表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
婚約したら前世を思い出しました。婚約者と留学生の距離が近いようですが、私って悪役令嬢かなにかでしょうか?  作者: 池田 華子
乙女心を理解できないジェイヒライン・ノーディスは、ヒーローたり得るか
16/21

02

学園ではなくお城で仕事中の話です。




 学園が休みの時は、騎士団の練習にでたり、その使いで王宮にいたりする。

 まあ、雑用とか使い走りだ。面倒だし休日なのに休まらないけど、こうやって上下関係を見られるのは、社交界で何がしかの会に出席するより有用な機会だと思って頑張る。

 今日は侯爵様方の会議の手伝いだ。侯爵が四家とも集まると、そのお付きやら護衛やら、なんやかんやと出入りする人が多い。会議の資料とか、席次のセッティングとか、間違っちゃいけないし、時間に遅れちゃいけない。面倒な暗黙の了解なんかもあるけど、不都合が出ないよう必死に役割をこなす。入室の順番なんかどうでもいいだろなどと言ってはいけない。

 会議は無事終わり、お偉方を見送る。

 全ての仕事が終わると、この場を仕切っていた官僚が労ってくれた。

「ノーディス、今日はもうあがっていい。助かったよ、また頼むな」

「いえ、こちらこそ勉強させていただきました。いつでもお声掛けください」

 まだ残っている官僚から帰っていいと許可を得て、議場を出る。廊下の角を曲がってすぐ、声をかけられた。



「おや、ノーディスの。もうあがりかい」

「は。本日も貴重な機会をありがとうございました。閣下はお疲れが出ていませんか」

 声をかけてきたのは我が家の宗家であるノーデンクルーセス侯爵家のご当主様だった。こんな廊下で、ズューデンフェルト侯爵閣下と立ち話をしている。この二大巨頭は意外と仲良しだ。

「いや、疲れたよ。ズューデンフェルトがこうも難色を示すとは」

「私のせいにするのか、ノーデンクルーセス。あれではこちらの調整が上手く行かないだろう」

「はは、すまないな。何にせよ、会議がスムーズにいったのはノーディスが頑張ってくれたおかげだ。助かったよ」

「とんでもありません」


「ところで、君のところの次女は嫁にやるのか? 婿をもらう算段か?」

「ああ、頭の痛い話題だな」

 その場を離れる前に次の話に移ってしまって帰るタイミングを逃してしまい、侯爵家のご当主二人の井戸端会議に、参加する形になってしまった。

 宗家の次女といえば、レマノン・ノーデンクルーセス。昼休憩のひとときを、一緒に過ごしている。俺にとっては大切な時間だが、ふたりきりで会っていることを、父親である侯爵閣下はご存じないだろう。

 彼女に結婚の話と聞いて、胸がざわついた。


「才女と噂ではないか。嫁しても、もらい方は誉れだろう」

「あんなに可愛い娘を嫁にやるなど、考えられん。長女とて出したくなかった」

「まあ、王家に是非にと請われては、断れまいて。父親としてみれば災難とも言えるな。だが、ノーデンクルーセスに縁談がないわけではないだろう?」

「縁談など、降るようにあるから頭が痛いのだ。あの子の幸せを願っているのだが⋯⋯」

 そう言いながら、彼女の父はチラリとこちらを窺うように見た。⋯⋯その視線はなんだ?

 視線の意味は分からなかったが、ちょうど話題に出た気になる内容について確認することにした。


「お嬢様にご結婚のご予定があるのですか」

「いや、あの子自身が結婚の話を断っていてね。それで今まで婚約者もたてずにきたのだが⋯⋯。やはり、そろそろ決めないと、親としては心配でもある⋯⋯」

「はは、では婿がねを選ばねばな。西も東も若くて活きの良いのが残っているではないか」


 からかうようにズューデンフェルト侯爵が婿の候補を挙げていく。しまいには自分の甥を薦める始末。

 ぼんやりと、二人の会話を聞いて理解する。そうか、彼女は俺じゃない誰かの妻になるんだ。きっと彼女はどんな男と結婚したとしても、自分の立場で咲くように、折り合いをつけて幸せになる努力をするんだろう。

 いやだ、と思った。


「私ではだめですか。レマノンお嬢様の夫となる権利をいただけないでしょうか」

 俺以外の男と彼女が結婚してしまうなんて。そう思ったら、自然に言葉がでてしまっていた。


「なんだって?」

 娘たちを溺愛している侯爵は、殺気をこめて俺をにらむ。ちょ、こわい。元騎士団副団長、現財務部鬼の長官閣下の殺気、圧がすごい。ちびりそう。

 だけどここが正念場だ。背筋を伸ばし、にっこりと笑って、自分をアピールする。

「私はノーディスの長男ですから、領地経営について学んでいます。まだ学びの途中ではありますが、そうでない者より下地があると言えます。学生の身ではありますが騎士団に所属しており、閣下のような騎士を目指し鍛えているところでもあります。また政治的にも、王家にご姉妹が嫁がれておりますので、領地内の分家との結婚は意味がありましょう」


「⋯⋯」

「いいね! やる気があるね!」

 苦虫を潰したような表情で黙するノーデンクルーセス侯爵と、笑顔で俺にサムズアップするズューデンフェルト侯爵の温度差がひどい。


「⋯⋯私は、 娘の幸せを、 願っているんだ⋯⋯!」

 絞り出すように、苦しそうにつぶやくが、その返事では了解なのか拒否なのか分からない。どう返答していいのか迷って黙っていると、ズューデンフェルト侯爵が助け船を出してくれた。

「よいではないか、ノーデンクルーセス。彼に決めてしまっては?」

「ぐ⋯⋯っ」

「はは、反対意見も出ないではないか。彼は将来有望だぞ。そういえば、ノーディス君は学園では?」

「現在三期生です。魔物の生態について研究しております」


「なんだって?」

 先程より殺気は抑えてあるが恐ろしいことに変わりははない。彼女の父親は、俺をにらみながら続ける。こっわ。

「レミィは学園の一期生だ。もしかして、既に知り合っているのではないだろうな?」

「いえ、お見かけしたことがある程度です」


 ⋯⋯嘘です。この前キスしました。本当は恋人だと宣言したいと思っています。


「しかし、お嬢様をお守りしたいという想いは本当です」

 これは本当に、そう思っている。伝える相手が彼女の父親だと思うとこの宣言は少し恥ずかしいような気がしたが、真剣に伝えた。

暫しにらみ合う様相でいたが、どちらも何も言えないでいると、ズューデンフェルト侯爵が「あとは両家で話し合うように」と場をとりなしてくれて、井戸端会議は解散になった。





お父様娘大好き過ぎ。

次回は例のデートをノーディス視点でお送りします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ