第0話 アサガオの咲く頃に
アサガオの散る頃に。
零
〜アサガオが咲く頃に〜
僕は小さな頃から、音楽が好きだった。
故、他の事には興味がなかった。
ずっと、音楽が僕の全てだと思っていた。
人と一回も話した事は無かった
高校一年の初夏。
いつも通り音楽室へ向かう。
少し暑いが、静かで、人と話さなくで済む。
この学校は音楽関係の部活が無いから人は居ない。
だけど、今日は違うらしい。
音楽室からピアノの音がする。
とても美しい音色だ。
今日は仕方なく行かない事にしようと思った。
よくある事だ。音楽室は僕の物では無い。
潔く離れようとした。
だけど、足が動かない。
僕の身体は少しずつ音楽室へと向かっていく。
もう、扉の前まで来てしまった。
音楽はこうも自分を引き寄せてしまう。
身体には逆らえず、扉を開けてしまった。
開けた時、これまで全く出せなかった声がでた
「とって...も美しい......ですね......」
そこには、とても美しい女性がいた。
アサガオの様な目の色の女性が。
何故か、その女性は驚いた顔をしていた。
顔をあからめて。ピアノの鍵盤に手を置いたまま。
......あ。主語をつけ忘れていた。
それに気付き急に恥ずかしくなった。
逃げる様に教室から出ようとした。
「ちょっとまって!」
何故か止められた。怖い。
「君の演奏を見せて!」
僕は恥ずかしさの余り、考える事ができなかった。
言われるがままに、弾いた。
何故か褒められた。更に恥ずかしくなった。
なんで僕がピアノを弾けると分かったのだろうか。
僕の演奏が終わった後、その女性と別れた。
今日、このクラスに転校生が来るらしい。
来るといっても僕には関係無い事だ。
もしかして、昨日の女性かも知らない。
とも考えたが、そんな訳が無い。
は...ず..だか。
来てしまっている。昨日の女性が。
僕の隣の席に来た。
これは夢なのか?
その女性は隣に来て僕の顔に口を近づけこう言った
「私、◼️年の夏の終わりに。
私の好きなアサガオが散る頃に死ぬらしい。
だから、今のうちにいっぱいピアノ弾こう!」
その言葉を聞いた途端、突然目が覚めた
その言葉は鮮明だった。.......................
.............
「なんで、僕。泣いてるんだろう。」
不思議な虚無感に襲われる朝。
今日はどういう夢を見たんだろう。
そう思いながら黒焦げになったパンを齧る。
「いってきます」
そう言い放ち、今日も学校へ向かう。
何故か、今日は学校へ近づくほど心拍数が上がる。
朝、アサガオが咲く様に、
この朝から人生を楽しめる気持ちが僕に咲いた。