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02

本日2話目。引き続きお楽しみください!




「ねえ、レミィ。婚約者とはキスした?」

「んぐっ、ごっほ!」

「きゃあ、レミィ大丈夫!?」


 学園で友人と昼食中にとんでもない爆弾が落とされた。

 何とか口に入っていたものは出さずに済んだけど、むせてしまって怒れない。わざとか?

「もう、レベッカったら。食べ終わってから聞けばいいのに」

 まだ咳き込んでいる私の背中を優しくなでながら、メグが急な爆弾発言をたしなめる。

「あー、ごめんね、レミィ。配慮がなかったよ。でもメグだって気になるだろ?」

 いやいや、婚約者になってまだ1日ですし。ナニが気になるのよ。

「それはそうね。あのジェイヒライン・ノーディスと、このレミィですもの」

「だろう。レミィじゃ太刀打ちできないと思わないか?」

「ごっほごほっごほ」

 あの、って何? この、ってどういうこと!? 二人だけで分かりあって話を進めないでほしいんですけど。

「ごほっ、何の話⋯⋯?」

「初心なレミィは、百戦錬磨の恋愛上級者に敵わない、ってことかしら」

「レミィの負け戦感が拭えない」

「⋯⋯よく分からないけど、馬鹿にされていることは分かるわ」


 学園で見かける彼を思い出す。いつも誰にでも物腰柔らかで、穏やかに笑顔を浮かべられる人。そして顔がいい。彼を好ましく思っている女子学生が大勢いるのを知っている。彼は選ぶ側だ。

それに引き換え、私は⋯⋯。婚約者になったけど、いやなったからこそ、経緯については彼に言えない。


「レベッカはしたの? ⋯⋯キス」

 ちょっと沈んだ気持ちを振り払いように聞いてみた。

 うちは高位貴族だからか、過保護だからか、性的なことに対する忌避感がすごい。キスとか夫婦になってから挨拶で頬にするものだと思ってた。あと保護者が小さい子供の頬とかおでこにするのは見たことある。

 本当に何も知らなかった。前世の記憶がある今となっては、箱入り娘だったんだと実感する。

 レベッカはさばさばしてカッコイイ女性で、言葉使いは男性ぽいけど、立場ある宮中伯のご息女だから伯爵令嬢だ。私の認識と大きな違いはないはず。


「当たり前だろ。私だって婚約者がいるんだぞ?」


 え。 あたりまえなの。


「何びっくりしてるんだ。メグだって、ねえ?」

「え! メグは婚約者いないじゃない!」

「ふふ。今はフリーですけれど。ねえ?」

「付き合っているなら、なあ?」

 レベッカとメグは意味ありげに笑いあう。


「え、ほんとに? みんなヤッてんの? まだ学生だよね?」

「レミィ、言葉が崩れてますわよ」

「わたしは御家柄、最後まではさすがにまだだが、うまくやってるヤツなんて大勢いる。ね、メグ?」

「うふふ」

 メグ! 否定しないの?!

「恋する気持ちの時って、心も身体もつながりたくなるものなの」

 ほほ笑みながらそういうメグは聖母のようだ。

「私のメグが知らない間に大人だったなんてぇ」

 ショックで涙が出てきた。キャパオーバーだ。

「まあ、レミィ。泣くなら私の胸を貸してあげるわ」

「うわあん。メグ~」

 いや、涙でたのメグのせいじゃね? と思ったけど、泣いた風でメグに抱きついて、豊かなお胸を堪能しておいた。






「イリス、変じゃないかしら」

「もう確認は5回目ですが、街歩きにふさわしい、お可愛らしいお姿です。さすが私のお嬢様でございます」

「ふふ、イリスのおかげだって分かってるわよ、ありがとう」


 鏡の前でワンピースをひるがえしてクルリと回る私に、侍女のイリスが付き合ってくれている。

 今日はなんと、ジェイ様がデートに誘ってくれたのだ!

 デートが決まってからイリスと着るものや髪型の相談をして、昨夜はドキドキして暫く眠れなかった。遠足前の小学生かよ。

「今日はイリスが付き合ってくれるの?」

「はい、お嬢様。私が付き添いますし、護衛はゴードンです。いつもの通り、見える程度に離れておりますのでご安心ください」

「あー、いえ、近くてもいいんだけどね?」

「ふふ、ふたりきりのデートの気分でお楽しみください」

「⋯⋯お気遣いありがと」


 今日はジェイ様とデートだけど、デートといっても、侍女のイリスがついてきてくれる。

 日本の感覚だとおかしい気がするけど、この世界の貴族の感覚だと、女性が侍女をつけずに出かけるほうが問題がある。

 男性はその限りではないけど、従者をつけるのが一般的だと思う。

 まあ、貴族のお嬢様なんてひとりでは何もできないし、させてもらえないのだ。デートとはいえ、二人だけになることは難しい。


 イリスは私が小さい頃からお姉様に付いていた侍女の一人だ。もちろん私にも付いてもらっていたけど、お姉様が嫁いでからは私の専属のようになっていて、私の話し相手にもなってもらっている。

 困ったことを相談すると、すぐ解決してくれるスーパー侍女なのだ。

 私が今日のデートを楽しみにしていたから、「ふたりきり」なんて言ってからかっている。

 ジェイ様が到着されたと聞いて、急いで向う。玄関ホールで使用人と話しているジェイ様がいらした。顔合わせの日より少しラフな服装で、けどイケメンオーラを振り撒いてキラキラしている。

 かっこいい。顔がいい。好き。

 見惚れながらゆっくり階段を降りていくと、ジェイ様が気付いてこちらを見上げた。

 嬉しそうにほほ笑む顔の破壊力よ⋯⋯!


「おはようございます、レミィ。今日の装いも素敵ですね。可愛らしさが引立っている」

「ありがとう。ジェイ様もとっても素敵ですわ」

「いつまでも見つめていたいけど、貴女を独占できる時間は短い。出かけましょうか」


 顔だけじゃなくて褒め言葉までイケメンなジェイ様と出かける幸せ。はあ、今日心臓もつかしら。



「わあ、すごい人ですね」


 雲ひとつない青空の下、サーカスの大きな天幕が張られている。

 その周りにはバザーがあって、様々な品物が並べられている。

 子供達が笑いながら走っていく。恋人が腕を組んで歩いている。占いの列に並んでいるおじさまは、真剣な表情だ。

 何処を見ても楽しい。

「離れないでください、レミィ。はぐれたら大変だ」

 そう言うと、ジェイ様は手をつないだ。

 あー、今絶対顔が赤くなっている。

 ごまかすように、気になる店を指差した。


「あの店の品物は、異国のアクセサリーでしょうか」

「そうだね、まだ時間はあるから寄ってみましょう」


 店には陶器やビーズ、ガラス細工を使った、繊細なアクセサリーや置物がところ狭しと展示されている。

 見慣れない色使いは異国情緒にあふれている。

 なんとなく、古い時代の日本を思わせるイメージで、郷愁にかられた。


「それが気に入りましたか?」

「えっ?」


 視線の先にあった簪のような髪飾りを見つめていたように思われたみたいだった。

「あ、いえ、どれも素敵で⋯⋯」


 考えごとをしていたなんて言えずにいると、ジェイさまがスマートに購入してしまった。


「オヤジ、これをもらうぞ」

「へえ、ありがとうざいます。これは良い品なんですが、使い方が難しいからか人気がなくて⋯⋯」

 確かに、簪なんて今まで使ったことないし、つけている人も見たことないかも。

 交友関係が狭いだけかもしれませんけれども。


「ふうん。どうやって飾るんだ?」

「髪に挿して飾るだけでも映えますし、様々にアレンジができますが、」

「あの、今使ってみてもいいですか?」

 店主の言葉をさえぎってしまったけど、ここでおじさんにレクチャー受けるのがなんとなく恥ずかしかったので、自分で髪をまとめて簪を挿してみた。


「おや、器用だね、お嬢さん」

 ふふふ。前世とった杵柄です。

 ジャン様は驚いた様子でじっと見つめていた。

 やばい。お淑やかではなかったか。人前で髪を結うなんて、令嬢らしくなかったわ。

「どうですか? 似合います?」

 ごまかすように言うと、ジェイ様はハッとして笑顔を見せてくれた。

「ええ、素敵ですよ。とてもね」



 至近距離の笑顔にときめいているうちに、目的のサーカスにやってきた。

 身なりの良い人が多いから貴族席なんだろうけど、席の間に余裕がなくて隣が近い。


 チラリと隣に視線をやるとジェイ様の麗しい御尊顔がすぐそこに⋯⋯!

 ちっ近い!

 近くても凝視に耐えられるイケメンの横顔よ⋯⋯。

 見惚れていると、にやりと笑って流し目をしてきた。その顔でご飯3杯いけますごちそうさまです。


「もうすぐ始まりますよ、見逃さないように、ね」


 わああ。低い声で囁くの禁止! 惚れてまうやろ!



 これ以上顔面の美しさを浴びたらライフがゼロになりそうだったので、大人しく始まるショーに集中する。

 サーカスって言ったら空中ブランコとか綱渡りとかを思い浮かべてたけど、そういったものはなくて、メインは馬の曲乗りだった。

 前世の情報と混ざってるのかなあ。ボロがでないようにしないと。

 前世今世あわせて、サーカスなんて初めて見たけど、すごくヒヤヒヤした。安全マージンを考えない曲芸なんて、心臓に悪い。

終わった時の感想は「誰も怪我しなくて良かった」だった。


 ジェイ様が笑い声を上げて見ていて、子供みたいな一面を知れて嬉しかった。

 年齢はふたつしか違わないのに、学園で会う彼はいつも先を行く大人で、随分差があるように感じていた。

 けど、こうして笑いあっていると同世代の男の子なんだなあ、と思ってちょっと安心する。

 サーカスを見た後は、もう一回バザーに寄って、邸のみんなにおみやげを買って帰った。




 帰ってきてからも、幸せな気持ちは続いていて、イリスに顔が緩んでいますよ、とたしなめられてしまった。

 今日買ってもらった簪は、いつでも眺められるようにドレッサーに飾るように片付けた。視界に入るたびにニヤけてしまう。

 あー、幸せ。


 ベッドに入ってからも反芻する。

 ひとつ不満、というか、恥ずかしかったのは送ってもらった時だ。家の前で別れ際、お互い楽しかったお礼を言って、一瞬ジェイ様が真剣な顔をした。


 その表情にどきっとして、甘い空気が流れた気がしてそのまま手を取られたからてっきり、キス、されるかと思ったのに⋯⋯!

指先に唇をよせるだけだった⋯⋯。いや、それでもドキドキしたけど! ときめきましたけど!

 でもそんなの舞踏会の時の挨拶じゃん。ダンスのパートナー変える時とか、いっつも格好つけてそうしてるの見てるんだからね!

 顔のいい人の上目使いは最アンド高でしたけどね!





ありがとうございました

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