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婚約したら前世を思い出しました。婚約者と留学生の距離が近いようですが、私って悪役令嬢かなにかでしょうか?  作者: 池田 華子
ユーリア・ハンナ・ファーングヴィストはヒロインなのか、それともただの当て馬か
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03

 順調に研究は進み、調査の段階に移った。

 なんだか意外に有能なペルツ先生が、スポンサーやら調査討伐の軍隊協力なんかを取り付けてくれた。

 ただの熊みたいなひげもじゃじゃなくて、有能な熊だった。

 いやちがった、熊でもなくて研究者だった。デキルセンセイ。


 ところが。

 この、協力してくれることになったお偉いさん達に、研究の具体的な内容と、その期待される成果について説明することを条件にされてしまった。うん、討伐隊とはいえ、騎士職や軍属の人達の協力を仰ぐわけだし、貴族からもお金出してもらわないとだしね。

 今までと違うやり方なんだから、説明と同意は必要だ。インフォームドコンセントは後でもめないための手段でもある、って看護師のお姉さんが言ってた。

 学園の講堂で講義形式でやるなら、熊はいつも通りだもんね。座っているのが大人たち、っていうのがいつもと大きく違いますけれども。

 資料とか、会場の準備とか大変だけど、ノーディス先輩が有能だった。意外~。熊先生もほめてる。

「いやあ、さすがノーディスくんは慣れたものだな」

「はは、王宮での会議とは規模が違いますから。先生の指示がいいんですよ」

「いや、助かるよ、ホント。今日は軍のエライさん達もくるからな。本番はユーリアくん、頼むね」


「は?」

 頼むってナニ。


「ユーリアくんの研究だろう。一番内容を理解してるヤツがしゃべらなくてどうするんだ」

「え!? わたしが説明するんですか!?」

「はは、お前さんは度胸あるから大丈夫だよ」


 だぁいじょうぶじゃなあい!

 お偉いさん達に囲まれての研究の有用性の解説とか、そういうのはペルツ先生がするんじゃないですかねえええ!?

 なんでわたしが説明することになってるんでしょうかっ。日本でプレゼンした経験はあるけど、学生が大人たち(しかもおエライさん達)に囲まれて緊張しないわけないでしょっ。

 抗議したけれども聞き入れてもらえず、結局わたしの研究として説明することになった。




 この国は魔物の出現率が低いけど、スタンピードみたいな、不定期に急な増殖は起こるし、その対策には各地で様々な特色がある。文化の違いもあるかもしれないけど、その土地ごとの有利な条件なんかがあると思うんだよね。

 その土地ごとの特色はあれども、一局だけでなくて広い視点でデータをまとめて見た結果、人的被害が減るっていう概念を説明するのが大変だった。ビックデータの活用の有用性なんて、どう説明したらいいのかね。

 討伐隊を軍隊に置き換えて説明したら分かりやすかったみたい。たくさんの情報が共有されて活用されると、それだけで討伐のレベルがあがりますよ、って。

 ネットの検索エンジンみたいな、データを統括する魔法、誰か研究してないかなあ。


 説明の後の質疑応答はなんだか研究以外の方向に質問があったりして、もう大盛況だった。研究以外の良く分かんない質問には、「複数主体の意思決定にはゲーム理論の思考で」とか、「保健衛生事業にはナッジ理論を活用する」とか、自分でも良く分かってないことをテキトーに言ってごまかした。深く掘り下げないでほしい。知らないよ。検索先生作ってくれよ。魔物の正体究明方法の質問だけでお願いします。

 小娘が説明することに難色を示していた人もいたけど、最終的にはけっこうな支援をいただけることになった。魔物を退治したい気持ちは共通だもんね。

 資金提供に感謝します。ありがたや、ありがたや。



 説明会が終わって、壇上から降りたわたしはさっさと控え室に戻った。会場に残っている人達の相手をしてくれる手はずになってるペルツ先生はまだ来ない。偉い人の話って長いもんね。

 控え室で先生を待つ間、ノーディス先輩がお茶を淹れてくださった。イケメンは女子力も高い。

「ああー、しゃべりすぎて疲れた。お茶が沁みる」

「結構よく講義できてたぞ。ペルツ先生より上手かったんじゃないか」

「えっ、本当ですか。でもノーディス先輩に言われると、額面通りに受け取れない。どんなウラがあるんです?」

「俺をなんだと思ってるんだ。俺だって良いと思えば褒めるんだから喜べばいいだろ」


 胡乱な目で先輩を見つめた時、ノックが響いて、騎士服のおじさんが顔を出した。

「よお、ノーディスの。久しぶりだな」

「ヴェステンサミット閣下! ご無沙汰しております。このようなところでお会いできるとは」

 腹黒ノーディス先輩が爽やか好青年になってる。偉い人にはちゃんとできるんだね。


「やあ、キミは講義してたカワイコチャンだね。今度おじさんとお茶しない?」

 チャラい。騎士服も着くずしてて、チャラさを前面に押し出している。

「集団行動への支援が軍事教練にもたらす効果の検証方法とか、お話したいなあ」

 おや、中身はチャラいわけではなさそう。わたしを活用しようとしてますね?

 でも、もう質疑応答疲れたよ~。今のとこ別の研究に手をつけるつもりもないし⋯⋯。

 にっこり笑った顔で固まったまま返事できずにいたら、ノーディス先輩が割り込んでくれた。

「閣下も調査以外のご質問がおありで⋯⋯?」

「あー、いや、今はいいわ。お嬢さんとオトモダチになっときたくてさ。甘いもの好き?」

「はい、大好きです。疲れた脳には甘いものが効果的です」

 こういう質問はすぐ答えられます。

「ははは、頭使って疲れちゃったか。じゃあ、色々運ばせる。ちょっとノーディス君借りてくね」

 返事をする前に、先輩を連れて、くだけた態度のチャラいおっさん騎士は出て行った。

 うん、疲れが増した。



 少しすると騎士服のかっこいいお姉様が、たくさんお菓子を持ってきて、「ヴェステンサミット准将閣下からです」と言ってテーブルに並べてくれた。食べ切れなかったら持って帰っていいんだって!

 准将とか、雲の上の偉さな気がしたけど、本人から聞いてないし、気にしないことにしよう。チャラいおっさん騎士様、ありがとうございます!

 ひとりぼっちで待っている間にお菓子全種類制覇しよう。

 ちなみに、母国じゃ食べなかったけど、この国は魔物の肉を加工して食べる地域がある。ちょっとチャレンジしてみたい。


 お菓子に夢中になっていると、突然知らないイケメンが入ってきた。誰?

「がんばったな、ユーリアくん。資料も分かりやすくまとまっていたし、討伐隊の有用な動きも実例を踏まえていて実践的だった」

 しかも褒めはじめた。だから誰よ。

「あとは、解剖をどうするかだが、室内では許可されなかったんだ。申し訳ない」

 更に、今後の調査討伐の予定まで話始めて⋯⋯。


 あ、え。

「もしかして、ペルツ先生?!」

 あまりにびっくりして、指をさしてしまった。

「あー、ちゃんとした格好で会うの初めてだったか?」

「先生、ヒゲと髪と服が!」

「ははは、ヒゲ剃って髪整えたらこんなもんだ。服は、いつもとそう変わらないんじゃないか?」

「いやー、熊がヨレヨレの白衣着てるようにしか見えてませんでした⋯⋯」

「いや熊って」


 意外と若いし、思ったより顔が良かったです。好きな顔です。

 あと、服はいつもくたびれてて、こんなパリッとした学者みたいな服着てるとこ見たことありませんよ。

「いつもそうしてたらいいのに」

「研究していると、つい、な。身だしなみにかける時間がもったいないだろ?」

「ふふ、そうですね。熊の姿も先生らしいですよ」

「熊って定着させるなよ⋯⋯」

 熊じゃなくなったペルツ先生から、がんばったご褒美におこずかいをもらってしまった。研究費用から、調査の長期外出のための準備に使えって。学用品以外は経費で落ちないから、どうしようかと思ってたんだよね。

 ああ~、先生だいすき!




次回、先生のお金でお買い物中にヘタレ先輩と絡むの巻。


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