、そこでトーク画面を閉じる気にはなれなかった。


『じゃあ、予定がわかったら連絡して』

『俺はいつでも大丈夫だから』


 内心の焦りを悟られないよう、なるべく当たり障りのない感じの言葉を選ぶ。

 しかしそのメッセージは既読にすらならず、俺の中に生まれた不安は膨らんでいく一方だった。


 じっと画面を眺めて待っているだけの時間が耐えられず、俺はまたしても凛音のクラスメイトから情報を聞くことにした。

 その結果、凛音は今日学校で体調不良になり、早退したことを知ったのだ。


 翌朝になっても、凛音に送ったメッセージは未読のままだった。

 もしかしたらまだ体調が回復していないのかもしれないと考えていたところ、凛音のクラスメイトから凛音が学校に来ているという連絡がきた。


 俺は6時間目の授業が自習になったのをいいことに、早退することに決めた。

 凛音は部活に入っていないため、授業が終わるとすぐに帰ることが多いらしいので、今から行けば下校する凛音に会える可能性が高い。

 さすがに校門前で待ち伏せはまずいから、駅で凛音を待つしかないと考え、凛音が通う学校の最寄り駅へとむかった。


 改札を出たあたりでちょうど、この間凛音と一緒にいた『藤島海里』の姿が目に入った。目立つ容姿の藤島は、遠くからでもすぐにわかる。

 その隣に凛音の姿を確認したのとほぼ同じようなタイミングで、二人がこちらを見て、驚いたような表情をしているのがわかった。


 凛音が藤島と何かを話している姿を視界に入れながら、凛音のもとへ歩いていく。


 すると、警戒感をあらわにした藤島が、俺からの視線を遮るように、凛音の前に立ちはだかったのだ。

 まるでヒーロー気取りの藤島に一切目もくれず、俺は後ろにいる凛音にむかって話しかけた。


「良かった、ここで会えて。昨日あの後すぐに連絡したんだけど既読つかないし、電源切りっぱなしになってるみたいだから、なにかあったんじゃないかって思ってさ」


 何があったのかは知ってるが、あくまでも状況から勝手に推測した上での行動だと説明する。

 藤島のせいで凛音の表情を(うかが)い見ることはできないが、驚いている様子なのは、声の感じで伝わってきた。でもそこに迷惑そうな雰囲気は感じない。

 そのことに内心ほっとしていると、目の前にいた藤島が苛立ちを隠そうともせず口を開いた。


「せっかく会えたところで悪いんだけど、今日は遠慮してもらっていい? 凛音、昨日体調悪くなったばっかでまだ本調子じゃないから、すぐに帰らせてあげたいんだよね」


 藤島は俺と凛音の関係性を知っているのか、あからさまに俺を牽制してきたのだ。

 それまであえて視界に入れないようにしていたが、さすがに正面切って口出しされたら無視するわけにもいかず、無言のまま睨みあう。


 俺たちの間に流れ始めた剣呑な空気を感じ取ったらしい凛音は、窘めるように藤島の腕に触れた後、俺の前に姿を見せてくれた。


「……メッセージ見れてなくてごめん。昨日学校で具合が悪くなって早退したんだ。夜一回起きた時にスマホ確認したけど、その後すぐにまた電源切って寝ちゃったから」


 後ろめたいと思っているのか、俺を見つめる瞳が揺らぐ。それでも俺から目を逸らさないのは、凛音の誠意の表れなのかもしれない。


 そんな風に思っていると、凛音はまるで助けを求めるかのように藤島に視線を向けたのだ。

 その瞬間、胸の奥に灼けつくような痛みを感じる。

 俺は咄嗟に凛音の首筋に触れることで、強引に凛音の視線を取り戻していた。


 俺の行動に凛音は驚き固まっている。藤島は不快感をあらわにしながら俺たちの間に割って入ってきた。


「何やってんの? 凛音が困ってるのがわかんない?」


 まるで、凛音のことを一番理解しているのは自分だと主張するような言い方に、激しい怒りを感じる。


 俺は凛音からほんの少し距離をとると、藤島を嘲るように一瞥し、完全に挑発するつもりで、わざと意味深な言葉を口にした。


「凛音のことが心配で、他のことなんて目に入ってなかったから、つい二人でいる時みたいな感覚になってた。ごめんね」


 笑顔と共に告げた言葉はかなり衝撃的だったらしく、藤島だけでなく凛音までもが言葉を失っていた。


 この様子から、藤島は俺たちの間にあったことを、凛音から何も聞いていないのだと確信する。

 おかげで少し冷静さを取り戻すことができた俺は、藤島との間に元々あった険悪な空気をさらに悪化させつつも、やや強引に凛音を家まで送る権利を得たのだった。


 ◇


「……部屋の雰囲気、変わってる」


 久々に訪れた凛音の部屋。以前とすっかり様変わりした室内の様子に呆然とする。

 まるで俺との思い出など何もなかったかのような空間に、俺は時間の経過と俺たちの関係性の変化を実感し、焦りを感じた。


 どこかに俺の見知ったものがないかと視線を巡らせていると、飲み物を持った凛音が部屋に入ってきた。


「なにやってんの? 適当に座ったら?」


 どこか呆れを含む言い方に、俺は不躾な真似をしてしまったことを反省しつつ、ペットボトルを受け取る。

 しかし、凛音が俺から離れた位置に座ったことで、以前との違いを決定的に突きつけられたように感じた瞬間。それまでかろうじて抑え込んでいた感情が、急激な勢いでせりあがってくるのを感じた。

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