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臆病な恋の結末  作者: みなみ ゆうき


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第16話 煌斗の事情(前編)※煌斗視点

 初めて凛音と会った時、こんなにきれいな人がいるのかと内心とても驚いたのを覚えている。


 見た目だけの話じゃない。纏っている空気というか、醸し出す雰囲気がとても清廉なものに感じて。外面を取り繕うことには長けていても、心の奥底にはいつもドロドロした澱のようなものが滞留している俺には、凛音の存在がとても眩しく見えたのだ。

 

 誰もやりたがる人がいないから引き受けた図書委員。最初は面倒だなとしか思っていなかったが、凛音と一緒に図書当番を組むことになったその日から、委員会活動は俺の学校生活において一番意味のある時間になった。


 最初はただ、見た目だけの自分とは違う、本物のきれいな存在に、憧れのような気持ちを抱いていただけだった。


 一緒にいると、息がしやすかった。

 澱んだ空気が浄化されていくような感覚になるだけでなく、わざわざ意識して取り繕おうとしなくても、ごく自然に穏やかで優しい人間のように振る舞うことができた。


 大人びていると言えば聞こえはいいが、あまり感情を揺らすことのなかった俺が、凛音の前では素直に感情を出せるし、何より一緒にいることが楽しかったのだ。


 俺にとって、凛音の隣というポジションは、ようやく見つけた大切な居場所だった。


 最初はただ、隣にいられればいいと思っていた。


 ──でもすぐにそれだけじゃ足りなくなっていった。




 凛音にとって特別な存在になりたい。仲の良い友人から親友と呼ばれる間柄になってもまだ足りない。


 憧れが恋に、そして恋が渇望に変わるまでそう時間はかからなかった。



 ◇



 凛音を好きだとはっきり自覚したのは、いつのことだっただろうか。

 

 出会った瞬間から特別すぎて、気が付けば好きだった記憶しかないからよくわからない。


 けれども、凛音を誰にも渡したくないと強く思った日のことは、よく覚えている。



 それは中学二年の秋のこと。


 当時の俺は、俺の表面しか見ていない女子たちから告白されることが増えていて、そのことについて周りの人間たちが好き勝手な噂をしていることに、いい加減うんざりしていた。


 凛音は俺のそんな噂を知ってか知らずか、一緒にいても話題にすることはなく、特に気にしている素振りもなかったように思う。


 俺はそんな凛音の態度にホッとするのと同時に、あまりに無関心すぎて俺に興味がないのかと、少しだけ寂しい気持ちになっていた。



 そんな風に思っていたある日。


『──煌斗はさ、これまでいっぱい告白されてきたじゃん?』


 それまで全くと言っていいほどこの手の話をしてきたことがなかった凛音が、突然そんなことを言い出したのだ。


 すぐに、誰かが余計な真似をしたらしいことを察し、思わず舌打ちしたくなったが、俺はそんなことをおくびにもださず聞き返した。



『どうしたの、急に。もしかして誰かに何か言われたりした?』


『……そういうんじゃないけど、ちょっと気になってさ。考えてみたら俺らってあんまりそういう話したことなかったし』


 あきらかになにかあったと言わんばかりの態度。

 でも無理に聞き出すような真似はせず、いつもどおりを装うことにした。


 凛音に対して、あえてこの手の話を避けていた自覚はある。


 自分からわざわざ話すことでもないし、何より他の誰かと付き合う気なんて更々ない以上、凛音に余計な話は知られたくなかった。


 でも、いちいち相手にするのも時間の無駄でしかないと思っていたことが、俺のことを意識してくれる材料になったのなら、あのワンパターンで退屈な時間も少しは役に立ったようだと、考えをあらためた。



『今まで告白してきた相手の中に、ちょっとくらい付き合ってみてもいいかなって思う人いなかった?』

『うーん。気持ちに応えられないってわかってるのに、とりあえず付き合うなんて考えられないかな。──そもそも俺は好きな人としか付き合わないって決めてるし』


 俺は凛音におかしな誤解をしてほしくない一心でそうきっぱり言い切った。


 凛音以外の人間に興味はないし、今後も凛音の他にそんな風に思える相手と出会えるとは思えない。


『凛音こそどうなの? そういうこと聞くってことは、もしかして好きな人でもできた?』

『俺の好きな人……?』


 何食わぬ顔で探りを入れると、凛音は自分に矛先が向くとは思っていなかったのか、俺の顔を見つめたままキョトンとしていた。


 その無防備な表情と小首を傾げる仕草があまりに可愛くて、自然と口元が緩む。それと同時に、絶対に凛音を誰にも渡したくないと強く思った。


 凛音が俺に好意を持っていても、それはあくまでも友人としてであり、恋愛対象としてではない。俺がその俎上(そじょう)にあがるためにはまず、俺のことを恋愛対象として意識してもらわなければならないのだ。


 かといっていきなり自分の想いをぶつけたら、意識されるより避けられるリスクのほうが高い気がする。

 だから俺は、友情と恋との境目を曖昧にしながら、少しずつ自分の気持ちを凛音の中に浸透させていくことにした。


『俺は凛音と一緒にいる時間が好きだよ。だから凛音もずっと俺と一緒にいたいと思ってくれてたら嬉しいな』


 急接近したくなるのをぐっと堪え、さりげなく好意を伝えた。


 するとその言葉を聞いた凛音は、はにかむような笑みを見せてくれたのだ。



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