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臆病な恋の結末  作者: みなみ ゆうき


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第19話 動き出す時間(2)※煌斗視点

 俺の姿を目にした凛音はひどく驚いた顔をしていた。


 スマホを片手に持ったまま、呆然と俺を見つめている凛音から目が離せない。


 すぐにでも駆け寄って抱きしめたい衝動に駆られたものの、俺に対する凛音の気持ちがどうなっているのかわからなのにそんな真似をするわけにもいかず、俺は色んな葛藤を抱えながら凛音のほうへ歩いていった。


「驚かせてごめん。凛音の姿が見えたから呼び止めなきゃと思って」


 わざわざ凛音に関する情報を聞き出した挙句に、待ち伏せまでしていたくせに、自分で言っていて白々しいにも程がある。

 心の中で、凛音に不要な警戒心を抱かせないためだと言い訳をしながら、卑怯で臆病な自分を悟られないよう、あくまでも偶然の再会を装った。


 凛音は俺との再会がよほど予想外だったのか、すぐ目の前に立った俺をしばし無言のまま見つめている。

 目を逸らされたり、あからさまに嫌な顔をされなかったことに正直ほっとしたものの、あまりに反応がなさすぎて、さすがにどうしたものかと考えていると。

 凛音は我に返ったようにハッとした後、ぎこちない笑みを浮かべながら口を開いた。


「──久しぶり。元気だった?」


(一緒にいた頃は、目が合うと必ずと言っていいほど柔らかな笑みを見せてくれていたのに)


 そう思ったところで、二人の間にある空白の時間をあらためて突き付けられた気がして、焦りにも似た気持ちが大きくなる。


 凛音が以前と同じ気持ちのままでいてくれるなんて、そんな都合のいいことは考えていないつもりだった。

 だけどその表情や仕草から、俺への気持ちが残っていないか探してしまっている自分がいることに気付いた瞬間、凛音に対する渇望をはっきりと自覚して、すぐにでも凛音の全てが欲しくて堪らなくなった。


 凛音はそんな俺の想いに気づく様子もないどころか、今更どういう距離感で接したらいいのかわからず戸惑っているように見えた。

 自分の判断の甘さが招いた結果とはいえ、一緒に過ごした時間がすべてリセットされてしまったように振る舞われるのは想像以上につらい。

 でも、もう一度あの時のような関係を取り戻そうと決めたからには、絶対にここで引き下がるわけにはいかなかった。


(まずはちゃんと話をしないと)


そんなことを考えていると。


「あ、凛音いた! 遅くなってごめんっ!!」


 改札のほうから聞こえた声に、凛音が明らかにホッとした表情になったのがわかり、舌打ちしたくなる。

 しかもその人物は凛音のすぐ側まで駆け寄ってくると、まるで俺の存在など目に入っていないかのように凛音と話し出したのだ。


 二人のやりとりから、コイツが例の『凛音のことが好きだと公言していて、そのことを周りからも応援されている』という人物なのだということがわかった。


 ぱっと見は、見た目も言動も軽薄そうな感じ。でもそれはあくまでも『そう装っているだけ』だという印象が拭えない。

 たぶんコイツは自分が他人からどう見られているかわかっていて、わざと奔放に振る舞うことで、簡単に本心を悟らせないようにしているのだろう。


 凛音は気付いてないようだが、一瞬目が合った時、明らかに俺に対して鋭い視線を向けていた。

 今だってわざと注目を浴びるような言動をしながら、凛音の意識を自分に向けることで俺を牽制しようとしているのがわかる。


 それに気付けたのは、おそらく俺と同類だからだろう。


 誰に対しても穏やかな態度でいられるのは、興味のない人間に感情が動かされることがないから。

 好きな人の前では自分の醜い部分を見せたくなくて、無害で優しい人間のふりをしているだけ。

 だけど、凛音に対しては、執着にも似た想いを抱えている。


 きっとコイツも俺と同じ。──この気に食わないっていう気持ちは、いわゆる同族嫌悪というものだ。


 そんなことを考えながら、俺の居場所だったはずのところにおさまろうとしている相手を観察していると、不意に凛音が俺のほうに視線を向けてきた。


「うるさくしてゴメン。友達きたから、もう行くね」


 その言葉に焦りを感じた俺は、咄嗟に凛音の腕を掴み、引き留めるような真似をしてしまう。


 以前の俺だったら絶対にしないであろう強引な行動に、凛音はまさか俺がそんな真似をするとは思わなかったのか、驚いた表情のまま俺の顔を凝視していた。


 俺は驚かせてしまったことを心の中で謝りつつ、凛音の腕を掴んでいる力を少しだけ緩めると、そのまま自分のほうに引き寄せた。

 そして誰にも渡さないという強い思いを込めて、当然のような顔をして凛音の隣にいた人物に鋭い視線をむける。


 凛音からは見えていないからか、アイツは俺への不快感を隠そうともしていない。

 俺はわざと見せつけるようにして凛音の耳元に唇を寄せた。


「──夜にまた連絡するから」

「え……?」


 一瞬何を言われたのかわからなかったらしい凛音が、反射的に顔を上げる。少し動けば簡単に唇が届きそうな距離感に戸惑う凛音に対し、俺はあえて真剣な表情で言葉を続けた。


「……凛音に聞いてほしいことがあるんだ」


 凛音は俺の意図を図りかねているらしく、しばらくの間無言で俺を見つめると、ただ一言、「わかった」とだけ口にして、俺から視線を外してしまった。


 俺は凛音との関係が再び繋がったことに少しだけ安堵しながらも、この先どう動くべきか考えていた。



お読みいただきありがとうございます。

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