32話 即席の共闘
目の前の敵を蹴散らした私はキャラバンの後方に向かいつつ、敵を撃破していた。
戦闘に従事する中で奇妙なことに気がついた。
なんと一番後ろの馬車に乗っていた冒険者が誰一人として前に動いていないのだ。これが意味することは後方から化け物じみた奴がいる可能性があるということ、つまりこの辺で自在に動けるのは自分だけってことね。因みに商会員たちは馬車の直衛があるので動けない。
私は次々と敵を撃破して後方へと向かった。最後尾の戦況は最悪としか言えないものだった。
辿り着いた時点で冒険者2人が戦死していた。
残るメンバーは商会員4人と冒険者4人、冒険者は『パスカルの獣』のメンバー3人全員とソロのAランクの槍士、商会員は剣の心得があるのが3人で残り1人が弓士だった。
「フンッ……所詮Aランクと言えどもその程度でしかない」
かなり不味い状況だわ……。敵の中に極端に危険なのがいる。それもフディーサランに匹敵する化け物クラスが……。それもそいつ一人に良いようにされてるようだった。今は辛うじてAランクの彼が化け物を引き受けてくれているようだった。
でも魔力はまだある、あの時よりはマシだけどそれでもキツい。なので私が狙うは不意打ち、そうするしか手がないわね。まぁ……不意打ち如きで討ち取れるような相手ではないので目的は優位にすることだけどね。
武器を大太刀から打刀に持ち替え観察していたところ、状況が動いた。今っ!
「ここまでよく耐えた、死ね」
化け物じみた戦闘員の攻撃を彼は吹き飛ばされつつ受け流した。
奴は目の前の敵を吹き飛ばしたものの動き出した私にはまだ気がついていない、私が狙うべきは殺すのではなく欠損、相手の受けを外させて重傷を負わせること!
「ほう、後ろに回り込んだか。だが甘いぞ」
奴は私に気がつくと反転し横薙ぎに剣を振るった。不意打ちで殺そうとする私を倒すために。
しかし奴の剣は空振った。私は姿勢を低くして避けたのだ。元よりこの一撃で決められないのは分かっている。だから狙いは脚だ!
狙い通り私はアッサリと奴の右脚を斬った。次いで右脇に火炎弾と過敏魔弾を撃ち込んでクリーンヒットさせた。過敏魔弾はフディーサランとの戦いの後、ドンジョたちに魔法を教えたときの経験を元に開発した独自魔法だ。これは対策できまい。
僅か一瞬の攻防、それで形勢を逆転させることができた。
しかしその場にいては反撃を受けてしまうので即座に離脱した。
「小娘風情が!よくもこのギーザン様に怪我を負わせてくれたな!」
思った以上に激昂しているわね。痛みに耐えながら絞り出してるようだった。とは言え、斬られてすぐに治癒魔法を使っていたので体はしっかり動くとは思う、激痛は残るからマトモに動けるかは本人次第だけどフディーサランの例があるから油断はできないわね。
ギーザンの殺意が私に刺さる。奴は負傷したばかりであり、過敏魔弾によって魔法的能力に制限がかけられてる状況にある。過敏魔弾のせいで魔法を簡単に使えない、なのに治癒魔法を使ってしまった。結果的に症状を悪化させたようだった。まぁあの状態で魔法を使おうとするのは凄い根性だと思うけどね。
魔法的には体はズタボロ、なのに無理をして治癒魔法したので魔力の暴走に繋がったのだ。これては体は治っても戦闘能力はかなり低くなったはず……。
「クッ!小娘、何をした?」
答えない。答えるのが隙になるから、油断なく構えて奴と対峙する。
「このギーザン様の質問に回答は無しか、ならば倒して拷問するとしよう。何、この程度の傷ならガキごとき軽く捻り潰せるわ!」
思ったより動きは鈍ってないわね……。
突っ込んできた奴の剣を受け止めた。確かにこの状況で私が身体強化を最大出力にして拮抗するのはおかしい。多少の無理はあるかもしれないけど発言に偽りはなさそうね。
奴の力を受け流し、鍔迫から脱すると同時に右腕に斬りつけた。肘から下が切り落とされ、彼の腕は左腕一本にしてやった。治癒妨害系の禁呪も撃ち込んでやった。これで再生はしないだろう。
因みにこの禁呪は城の禁書庫に入り込んで習得した魔法だ。今思うとよくバレなかったと思う。禁呪指定を受けた理由は確か非人道的と言う理由だったはず……。
「お〜の〜れ〜!小娘、貴様だけは殺す!」
ボロボロの体でよくやるよ。正直感心する。でもそろそろ終わりにしよう。ここからは力押しで討ち取ろう。
動こうとしたその時、奴は絶叫を上げた。
何かと思ったら奴の魔力が膨れ上がった。それと同時に過敏魔弾による障害が酷くなる。体中に激痛が走るのを暴力的な魔力量に任せて耐えてるわね。
「コロス、コロス、コロス、コロス、コロス!」
うん、遂に壊れちゃったわね……。流石に危なすぎて安易に手がつけられなくなってしまった。
壊れたことで知能を失ったらしい、初心者同然の動きで私に襲いかかってきた。動きは悪くともその威力は計り知れない。避けたり受け流したりすることで打撃を受けないようにしていた。奴の体は時間経過と共にボロボロになっていく、これは自滅を狙うのが一番効率後良いかもしれない。
しかしここで思いもよらぬ結末を迎えた。
「グッ!馬鹿な……」
「ジャンヌの嬢ちゃんが命張って庇ってくれたんだ!ここでやらなきゃ男が廃る!」
ダウンしていたAランクの彼が背後から奴の心臓を貫いた。奴が私に執着しているのを見計らって急所を貫いたのだ。
流石に心臓を貫かれては生命活動は維持できない。奴は力を失ったことで正気を取り戻したようだけど壊れかけの体を支えていた力を失ったらしくそのまま斃れた。
「助かったわ」
「いや、こちらこそ助かった。嬢ちゃんが来てくれなかったら俺たちは死んでいた。しかしアレは一体何なんだ……?」
彼は斃れたギーザンを指し質問をしてきた。
「ワルカリアのメンバーの中には化け物じみた奴が何人もいるわ。私も実物はコイツ含めて2人しか見たことがないけどね。変な加護を受けてるせいか、かなり危険なのよ」
「変な加護……ね……。もしかしてもう1人はパステルを牛耳っていたフディーサランか?」
「ソイツよ」
「成程な……」
彼は溜息をつくと改まって私の方を見てきた。
「いや、とにかく嬢ちゃんには感謝する。俺はルドルフと言う。まだまだ俺も精進しねぇといけねぇ。ところで嬢ちゃんはどうやってアレだけの力を持ってるんだ?」
私の秘密を探りに来たか……。女の秘密をどうたら言うつもりはない。彼はその向上心から私にその質問を投げてきたのだから。まぁ伏せるべきところは伏せるけどね。
「貴方の戦技は悪くないわ。この分野はこのまま今まで通り鍛えていけば良い。後は魔法になれることね。一応身体強化は使えるみたいだけど出力も低すぎる。魔法が使えれば手数も増えるわよ」
「魔法か……もう少し勉強してみるか……」
「苦手意識でもあるの?」
「ある」
あるんだ……。
「上級冒険者の魔道士に教えを請うた方が良いわね。独学では限界があるわ」
取り敢えず私に余計な仕事が来ないように手は回しておこう。
「何人か心当たりがある。教えを請うてみる。ありがとうな嬢ちゃん!」
ここで私とルドルフと別れた。
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どうやらここが一番手間取っていらしい。他は私がギーザンと対峙してる間に片付いていた。
この後は何事もなくパステルに戻ることができた。
ギルドで依頼の完了手続きを済ませて迷宮の拠り所にチェックインした。
この街にいる間はここが塒ね。
いつも理を越える剣姫をお読みいただき誠にありがとうございます。これからも宜しくお願いします。
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次回は8/21(水)19:30の予定です。




