第1話 見え始める幻
凄く開いてしまいました。すみません。それと、同じ名前にした作品があるので、名前変えました。
これまでただ生きているだけの日々だった。自堕落な生活を繰り返し、友達はいなく、ただ、一人寂しくピアノを弾いて生きて来た。
だが、今は違う。あの日見た、あの女性。美しくピアノを弾くあの姿に僕は見惚れていた。
あの日、あの時、音楽室に行ってしまったことを、今でも後悔する程に、また、あの人に「会いたい」と僕の心臓が早口に言っている。
なぜか、あの日の夢はいつになっても思い出せないんだ。なんで、あの時僕は涙を流していたのか。それさえも思い出せない。
夏も中旬に差し掛かり、暑さが熱さに変わって来たこの季節。僕は、この季節は嫌いだ。息をすれば、体全体を包み込むように、ただただ苦しみが襲いかかってくる。あの日の様に、また。
「今年も夏が来るのか。」
今日は、晴れだった。溜息を吐き坂をのぼる。息を切らし、汗をかき。僕は、運動が出来ない。なのに何故か、苦しい訳では無かった。
道には、バドミントンコート一つ分程の池がある。
そこには、その池に見合わない程美しい、睡蓮の花が顔を見せていた。アメンボが水面で小さく波をたて、 僕の意思と反して、彼らが僕を送り出す様に生き生きと、姿を見せていた。きっと、そのおかげだろう。
苦しいが、苦しい訳では無い。そんな矛盾を抱えながら、校門の前で佇んでいた。この門を通れば、僕もあいつらの仲間入りだ。門を颯爽と通り、教室へ向かう。
「失礼します。」
また、始まってしまったらしい。毎日だが、独りで寂しく授業が進む。前の席の人は、隣の人と喋り、後ろの人は、更に後ろへと話しかける。
僕は『トモダチ』がいない。理由は分かっている。「なんでこんなに時間が過ぎるのは遅いんだ。」
昼休み、僕は音楽室へ吸い込まれるように廊下を歩いた。理由は、分からない。
だが、行くべきだ。そう心が叫んでいる。
そして、音楽室に着いた。だが、其処には誰も居なかった。これが当たり前なんだ。その筈なんだ。
なのに何故?
「泣いてるんだ。」
そのまま、授業へと戻った。
これまでとは変わらず、授業を聞いた。あの日から何もかも頭に入ってこない。ずっとすっきりしない。
七限目、その日の最後の授業。また僕は音楽室に入った。当然、クラスメイトしか居ない。そう思うと何故か苦しくなった。
授業も終わり、音楽室を出て行くとき。運動部は体育館へと行き、他の部はそれぞれの教室へと行く。
生憎、僕は帰宅部だから音楽室と離れないといけない。少し苦しいが、これは仕方がないんだ。
ガチャッ………
扉を閉め、外へ出た。
その時だ。美しいピアノの音がした。誰も居ない音楽室からだ。
僕は無我夢中で走った。運動が出来ないのに、その時だけ速く走れた。確かに、ここから運命を感じた。
勢いよく扉を開けた。
そこにはいた。あの日見た美しい音色を奏でる女性が。僕は、その時言った。
「とって...も美しい......ですね......」
その人は、笑った。ニコニコと笑顔になった。
一呼吸置きその人は言った。
「君の演奏を聞かせて!」
次の話は、4月の間に出る予定です。