02
前回は説明回だったので、もう一回投下します。(本日2話目)
研究室とか言ってるけどノーディス先輩とペルツ先生しか所属していません。
異世界の話なので! ファンタジーなのでそういうものとしてお読みください。
魔物の本質は何か? 動物が魔物になったのではないかという説が一般的だが、動物が魔物になる瞬間を見た人はいない。
この学校ではなんとその過程を研究している先生がいる。その先生の研究室で一緒に学ぶことにした。
ちなみに、一緒に来た留学生は私のほかに四人いるけど、それぞれ専攻している別の研究室でお世話になる。
同じこと学んでももったいないもんね。だから、わたしは一人で帰国までに成果を上げないといけない。もしくは、母国にない知識や技術を身につけて持ち帰る。
がんばるぞー! おー!
「君が留学生か。いやあ、助かった。こんな地味な研究に参加してくれる学生は貴重でね。しっかり働いてもらうからね」
わっはっは、と豪快に笑ってわたしを迎えてくれたのは、熊みたいに身体の大きなひげもじゃのおっさん⋯⋯もとい、指導してくださる先生だ。赤茶色の髪とヒゲがつながってて、もじゃもじゃしてるから熊みたいで年齢不詳。あれ整えたら意外と若いんじゃないかなあ。
「ユーリア・ハンナ・ファーングヴィストです。一年間お世話になります。一年後にきっちり研究成果を持って帰りたいので、高い成果があがるよう、ご指導よろしくお願いします」
できればあんまりこき使わないで、結果だけもらえませんかね?
「いやあ、素直でいいね! 伯爵令嬢だって聞いてたけど、貴族の言い回しじゃないところがいいね」
「お褒めに与り光栄です」
貴族の言い回しって、はっきりしてなくて分かりにくい上に時間かかるよね。
「素直というか、欲望に忠実なんじゃないですか、ペルツ先生」
うしろから会話に交ざってきた人がいて、びっくりして振り返ると、たくさん資料を抱えたイケメンが研究室に入ってきた。
「先生、図書館に返してない本があるって怒られちゃいましたよ。返却期限は守ってくださいって」
「ええ? 返却してない本があったか? あー、そこの山の中か⋯⋯」
「だから片付けてくださいって言ったのに」
呆れ顔のイケメンとしょんぼりした熊。仲良しだな。
「あー、ノーディスくん、彼女は今日からこの研究室に所属してもらう交換留学生だ。彼女の指導もよろしく頼む」
「ユーリア・ハンナ・ファーングヴィストです。よろしくお願いします」
「俺はジェイヒライン・ノーディス。一年間、よろしくね」
イケメンのほほ笑みは破壊力抜群だった。
前世の記憶があるからか、自分の容姿を客観的に見れる気がするけど、私ってすごく可愛いと思う。小柄だけどおっぱいは大きめだし、ふわふわ揺れる栗色の髪に大きな翡翠色の瞳。ぶりっ子も似合う可愛い系だ。
まあ、性格はそう可愛くない気がしなくもないけど、擬態できる。たぶん。
イケメン率の高い学園で、うまいこと頑張って婿候補もゲットできたら最高だ。
イケメン伯爵子息のノーディス先輩に、学園を案内してもらう。
一番重要なのは食事事情だ。食事を提供している施設は学園内にいくつかある。全部利用したい。
この学園内で使用する食費は必要経費として計上できるので、遠慮なく食事はしっかりいただこうと思う。魔法を使うとお腹が空く。大きな魔力を持っている人は大抵大食漢だ。
しかもこの国、母国より食文化が日本に近い気がするんだよね。ドリアとかパエリアみたいな、お米を使う料理もあるし。
先輩達と一緒に初めてのカフェテラスへ。ああ~、美味しいご飯楽しみ!
食事を大盛り確保して、食欲をそそるいいにおいに意識を持っていかれていたら、ノーディス先輩に美人三人組を紹介されていた。
「彼女は僕の婚約者なんだ。素敵な人だから仲良くできると思うよ」
えっ。婚約者がいるの。
なんだよ、せっかくイケメンと1年も近くで過ごせるのに売約済みかよ~。これだけ美男美女じゃ横槍も入れようがないしなあ。じゃあ、お婿さんゲット大作戦は、研究室以外で活動するしかないのか。いや、そんな時間確保できる? 死に物狂いで探すしかない? あ、ノーディス先輩に優しくて貧乏伯爵家でも婿に来てくれそうな人を紹介してもらえばいいか、そうしよう。
人生設計について深く考え込んでいたら、いつの間にか席について食事をしていた。
このムニエル最高。あー美味しい。
そうだ、お婿さんを紹介してもらえないか確認しておかないと。
「ノーディス先輩は、顔がいいですね。じゃなくて、顔が広い方ですか?」
おっと、考えていたことが全部同時に漏れてしまった。
「顔がいいとストレートに言われることはあまりない」
「なんだ、友達いないタイプか」
「おい」
「スミマセン、言葉、スコシ、分カラナイ」
「急に片言になるな。流暢にしゃべってただろ」
やべ。怒らせちゃった。ごまかさないと。
「いや、ノーディス先輩と婚約者さん美男美女でお似合いだな、って思ったんですよ」
「だろ?」
同意しながらも、嬉しそうだ。自意識過剰だから友達がいないのか?
「彼女、一期生って言ってましたね。下学年の婚約者さんに敬語って、いつもそうなんですか?」
「ああ。彼女は我が家の宗家のお嬢様に当たるんだ。結婚までは礼儀を守らなきゃいけないからな」
「ふーん?」
そんな程度の関わりしかないってこと?
彼女は美人な上に笑顔もやわらかいけど、いかにも貴族的な外用の笑顔みたいだったんだよな。品のよさを前面に出している、っていうか。人見知りとか神経質な性格の人なのかな? それとも私が嫌われちゃったカンジ?
美人と友達になれたら嬉しいけど、急に婚約者の研究室にきた女なんて、面白くないだろうしなあ。
「確かにエビデンスは必要だけどさあ。一度にこんなたくさん要る?」
この場にいないペルツ先生に文句を言いながら、図書館で必要な本を探していた。
私が収集していた魔物のデータに、どうやらこの国では確認されていない情報が含まれていたため、にわかに研究室が活気いた。いや、ペルツ先生だけが大興奮して、約二名の研究室所属生徒に膨大な指示を出し始めた。
ペルツ先生は、なんやかんや書きなぐりながら考えた末、今までの資料を確認しなおす作業を言い渡した。
ちょっと、作業量が多すぎるんですけどー! 留学生までこき使いすぎじゃね?!
文句を言っても仕方ないし、データを揃えて整理していないと、実験の段階で上手く行かないこともある。そうなったら考察できないから、研究の始めからやり直しになっちゃう。
それも理解してるから、やるしかないって分かってるんだけど。
とりあえず、ペルツ先生の教師権限を使って、図書館で借りられる限りの資料を研究室に持っていくことにした。ノーディス先輩と手分けして探す。
ここの図書館は蔵書が多くて素晴らしい。けれども、どうして、こんなに書架が高いのか⋯⋯!
目当ての本を見つけたのに、上の段まで背が届かなくてプルプルするっ。
「これ?」
と、目当ての本を、後ろから背が高い人が取ってくれた。
「あっ、ありがとうございます⋯⋯!」
感謝をこめて自分でも可愛いと思う笑顔で振り返ったら、ノーディス先輩だった。
笑顔を無駄に振り撒いてしまった。ちっ。
「そっちの手に持ってる本置いてから取ればいいじゃん。あっちに梯子も踏み台もあるのに。そういうの、古語で『のめしこき』って言うんだって」
笑顔を無駄使いしたと考えたことが伝わったのか、いじわるイケメンはニヤニヤしながら辛口コメントをくださりやがった。
くっそハラ立つ~!
「まあ先輩、お手伝いありがとうございます。『無駄に背だけが高いのは、うどの大木って言うんですぅ』」
「おい、俺が言葉分からないからって母国語で悪口言うな」
「えっ、感謝して褒め称えたのにぃ」
「嘘つけ、悪口だってことは分かる」
奥歯で怒りを噛み砕いて、にっこり笑顔を貼り付けて、図書館だから小声で意地悪を言い返しておいた。
無駄に疲れたけど、まだまだ資料探しは終わっていなかった。
安心してください。
ユーリアではシリアスになりません。