05
もう一度謝っておきます。
大変申し訳ありませんが、かっこいいヒーローはいません。
かっこよさがないままノーディスの章最終話。
ユーリアにはなぜかヘタレ認定されているが、研究は大詰めだ。毎日のように図書館に通ったり、魔法塔や騎士塔の偉い人達に確認をお願いして回ったり、忙しい日々を過ごす。
昼食がちゃんと摂れないこともあった。図書館は飲食禁止だけど、ここから移動する時間がもったいないから外階段に出て座って食べる。ここまで飲食禁止かどうかは知らないけども。
ユーリアもサンドィッチの入った弁当を持ってきて少し下の段に座った。青空の下で弁当一緒に食べる相手がレミィだったらいいのになあ⋯⋯。
「疲れましたね⋯⋯」
「ああ。レミィにも会えないしな」
「⋯⋯⋯⋯」
「なあ、キスしてと言われて、キスしたら逃げられるって、どういう状況だと思う⋯⋯?」
もう自分で答えが出せないので、思わず聞いてしまった。
「マジでどういう状況だよ」
「言葉くずれてるぞ、一応お嬢様なんだろ?」
てかスラングもいけるのかよ。すげーな。
「いやビックリしすぎました。先輩がヘタレだという話ですよね?」
「なんでだよ」
腹立つなあ! そうかもしれないから困ってるんだろ。だいたいお前はレミィの何を知ってるんだ。
「このままだと、先輩は振られるかもしれません」
「はあ?」
予言めいたことを言うんじゃない。どきっとしただろうが。
「だって、なんでレミィがそんな態度なのか分からないんですよね?」
言葉につまる。何を考えて、あんな表情をしたのか、心当たりがない。
「じゃあやっぱり、先輩はヘタレですよ」
「だからなんでだよ。分かるように教えてくれよ」
抽象的に言うのやめろ。イラつくだろーが。
「教えを乞うているのに魔力で圧かけてくるのやめてくださいよっ」
「そうだな、話していて殺気が飛んでこないというのは素晴らしいよな」
レミィと気兼ねなく話をしたい。スーパー侍女殿にびくつきながらの会話じゃなくてさ。敬語じゃないと殺気が飛んできたり、ヤラシイ妄想すると魔力で圧かかってきたりしない、普通の会話をしたい。
そしてキスしたりいちゃついたりしたい。肩を抱いたり、頬にそっと触れるだけだっていいんだ。
「そのゆるんだ顔が嫌だったんじゃないですか? 今イヤラシイこと考えてるでしょ?」
こちらを振り返ったユーリアは、蔑むような表情でそう言った。
図星で腹が立ったので、その頭をわしづかんで前を向かせておいた。
◆ ◆ ◆
もう、自分がヘタレなのを認めてしまおう。だって、レミィがどんな気持ちであんな態度だったのか結局分からないんだから。
レミィに直接気持ちを聞く。
それで、もしレミィの気持ちが少しでも俺にあるなら、押し倒そ⋯⋯じゃなくて、かっこよくプロポーズする。
とりあえずキス⋯⋯じゃなくて、俺の気持ちを伝えるところから始める。
レミィに会いたくて会いたくて、毎日昼休みはベンチに向かうことにした。昼休みを確保する分、帰りが遅くなるけど仕方ない。
そうして、やっと会えたレミィから、死刑宣告を受けた。
「婚約は、破棄することにしましょう」
「え⋯⋯? レミィ、なんで⋯⋯?」
搾り出した声は情けなくも震えていた。世界が終わったかと思った。
婚約破棄を、レミィが願っている、と頭が理解したら、目の前が真っ赤になった。
ぐっと握りこんだ拳が震えている。
俺の言葉には答えず、レミィは顔を伏せたまま俺の横を通り抜けて、小路を校舎に向かって行こうとした。
思わずその細い腕を掴んで、振り向かせる。
「いやだ、レミィ、俺を捨てないで⋯⋯っ」
レミィは涙を流していた。俺の言葉に驚いた様子で、大きな目をさらに大きく開いている。
涙を流すレミィにたまらなくなって、思わず抱きしめてしまった。
レミィはされるまま、俺の胸に顔を埋めるようにじっとしている。顔が見えないのをいいことに、自分の思いを全部伝えてしまうことにした。
「レミィ、俺は、多分ここで初めて会った時から、貴女に惹かれていました。だから、ノーデンクルーセス閣下に貴女の夫になる権利を主張して、認めてもらったんです。あー、いや正確にはまだ認めてもらう途中なんだけれども、頑張っている。条件が本当に大変で、閣下の要求を全部呑もうと思ったら俺がやりたいようにできなくて、しかもレミィは何かに怒っているのかどんな気持ちでそんな態度なのか分からなくなっちゃうし、研究は大変だし、ユーリアのアドバイスは抽象的で役に立たないし、轟雷将軍はからかってくるし、もう俺はどうしたらいいのか分からなくなってしまった」
本当に、何が言いたいのか分からなくなった。
いや、俺がレミィに伝えたいことはひとつだけだ。
「あー、レミィ、その、つまり、誰よりもレミィが好きだから結婚してください」
⋯⋯長い沈黙。どうしたらいいんだ。あ、抱きしめているからか?
いや、離したくないし、本当にどうしたらいいんだ。
ちょっと途方に暮れていると、やっと聞き取れるくらいの小さな声で「⋯⋯はい、私で、よかったら⋯⋯」と、レミィが返事してくれた。
「レミィ!」
「きゃあ!」
嬉しくなって、レミィを抱き上げる。腕に座らせるようにすくい上げて、レミィの顔を見上げる。俺の肩に突っ張るように両手を置いて、俺を見下ろすその顔は真っ赤になっていた。
「レミィ、ありがとう」
顔がにやけてしまっている自覚はあるけど、嬉しくてどうしようもなかった。だって結婚の承諾だ。もうこのまま部屋に連れ込んでもいいんじゃないかな?
「ジェイ様!」
「うん」
かわいい。きっと幸せって今のことだ。このまま攫っていこう。そうしよう。
「わっ、私の話も聞いてください!」
「俺の部屋に行く?」
「何故そんなことになるんですか! おろしてください!」
必死なレミィもかわいい。
そう思いながら抱き上げたレミィを見上げると、冷たい瞳で見下ろされていた。
え。
「今、私の話を聞いてくださらないなら、やはり婚約破棄の方向で⋯⋯」
頭から冷水をかぶったみたいに、スッと身体が冷えた。
すみません調子に乗ってしまいました。ここでレミィの心をつかめなければ、待っているのは婚約破棄だ。必死に謝って、二人並んでベンチに座る。
そうしてレミィが話してくれた今までの彼女の気持ちと、俺達の始まりにあった彼女の秘密の話。
彼女が愛しくて、たまらなくなって、キスをした。
ユーリア「レミィ、ほんとにこいつでいいの?」
たぶんレミィは幸せなんだね、と思えるようにもうちょい続けます。エピローグ的な最終章を2話。




