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08

魔物の調査とか言ってたけど、すぐさま帰ってきました。

今回はヒーロー出てきません。




 ジェイ様が、ユーリアさんと想い合っているなら、婚約は解消するべきだ。一晩考えた結論はこうだ。

 でも、考えるほど恋しさは募って、別れを切り出すことなんかできそうにない。

 ぐずぐず考えたけど、結局あれからジェイ様と会うことなく、彼らは研究の調査のためにズューデンフェルト侯爵領へ行ってしまった。

 先生が同行するとはいえ、生徒はジェイ様とユーリアさんの二人だけ。

 婚約者の私と二人で旅行したことなんかないのに、調査のためとはいえ、男女で旅行。もやもやする。


「学園の調査と言っても、3人だけで旅行とは、盛り上がってしまうだろうなあ」

「レベッカ、何を心配していますの?」

「ジェイヒライン・ノーディスとユーリア嬢とペルツ先生の恋の鞘当て」

「なんんっぐっ」

「きゃあ、レミィ大丈夫!?」


 いつものメンバーでランチの最中に、またしても爆弾が落とされた。

 面白い内容ならいいってことではないのよ!? 


「もう、レベッカったら。口に入れたところ狙うのお止めなさいな」

 まだ咳き込んでいる私の背中を優しくなでながら、メグが急な面白発言をたしなめる。

 メグ、いつもありがとう。

「あー、ごめんね、レミィ。配慮がなかったよ。でもメグだって気になるだろ?」

 全然悪いと思ってないわね。謝罪って言葉を辞書で引いてみたらいいんだわ。

「それはそうね。あのジェイヒライン・ノーディスとユーリア嬢の距離が縮まってしまうかもしれませんものね」

「いや、ペルツ先生が中心人物かもしれないぞ」


「ごほっ、ペルツ先生を巡ってジェイ様とユーリアさんが争うの⋯⋯?」

「ふふっ、見ものですわね」

「ははは、見学に行くか」

 その状況を想像して、三人で笑った。

 涙が出るくらい笑って、少し心が軽くなった気がした。本当に、二人がいてくれてよかった。感謝しています。




 ジェイ様たちの調査は往復を含めて三週間にわたった。だけど、帰ってきてからも彼らは更に忙しい様子で、会うことができない。

 ジェイ様は、私のこと、本当はどう思っているんだろう。そんなことばかり考えて砂をかむような日々を過ごした。

 寂しい。

 ユーリアさんと上手くいってしまうんだろうか。そうなったら、私とはもう、会ってもらえないんだろうか。

 のろのろと帰り支度をし、ぼんやり歩いていると、中庭にむかう回廊から声が聞こえた。

 あれは、ユーリアさん⋯⋯?


 彼女とジェイ様のことばかり考えていたから、幻覚が見えたのかと思った。

 よく見ると、ジェイ様のクラスメートが3人、彼女を引率するように前を歩いている。先頭を歩くのは確か、ヴェスト伯爵家の次女ではなかったか。以前、ジェイ様を従わせるなとお姉さまに言っていたのを聞いたことがある。

 勘違い令嬢だからとお姉様は相手にしていなかったけど。


 なんだか嫌なカンジがして、こっそり後をついて行った。

 この学園内では平等を建前に、家格を考えた対応をしてはいけないことになっている。学びの場で教わるほうが偉くては上手くいかないことがあるからだ。当然、先輩後輩の仲にもそれは適用される。

 けど、なんでもしていいってことじゃない。体面を重んじる貴族の礼節に則らなくてもいいということだけだ。

 なのに、この先輩方は勘違いしている。先輩だから後輩をいじめても良いということにはならないし、学園の決まりが貴族の交流に変化をもたらすものでもない。私が家に帰って親に言いつけたらどうなるか、とか考えないんだろうか。



「誰にモノを言っているのか分かってらっしゃるの!?」


 大きな声が聞こえて、はっとする。

 三人でユーリアさんを囲んで、詰め寄っているように見える。先輩のうち一人が、魔力を練って攻撃魔法を放つ準備をしているのが分かった。

 こんなところで攻撃魔法!?

「何をしているのですか!?」

 大声を出して驚かせる。魔法を撃とうとしていた先輩の集中が切れて、術は発動しなかった。良かった⋯⋯。


「こんなところに皆さん集まってどうかなさったんですか?」

 ゆっくり話しかけながらユーリアさんと先輩達の間に滑り込む。

「ご存知とは思いますが、学園の敷地内で魔法を使用すると記録が残りますよ」


「⋯⋯⋯⋯分かっているわよ。こんな至近距離で魔法を発動するわけないじゃない」

「そうよ。ノーディス様のことを話していただけよ」

「本来ノーディス様の婚約者が、彼女にいろいろ教えてあげないといけないのではなくて? 私達は代わりにやってあげているだけだわ」

 いじめのように囲んでおきながら、私のせいにするなんて。

「⋯⋯そうですか。ご配慮、感謝します。ですが、今は必要ないと思っています」

 言ってやりたいことはたくさんあるけど、この場を早く収めてユーリアさんから先輩達を離したい。

 どうしようかと思っていると、中庭をぐるりと囲む回廊をジェイ様のクラスメートが通りかかるのが見えた。

「あ、先輩⋯⋯」

 思わず声に出すと、ユーリアさんを囲んでいた三人の先輩達もそちらを見て、人が来たことに気付いた。

「あら、友人だわ。私達、これで失礼するわね」

 三人の先輩は回廊を歩いていた友人とやらに声をかけながら、中庭を出て行った。


 彼女達は周囲に聞こえるように大きな声で話す。

「ちょっと、見て。ノーデンクルーセスともあろうお方が、呼び出しよ」

「まあ怖い。ノーディス様をとらないで、って?」

「留学生相手に魔法を使って言い聞かせようとするなんて、サイテーね」

「ええっ、魔法まで使って支配するような人なの?!」

「でも、あの呼び出された方も自業自得なんでしょ?」

「そうよ、たいした女でもないのに、ちやほやされていい気になってるのよ」


 ああ。明日には私に良くない噂が立っているんだろう。彼女達の話をどれだけの人が信じてしまうかは分からないけど。



「ノーデンクルーセス様。⋯⋯あの、ありがとうございました」

 おずおずと、こちらの様子を窺うようにユーリアさんが声をかけてくれた。瞳には心配する色が滲んでいる。

「その、私、立場とか分からなくて、すみません。本当に、ノーディス先輩とはなにも⋯⋯」


「疲れましたね。少し、座りませんか?」

 なんでユーリアさんを誘ってしまったのか分からないけど、彼女が私を気遣ってくれている様子をありがたく感じたことは確かだった。

 誰もいなくなった中庭のベンチに二人で並んで腰を下ろす。

「ユーリアさん、私の事はレミィとお呼びください。レマノンより響きが可愛いから、友人たちにもそう呼んでもらっているんです」

「⋯⋯はい。レミィ、ありがとうございます」

 可愛い顔で、なんて優しく笑うんだろう。

 さっきの先輩達とのやりとりでささくれ立った気持ちが癒されるみたい。

「ふふ。ユーリアさんの活躍はジェイ様から聞いています。とても優秀でいらっしゃると」

「とんでもない! 周りに助けられているからですよ。この前の調査の時だって⋯⋯」

 本当に周りの人のおかげなんだと説明するユーリアさんは、一生懸命で素直な人なんだと伝わってくる。

 だから、周りも助けたくなるんだろう。

 こんなに可愛くて一生懸命な、キラキラした女の子なんて、好きにならずにいられないわ。

 きっと、ジェイ様だって。


「⋯⋯だから、ノーディス先輩とペルツ先生にも助けてもらっているだけで」

「いいえ」

 ユーリアさんが話しているのに、かぶせるようにさえぎってしまった。これ以上言ったらダメだって分かってるのに、言葉が止まらない。

「いいんです。どうせ、政略だもの。私のことは⋯⋯好かれてなんていないかもしれません。彼の心なんて、つなぎとめるどころか⋯⋯」

「え⋯⋯?」

 笑顔だったユーリアさんの表情が硬くなる。このまま話していたら、さっきの先輩達のようになってしまうかもしれない。

「いえ、何でもないの。気分を悪くさせてしまっていたらごめんなさい」

「いいえ、レミィ。私は何も⋯⋯。レミィこそ、大丈夫ですか? 顔色が悪いわ」

 ユーリアさんが心配そうな顔で見つめてくる。私の醜い心まで覗きこまれているようで、いたたまれなくなって、挨拶もせず立ち上がると、早足でその場を離れた。





もしかしてユーリアがヒーローなのか⋯⋯?

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