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05

タイトルの留学生ようやく登場。




 今日は晴れだけどレベッカとメグと三人で昼食。カフェテリアに来ていた。

 爆弾発言を投下されることはなく、むせずに食後のお茶まで辿りついた。


「レミィ、婚約者殿とはうまくいってるか?」

「婚約者と二人きりの昼食会には行かなくていいのかしら」


 二人とも、ニヤニヤしながら聞かないでほしい。

 彼と婚約してからの方が距離を感じているのだけど、それを言うのはなんとなくためらわれた。

 答えに困って、顔を隠すようにお茶を飲むと、メグは話題を変えてくれた。


「そういえば、今日でしたわね。留学生がくるの」

「ああ。うちの研究室にも一人来た。やる気にあふれている感じの好青年だった」

「わたくしのところは誰も来ませんでしたわ。レミィは?」

「うちも誰も。全部で5人だったかしら?」

「ああ。それぞれ研究室に篭るんだ。あまり交流はできないかもなあ」

「研究室の生徒がお世話しますの?」

「うちの研究室は二期生が行動を共にする予定だけど、実際は教師が関わるんじゃないか?」

「あら、噂をすれば⋯⋯」


 カフェテリアに、留学生達が入ってきた。もちろん、この学園の生徒達と一緒だ。

 その中にジェイ様がいた。隣に可愛らしい女子生徒を連れている。彼女に何か話しながら、食事のトレーを渡している。

 穏やかな笑顔で話すジェイ様。女子生徒は嬉しそうに、満面の笑顔で返している。

 ⋯⋯距離、近くない?


「ジェイヒライン・ノーディスが連れている子、小柄で可愛いな。胸部装甲も素晴らしいものをお持ちだ」

 レベッカがからかうように言う。

「レベッカ、はしたない言葉はやめて。レミィ、お顔に出てますわよ」

 メグの言葉にハッと我に返る。私、いま、嫉妬してた⋯⋯?



 三人で見つめていたからか、ジェイ様たちもこちらに気付いたようだ。

 彼は片手をあげてにこやかにこちらに向ってきた。

「やあ。レミィ達もこちらで昼食でしたか」

「ええ、たまには。ジェイ様も?」

「彼女にこの国の食事を紹介しようと思いまして」

 そう言うと、彼の後ろに控えるように立っている女子生徒を、紹介するように身体をずらした。

「彼女は、今回の交換留学生です。僕と研究室が一緒になったんですよ」

「はじめまして、ユーリア・ハンナ・ファーングヴィストです。ユーリアと呼んでください。不慣れですが、よろしくお願いします」

 小柄で可愛らしい交換留学生は、朗らかに笑顔で挨拶した。


「マーガレット・マーチと申します。わたくしたちは一期生なので研究室に行く時間は少ないですけれど、よろしくお願いしますね」

 何も言わない私の横から、メグがにこやかに先に挨拶してくれた。

「わたしはレベッカ。よろしく」

 レベッカが簡潔に挨拶して、ちらりと私を見る。あわてて挨拶した。

「レマノン・ノーデンクルーセスです。よろしくお願いしますね」


 なんとか言葉にできた。笑顔、不自然になっていないかしら。

 ジェイ様は私の隣に来て、軽く肩に手を置いた。

「彼女は僕の婚約者なんだ。素敵な人だから仲良くできると思うよ」


 その言葉にどきっとしたけど、彼女の表情は驚きで固まっている。

 ⋯⋯え、なに?

 ジェイ様の婚約者って聞いて、なんで貴女がショックを受けるの⋯⋯?


「ここ、ご一緒してもよろしいですか?」

 爽やかな笑顔でジェイ様がたずねるけど、笑顔で同じテーブルについていられるとは思えなかった。


「いいえ。わたくしたち、もう終わってしまったの。どうぞ、席はお使いくださいな」

 固まってしまった私をフォローするように、メグがにこやかに対応してくれる。

「すまないな。次の予定があるので失礼する」

 私の気持ちを汲んでくれた二人が席を立った。感謝しながら、彼女達の後に続いて席を立つ。


「そうですか? レミィとご一緒できなくて残念です」

 言葉では残念だと言うけど、私たちが席を立ったらユーリアさんと食べはじめた。楽しそうに。





 ◆ ◆ ◆


 留学生が来てから、ジェイ様はあのベンチで休まなくなった。

 まあ、研究が忙しいのと、ユーリアさんのお世話も忙しいのでしょうけど。

 ⋯⋯あれも研究のうちよ。留学生のお世話係なんだから仕方のないことよ。自分に言い聞かせるように繰り返す。

 むくむく大きくなる嫉妬心を自覚したけど、大きくため息をついて振り払った。


 今日は放課後、図書館で勉強していた。学園の勉強と平行して、領地経営の学びについても手は抜けない。

 自室でも勉強できるけど、一人きりになるとどうしてもジェイ様とユーリアさんのことを考えてしまうから、誰かの気配がある図書館はちょうど良かった。


 ふと、顔を上げると、奥まった書架の前で資料を探す小柄な女子生徒が見えた。片手に重そうな本を持って、もう片方の手を精一杯伸ばして目当ての本をとろうとしている。

 大丈夫かな、と思わず助けに行こうと腰を浮かせた。

 すると、背の高い男子生徒が女子生徒の後ろから手を伸ばして、彼女の目当ての本をとってあげるのが見えた。


 ⋯⋯ジェイ様だ。


 女子生徒は、ユーリアさん。

 彼女は振り返ると、ジェイ様とにこやかに何か話している。図書館だから小声で話すのは当然なんだけど、顔をやや寄せて内緒の話をしているように見える。彼女はいい笑顔だし、ジェイ様も嬉しそうに笑っている。


 頭から水をかけられたようにスッと冷たくなった気がした。目が離せない。

 ただ、黒い感情が胸の中を占めていくようで、絞られるような痛みを感じる。

 思考も止まったみたいに、何も考えられない。遠くに見える二人の笑顔を見ているしかできない。


 ポタリ、とノートにしずくが落ちて、自分が泣いていることに気付いた。

 あわてて広げていた勉強道具を鞄につめこんで、逃げるように急いで図書館を出た。


 どうやって帰ったか覚えていないけど、気付いたら自分のベッドに制服のまま寝転んで、天井を眺めていた。

 さっき見た光景を思い出す。

 距離も近くて、まるで図書館でデートする恋人みたい。絵になる構図は、まるで小説のヒロインとヒーロー⋯⋯。


 ⋯⋯もしかして、彼女はヒロインなんじゃない?


 突然降って湧いたその考えは、正しいような気がした。前世で流行っていたじゃない、異世界に転生とか、悪役令嬢ものとか。この世界が異世界なのかとか全く分からないけど、確かに私には前世の記憶がある。断片的だけど、日本で生活していた記憶だ。

 この世界をものがたりとするなら、ヒロインであるユーリアさんと、ヒーローであるジェイ様が恋に落ちて、ヒーローの婚約者である私は邪魔な当て馬か、⋯⋯悪役令嬢。


 ヒロインとヒーローが恋に落ちて、ものがたりがハッピーエンドになったら、悪役令嬢はどうなるの?

 ヒーローへの嫉妬に狂って犯罪行為を犯すんだったかしら?

 そんなことしなくても冤罪もあったような気がするわ。どちらにしても、断罪されて、舞台から降りるのよ。


 私は、どうなるのかしら。

 今、私は確かにユーリアさんに強く嫉妬している。このまま暗い、黒く塗りつぶされそうな気持ちでものがたりが進行していったら、断罪もあるのかもしれない。

 そんなのいや。

 でも、一番辛いのは、一番いやなのは、彼が私から離れていくことだわ。

 彼の心から私がいなくなってしまうことが悲しい。考えただけで胸が張りさけそう。

 悪役令嬢は、ヒーローの心をつかんだままでいられるんだろうか。


 ⋯⋯もしかして。

 最初から、彼の心に、私なんていなかったんじゃない?

 彼とお互いに気持ちが通じたと感じていたけど、そんなのは私の勘違いではない?

 確かに、キスした。

 私は幸せな気持ちだったけど、彼にとっては何てことないものだったのかもしれない。

 だって、私たち自分の気持ちをお互いに伝えていない。貴族なら、気持ちを悟らせないように教えられるわ。私だけが一方的に好きだったのではない?

 そうだったなら、彼は、政略結婚に不満だったはず。

 結婚という人生で大きな決定に納得できない内容があれば、いくら宗家の意向とはいえ、彼の実家の伯爵家は異議を唱えることができる。だけど、家と家の契約に、好悪の感情は大きな割合を占めない。ノーディス伯爵家にしてみれば、大きな不都合がなければわざわざ事を荒立てたくはないはず。


 そう考えるとつじつまが合う。キスしたのは、恋人でも婚約者でもなく、何の約束も、関係もない時だった。

 つきあおうとか、言ってない。いつも、そんな風に女の子と遊んでたのかもしれない。レベッカ達も、彼はそんな軽い付き合いを多くしていたようなこと言ってたもの。

 婚約者になったことで、ジェイ様にとっては遊びではないことにされてしまった。本心から好きじゃないから、キスなんてしたくないってことなんじゃない⋯⋯?


 もし、結婚の申し込みが政略じゃなかったら、彼は私との結婚を了承したいと思えただろうか。






メグの名前はマーガレットでした。

マーガレットの愛称は最初マギーにしていたんですが、黄色いジャケット着て手品始めちゃったので、四姉妹の長女に変更されました。

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