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45話 ワルカリア討伐戦-8-

 私が部隊に戻って早々に本陣から総攻撃の命令がくだされた。

 私が参加した軍議で策定された作戦が幕を開けたのだった。


 内容は非常にシンプル、敵を包囲しつつ隠し通路から内部に侵入し、急所を穿ち抜いて敵戦力を瓦解させる作戦だった。

 とは言っても敵の拠点の弱点と成りうる急所を知るのは不可能に近いので本来ならありえない手口と言って良い。正しく敵の元幹部が流れてきたが故に可能になった作戦である。


 元敵幹部のノシュヤも私と数人の騎士の監視の下、作戦に従事している。彼ほどの実力者を捕らえておいて放置しておくのは勿体無いとの判断がされたからだった。勿論、彼の捕らえられてからの言動が信用を得るに足りた証でもある。


「まさか本当に同行させてもらえるとはな」

「条件付きの仮釈放だ。下手な真似をすれば斬るぞ」

「はいはい、そんなアホな真似はしねぇよ……流石にな」


 騎士たちとノシュヤの会話を聞いて頭を抱えたくなる。この状況でそんなこと言えば騎士たちがこうなることくらい想像できるでしょうに……。


 当然騎士たちはノシュヤのことを完全に信用してるわけではない。何故なら寝返った人物はすぐに裏切る人物という評価になるからだ。この考え方にに例外は無い、騎士は国に仕え忠誠を誓うことが絶対であるが故の思想だった。


 しかし騎士の世界からはほぼ無縁だけど世の中には例外も無いわけではない。上に立つ者が裏切ったり、仲間たちから追放されたりと言うことが起きないとは限らない。その被害者に非がない場合も当然ある。ノシュヤの場合は文字通り彼を責め立てるのは理不尽そのものと言って良いパターンである。


「着いたぜ」


 ようやく着いたらしい。本当に隠し通路なんてあるのかしら?


「この壁には隠し通路がある。この通路は俺とその舎弟たちしか知らねぇ秘密通路だ。見つかる可能性はかなり低いだろうな」

「ただの壁にしか見えんがな……」

「で、どうやって開けるのだ?」

「ぶっ壊す」


 なんとも物騒な開け方だった。と言うか秘密にしても開けたらバレるでしょ……それ……。

 ほら、周りも唖然としてるよ……。


「一応他の開け方がないわけじゃ無いぜ。魔術鍵があるにはあるが俺の手持ちは先の戦いで壊れてしまってな……壊すしかねぇってわけだ」

「えぇ……そんな大事なモノ、なんで壊れるような保管をするのよ……」

「壊れるとは思わなかったからな、仕方がない」


 確かに彼の実力なら簡単には殺れない、だから油断してたんでしょうね……。彼にとってはそもそも私の存在が想定外過ぎたのだろうし。


 とは言え、今のやり取りで分かったことが1つある。それは魔法の知識に関しては私には遠く及ばない可能性があるということ、こればかりは本当に朗報だわ。戦闘に関わる知識に差があるとそれだけで戦闘の結果に影響が出るからね。万が一もう一度戦う羽目になった時に優位に立てる可能性が高まった。


 そもそも魔術鍵に専用の鍵となる魔道具は必須ではないことを彼は知らないらしい。定められた周波数の魔力波を帯せてやれば無くても何とかなるはずなのだ。

 まぁ私も理論は知っていてもやったこともないから出来るかは怪しい。それでもぶっ壊す音を出すよりかは成功するか試す方がマシか……。


「少しやってみるわ……」

「何をするつもりだ?音を立てない壊し方か?」

「解析」

「?」


 案の定、ここまで話しても彼は気づきすらしないわね。本当に知らなかったらしい。

 それよりも今は解析することね……。


 解析してみると意外なことが分かった。


 使われていたのは杜撰な術式なのだ。こんなの解析してくれと言わんばかりの酷さだった。この仕掛けを仕込んだ者は初歩的な技術しか持たない魔道具職人である可能性が高いわね。知識として知っているだけの経験のない私ですら簡単に読み解けたのだから。


「これは杜撰な術式ね……」

「何が言いたい?」

「解析は済んだわ。極めて単調な術式で非常に読みやすかったわ。あ、因みにこんな解析やるの初めてだからね?初めて出来る時点でお粗末すぎるわよ。後は術式を計算するだけで破壊せずとも開けられるわ」

「マジかよ!そんなの聞いたことねぇぞ!」

「何をしているのだ?」


 どうやら騎士たちも知らないらしい……。よくよく思い出してみれば王立研究学術院と騎士団の仲は極めて悪かったわ……。仲が悪くて交流もなかった為に騎士団は魔法の知識に乏しいし、逆に王立研究学術院は使えない腰抜け学者の集まりなのよね……。


「魔術鍵は鍵となる魔道具がなくても特定の波長の魔力を浴びせれば開けられるわ。ただ使われてる術式を理解していないと正解の魔力波を起こせないから解析して解を計算する手間が必要なのよね」


 ドン引きする周囲の人達を無視して私は計算を進めた。


 正解を求めるのにかかった時間は僅かだった。

 うん、杜撰だね……。


「解けたわ」

「ホントか?」

「やってみれば分かるわ」


 私が魔術鍵に魔力波を当てたその瞬間、凄まじい速度で音を出さずに扉が開いた。うん、使われていた魔道具は酷すぎたけど扉自体は非常に素晴らしいものね……。

 色々突っ込みたいところだけどそれは置いておくことにしましょう。


「何をどうしたら……作成してくれたあのオッサンは『こんなの抜けねぇと思うぜ』なんて言ってたんだけどな……」

「中途半端な魔法理論だとそうなるわね……むしろ扉の質の良さの方が意味不明よ……」


 流石の地方クオリティである。地方では少しでも知識があれば大した事ないのに調子に乗ってても誰もおかしなことに気が付かないのだ。

 因みに私は教育レベルの地域差の是正はまったく手を付けていなかった。理由は2つ、出奔の障害化を懸念していたのが1つ、もう1つはそもそもやる気がなかったから政策を考えることもしなかったのだ。


「細かいことは気にせず行くわよ。さ、案内頼むわ」

「お、おう……」




 ノシュヤの先導で隠し通路を進んでいく。隠し扉の先は地下通路になっていて王宮の緊急脱出通路を思い出すような構造だった。ここは脱出だけじゃなくて出撃・緊急退避なども想定されてると思うけど。


「止まれ、ここから先は拠点の中枢だ。護り手も精鋭揃いだ。覚悟しろよ、死にたくなければな」


 確かに彼の言う通り、空気が変わってきた。入ってすらいないのに警戒態勢に入ってる雰囲気すら感じられる。


 彼の警告に皆が頷く、覚悟は皆できている。


 気合を入れて私の所属部隊は突入を開始した。

いつも理を越える剣姫をお読みいただき誠にありがとうございます。これからも宜しくお願いします。

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