EP6 小悪魔悪役令嬢は虎穴にイラズンバ、ズビズバ~
______ここでも重い沈黙が支配した。
マーガレットなしでは、宮古島分屯地の士気は大きく下がる。指令が無口だったのは、それを理解していたからだ。
「防衛対策なら、ここでも考える事が出来るじゃないですか!ネット回線でやり取りするだけでしょ」
山中三陸が食いついた。
「いやそれは危険だ。本当は美人な部下を手元に置きたいのだろうよ。対外的にも宣伝になる」
誰がです? 班長。
さぁな。
「明後日なら、まだ時間はある。ここは俺が指令に掛け合う。お前達は騒ぎ立てるな、いいな」
と島津が釘を刺そうが、夕方には分屯地全体が大騒ぎとなってしまった。
______「指令、詳しい話を訊かせて下さいますか」
島津は今、指令室に居た。
「むぅ貴官までが一体、何故それを訊く? 王国自衛官たる者、上の命令に従うだけだが......実は、本当に私も知らんのだ」
「それで、マーガレットを一人だけで行かせるつもりですか?」
ふむ。
「特に同行者についての指示はない。島津、何が言いたい?」
「班長としてマーガレットに随行、F-15には私が乗ります!」
<本気か島津!>
島津から出た意外な言葉に、指令はただ驚くしかなかった。
<私もだよ>
「確かに貴官は、F-15の操縦ライセンスを持っているし、市ヶ谷にも詳しい貴官が同行するのは理に叶ってはいる。分かった、本店那覇指令に一度問い合わせてみよう」
にぃ
その時、私は鬼の島津が微笑んだ気がした。
「こちらの言い分は正当だ。マーガレットは待機していろ」
はっ
指令が本店と確認するまで、それほど時間は掛からなかった。許可が下りたのだ。
『それ程重要なのか、マーガレットの存在は』
F-15を誰が操縦しようと、市ヶ谷は関知していないと言う事だ。
島津は戻り、電子小隊のドアを開ける。
「どうでした? 指令は何と?」
「俺がマーガレットとF-15で市ヶ谷まで飛ぶ。その後の事は分からん」
「それじゃ、ただのアッシー君と変わらないじゃないですか!」
憤慨しながら、柳田三陸が問い詰めた。
「向こうの出方が分からん以上、マーガレットの件は、俺が全部訊いて来る。対処はそれからだ」
「対処ですって? なんの対処ですの?」
<マーガレット、お前を捕られたくないんだ。それくらい分からんとはアホだな>
「またしても、このわたくしをアホだのタワシと!」
「うん? 興奮しているのかマーガレット? 市ヶ谷がやる事に怒っているのだな。分かるぞ」
島津は大いに誤解していた。
島津班長がF-15を操縦出来る事が幸いした。確かに市ヶ谷の腹が分からない以上、今は全権を班長に託すしかないのだ。
「と言う事はですよ、わたくしがF-15のナビに座れるって事ですわ!」
<趣旨が逸れているぞ>
「おい、なんだ、さっきからその口調は。それに妙に嬉しそうじゃないか」
ほ?
『またやってしまいましたわ』
ジー
島津班長を始め、柳田、山中、長村、来栖レナが怪訝な顔をして、わたくしを睨みますの。
「ほら、わたくしは空自戦闘機志望ですのよ、嬉しくてつい」
おほほほ
わたくし、扇で顔を隠すように誤魔化したのですが。
「またその喋り方! 何がおほほだ! マーガレット、お前、俺達に何か隠してないか? 指令は何か知っているように感じたが」
ギクぅ
「今度はギクぅだとぉ、心の声がダダ漏れじゃないか」
「わたくしが思うに、他にも才能があると思って呼ばれたのかもしれませんわ」
『まぁ、わたくしの能力を話すつもりはありませんけど、命令には従わないといけませんの』
「小隊の皆さん、わたくしちょっと市ヶ谷へ参りますわ」
もう隠していても仕方がないと思ったわたくしは、喋り方だけは本性を晒す事にしましたの。
「本当に行くのかマーガレット?」
「ええ、参りますわ」
扉の外で、様子を伺っていた大勢の隊員から、落胆の声が聞こえた。
「虎穴にイラズンバ、ズビズバ~って言うでしょ。班長が言いましたわね。<俺が全部訊いて来る。対処はそれからだ>って」
<ズビズバ~? どこのギャグだよ?>
涼しい顔をして、悪役令嬢らしく言い放ってやりましたわ。
「わたくしがいなくても、何も変わりませんのよ。だってあなた方は皆優秀ですから」
お通夜だ。
わたくしの一言で、明らかに士気が下がったのを感じました。
『言い過ぎたのかしら。せめて行きたくないって言ったとしても、それこそ何も進歩は有りません事よ』
<確かに>
「「「マーガレットぉ!!!」」」
わたくしの決意に、隊員達が途方に暮れた声だ。
<お前なぁ、悪役令嬢に徹するんじゃなかったのか? これじゃ本当に女神様扱いになってるぞ>
「とにもかくにも、市ヶ谷で大暴れして、また戻って来れば済む事ですわ」
<戻る気はあると?>
「当然ですわ。わたくしとtatuzoの目的は、まだ果たしてませんもの」
<そうか、それなら安心した>
「tatuzo?」