EP8 嵐を呼ぶプリンセス・ソレイユが来る!
結局、わたくしは後部ナビ席のまま。
島津班長はロール、背面飛行だの急上昇、急下降とわたくしを虐めてくれましたが、わたくし、並みの隊員より体力と度胸がありますのよ。あんなものカエルの顔にションベンでしたわ。
<この世界の島津......腕は落ちていないようだ>
操縦席の島津と後席ナビのわたくしは、激しい言い合いをしながら、目的地まで到着したのでした。
わたくしの事を心配した電子小隊の皆さんが、任務の傍らF-15の無線を傍受していたなんて......後から訊いたら赤っ恥。もちろん、島津鬼の方ですわ。なにしろ、わたくしがナビ席から、送信スイッチを入れてましたから。
「ふふ、ざまぁですわ」
それは本店那覇基地も同じで、島津の掟破りなサーカス飛行で、後日こってり叱咤される事になりました。
「ぷっ、このわたくしを舐めると怖いのです」
<小悪魔悪役令嬢の本領を発揮した訳だ>
◇統合幕僚長◇
______入室出来たのは、わたくし一人だけ。
それは仕方がない。島津はただのアッシーで、来る途中のサーカス飛行で、大事なわたくしを危険に晒しているからだ。
もっか島津は外出禁止令で、部屋に閉じ込められている。
「マーガレット三等空嬢、貴官をわざわざ呼んだのは......超機密事項である。これから話す事は他言してはならない」
「秘密は守りますわ。それが王国自衛官ですもの」
「貴官の評判は訊いている。ネットでもSNSでも、馬鹿げたアクセスを叩き出しているそうだな」
<幕僚長は何を言いたいのだ?>
「フランス王国からとある御令嬢が来る。それも貴官の宮古島分屯地勤務を希望されておるのだ」
<おいマーガレット、これは予想外の展開だったな>
『わたくし、てっきり市ヶ谷転属かと思っていましたのに』
幕僚長の話では、その御令嬢とは日本王国と友好王国のフランス王国であり、しかも国王の御令嬢だと言うのだ。
「御年齢は22歳、貴官の評判をSNSで知ったそうだ。名前はプリンセス・ソレイユ。貴官にも劣らぬ美女でな、奇遇にも王国空軍に所属していて、なんとフランス王国が誇る戦闘機<ラファール>のパイロットだそうだ」
<最新鋭ラファールだと!しかも宮古島まで運んでくるつもりか? 滑走路はどうするんだよ>
※並行世界のラファールは、実はVTOLが多かった。
「幕僚長、そのお話は決定事項ですの?」
「友好王国の御令嬢である。我が国王も断る事が出来ない」
<それでマーガレットがいる宮古島分屯地へ?>
「御言葉ですが、このわたくしに、どうしろとおっしゃるのです? まさか、わたくしにそのプリンセス・ソレイユの面倒をみろとでも?」
話は最後まで訊けとばかりに、幕僚長は顔をしかめた。
「貴官をライバル視しておると言う話だ。マーガレット三等空嬢、貴官とプリンセス・ソレイユは非常によく似ている。その存在がだ」
実は幕僚長は、マーガレットが伯爵令嬢である事を知っている。
マーガレットとプリンセス・ソレイユは、性格を含めてまるで鏡に映したような双子そのものと言えた。
「まず貴官が伯爵令嬢である事。偶然にも空軍志望で戦闘機に乗りたい事。しかし根本原因は、貴官の活躍と美貌が世界でもてはやされている事だ。それがどうにも我慢が出来なかったらしい」
<なるほど、嫉妬でマーガレットを潰したい。それが狙いか。どこの令嬢も腹黒いものだな>
「わ、わたくしは......」
<どこが違う?>
「ふむ、そのような理由で貴官が納得出来るとは思えん。しかし国王同志で、既に話がついておるのだ。諦めてくれ浅倉伯爵令嬢マーガレット」
うぐぅ
「わたくしは日本王国防衛の為に、任務を遂行しただけ......それでプリンセス・ソレイユの配属はどうなりますの?」
ふむ、それはだな。
「宮本と言う那覇基地の一尉を、宮古島分屯地に強制転属させる。面倒は宮本にみさせる予定だ」
<独身島津とマーガレットVS独身宮本とプリンセス・ソレイユ......これは宮古島分屯地が荒れるぞ>
「この話は宮古島分屯地用賀指令と、本店那覇指令だけには、先に伝えておく。貴官をわざわざ呼んだのは、私がこの目でマーガレット本人を見ておきたかったからだ。この勝負、面目にかけて日本王国は負けられんと思ってくれ。以上だ」
______話は想定外の方向だった。私とマーガレットは、一日官舎で宿泊し、翌日には本店那覇基地に帰還する事になった。
「班長、帰路はわたくしに操縦させてもらえませんこと?F-15」
「お前に操縦させたら途中で墜落だ。厳罰違反行為で、俺は免職になる」
「あら、それは丁度いいですわ」
<ばか、煽るんじゃない>
宮古島分屯基地に、嵐を呼ぶプリンセス・ソレイユが来る。今新たな火種が舞い降りようとしていた。