51話 グランリア
私は馬車の上で揺られていた。気持ち良い風を感じつつ穏やかな景色を楽しんでいた。
パステル市からパルメルン市に向かう商人のキャラバンの護衛を受けていたのだ。
次の目的地はグランリア、パルメルンまでは護衛をして金を稼ぎつつ馬車で楽をするつもりだった。
結局あの祭壇は全員の破邪聖石をダメにしつつも何とか破壊し無力化することができた。
そして1週間かけてパステル市に戻りそこで報酬が支払われ軍は解散となり依頼は終了となったのだ。
ハッキリ言えば私の武功は叙爵相当、更に言えばいきなり子爵にすると言う話もあったけど私は断り報酬だけを受け取ることにした。
私の目的は貴族になることではない。そんなことしたら王宮に連れ戻されちゃうからね。
私は資金的にも余裕があったのでグランリアに向かうつもりでいた。なのでその周辺に向かうキャラバンの護衛依頼が無いか探し続けていた。そして軍の解散から3日後、遂に見つける事ができた。そして今に至るのだ。
「おい!前方にお貴族様の馬車がいるぞ!」
その一言でキャラバンは騒然とした。
「何っ!なっ!?進行方向が同じだと!?」
「くっ……抜かせない以上、時間が掛かる……」
あーあ、コレは非常に面倒ね。改革なんて無理だったからやらなかったけどこの国は貴族特権強すぎるのよね……。それと貴族社会全般に言えるけど馬車をトロトロさせ過ぎ、乗っててイライラする。
と思ってビビってたら前にいた貴族の馬車が街道の端に寄せて止まった。
ん?どういうことかしら?
よく見てみると一人の騎士が騎乗でこちらに向かって来る。
何の伝達役なのだろう?
「我が主、フラジミア公爵閣下より伝言である!『当家のことは気にするな、先に行け』とのことだ」
ゲッ!なんでフラジミア公爵が来てんのよ!
正直会いたくないわね……。彼は私のこと知ってるから見つかると普通にバレる。バレたら何を言われることやら……とりあえず姿を隠そう。
「では公爵閣下に感謝し、有難く先に行かせてもらうとしよう。ほらっ嬢ちゃんおいで」
商会長……勘弁して……。
確かに道を譲ってくれる貴族の馬車なんて珍しいかもしれないけどさぁ……。
「え、遠慮しておくわ。フラジミア家とは隔たりがあるの」
とりあえず全力で拒否しておく。見つかりたくない一心で。
「おやおや、そりゃあ残念だ。仕方がない」
貴族にビビり散らかす平民もいないことはないので受け入れられた。
こうしてフラジミア公爵の馬車をスルーすることができた。
そして2日後、キャラバンの目的地のパルメルンに到着した。
私はギルドで報酬を受け取り宿で一泊してからグランリアに向かって歩みを進めた。ここからは徒歩で1日掛からないくらいで着くはずだ。
グランリア市、久しぶりに訪れるわね。アンとして死ぬ前に比べて立派な城壁と水堀に囲まれている。それだけ防御が重要な街だった。ここは国境付近であると同時にあの大厄災の中心地でもあった為、この様な城郭都市へと変わっていたのだろう。
「こんな立派になっちゃって……あの時落ちなくて良かったわ……」
うん、感慨深い。
あの時、私たちが命を賭して戦っていなかったら、最後に竜の前で何もできずに立ち尽くしていたら、この街は恐らく落ちていた。ある意味私が守った街とも言える。
「こんな所で止まるわけにもいかないわね」
私の独り言は青空広がる草原に消えていった。
ーーーーーーーーーー
翌朝、街の宿でチェックアウトして慰霊園に向かった。共に戦い共に散っていった仲間たちを弔いたかった。この街に来た理由はそれだから。
雲一つ無い快晴の青空、爽やかで心地よい風の吹く草原、そこがかつて世界の存亡がかかっていたかもしれない戦場だったと言われてどれだけの人が信じるだろうか?いや、誰も信じることはできないと思う。
そんな美しい草原の中にソレは鎮座していた。
剣によって付けられたであろう穴のある竜の頭蓋骨とその前に置かれた祭壇があった。ここは慰霊園の中心、かつて私が竜と相討ちになった場所である。
祭壇にはこう刻まれていた。
"ここに眠るは厄災と戦いて落命せし者たち、死してまで我らを救いし者たち、世界の平穏の為その身を捧げた者たち、彼らが永久に安らかに眠らんことをここに祈る"
私は祭壇に花束を献じて手を合わせた。そしてこう声をかけた。
「私だけが残されてしまった。私はまだあなた達のいる所にはいけない。あなた達の仇は私が必ずや倒す。安心して眠りなさい」
私は慰霊することに集中していたが為に後ろにいる者に気づくことができなかった。
「私だけが残されてしまった、か……。この地の戦役は殿下が産まれる前の話なのですが……」
後ろにいて声をかけてきたのはフラジミア公爵その人だった。彼は私の声も知っている。魔法の心得も僅かとは言え持っている。魔力と声から私が出奔した王女であると気づくのは容易だ、誤魔化すことはできない。まさか彼の目的もここだったとは……。
「この肉体は確かにここに縁はありません。ですが、魂はここに縁があるんです」
「ほう」
「私には成すべきことがある。それでは失礼します。公爵閣下」
「王族ともあろう者が何をしに行かれるのです?王都にお戻りいただきたい」
「そうはいきません。それより公爵、何故貴方がここに来ているのです?」
私にとって最大の疑問は公爵が何故ここに来ているのか、だ。逆に公爵からしたら私の身柄はしっかり確保して王都に戻りたいのだろう。尤もこんな所で荒事を起こすような愚か者ではないのでそれを突いて逃げるつもりでいるけどね。
「あの厄災の時、先代公爵だった父上は高騎士として、将軍としてこの地に赴き御殉職された。故に子であり公爵家現当主である私はここに来ているのだ」
「そう、それは知らなかったわ。当時は私も極限状態だったからね。誰が援軍として送られてきたかとか気にする余裕はなかったわ」
「殿下は何者なのです?」
「その問いに答える必要はありません。世の中知らぬ方が良いことなど幾らでもあります。公爵ならお分かりでしょう?」
そう言って私はグランリアを跡にした。
次の行き先はチバンガ教国、教会の総本山のある宗教国家だ。今の私には過去の残歴転生について調べる必要がある。強くなる為に、使命完遂の為に、そして実家に連れ戻されない為に。
いつも理を越える剣姫をお読みいただき誠にありがとうございます。
今回で2章完結となります。
ここまでお読みいただき誠にありがとうございます。
次回3章開幕は10月21日月曜日更新となります。
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