28話 マウントゴブリンの軍勢(中)
標的は今すぐにでも狙える。でもここで一回認識の再共有をして細部を固めよう。今回は多少の齟齬で総崩れになる可能性があるからね。
「私がまずあの群に炎の大魔法『獄炎滅却』を放つわ。その瞬間に皆はグループ毎に別れて奇襲の体勢を整える。ここまでは良いわね?」
「あぁ」
「理解してるぞ」
ここまでは皆覚えてたわね。ここからが本題、どこに隠れるのか、それをここで示す。
「皆理解してるので先に進めるわ。この近くに隠れやすい茂みが4箇所かあるわ。あの4箇所よ、見えるわね?」
私は該当地点に向け指をさしてその地点を示した。
「つまり俺たちはグループ毎にその茂みに潜むってわけだな」
「正解よ」
理解が早くて助かるわ。理解できているなら話は早い、ちょっと指示を出すだけで済むわね。
「左から1グループ、2グループ、3グループ、4グループにするわ。私の魔法が炸裂したらすぐに動き出して」
皆が頷いたところで作戦開始ね。
「始めるわ」
宣言をしてから術式を組んでいく。この前のワルカリア粉砕の為に行使した超大規模術式に比べれば大した規模でもないので、すぐに組み終えることができた。この程度の術式など造作もないわね。そしてこれが開幕の狼煙になる、この術式を発動したら壊滅させるまで戦いは終わらない。
組み上がった術式を展開すると炎の柱が敵陣の中央に突き刺さり炸裂した。炸裂した炎は敵陣全域に広がり、凄まじい火柱を立てた。
うん、良い感じね。これなら敵を釣れそうだ。
あ、思った通り、私を脅威と見做して脅威の排除に動き出したわね。
開戦の狼煙は上げた。後は仲間たちと向かって来る敵を蹴散らすのみ、私も遊撃を開始ね。
全てのグループが奇襲の準備が整ったようね、これで何時でも敵部隊を奇襲できる。
最初にこちらに向かってきたのは15体程の小規模な部隊だった。それに対して迎撃するは3グループ、パステルの獣を中心とする即席パーティーでリーダーはあのグラットさんだ。
グラットさんの号令の下、茂みから飛び出し敵部隊を横から蹂躙した。流石としか言えないわね。
「先鋒は綺麗に片付いたわね」
思わず漏らしてしまった。油断はしてはいないけど気は緩ませすぎないようにしないとね。
そうして私は周囲を見渡した。何しろ私のいるところは比較的高いところだからね、敵の動きがよく見えるわ。
他のグループも次々と敵部隊を撃破していく様子がよく見える。作戦はここまでは成功ね。
あっ、4グループの近くに幾つかの部隊が集結してるわね。さて、結構な数いるから潰しますか。あれは少人数で近接戦メインで潰すのはほぼ不可能だし、私の最大の役目はそんな大部隊を魔法で吹き飛ばすことだから。
そう考えてたら敵部隊が私の背後に現れた。どうやら迂回してきたらしい、頭が良いわね…。
魔物のクセに小癪だとは思わない、魔物には知恵や知性を持つものも少なくない。ゴブリン種は比較的その傾向が強く、弱い魔物の中ではトップクラスに高い知性を持ってる。
そうした知能の高さを以て、凄まじい繁殖力を最大限に活かす例も少なくない。今回の軍勢はその最たるもの、放置すれば国家レベルの脅威になりうる。負けるわけにはいかない。
私のところに現れた敵は10体、しかしその10体はマウントゴブリンとしてもかなり体格が良い、恐らく群の中でもかなりの精鋭だ。
大太刀を構えた。相手が精鋭だろうとやることは変わらない。蹂躙するだけなのだから。
ここで手こずればあの大部隊に仲間たちが蹴散らされる可能性もある。魔力も温存しなきゃいけないけど時間はかけていられない。
ゴブリンたちは私を包囲するように動いているわね。確かに効果的な戦術よ、相手が私でなければね。
まずは端の一体、突撃と同時に首を刎ねた。冒険者から奪ったと思われる剣で防ごうとしてたようだけど、私の前では無意味だ。そもそもリーチに差がありすぎるし、一撃毎の威力にも差がありすぎる。
そして私が動くと同時に一気に奴らは一気に襲いかかってきた。数の利、包囲の利を活かしているのは流石だと思った。やはり賢いわね。
でもそれで圧されるほど私は弱くない、確かにこいつ等はマウントゴブリンの群の精鋭かもしれない、でも私の積み重ねられたキャリアや経験に比べれば大した事ない。
最初に横から飛びかかってきた個体は小規模な爆炎球で吹き飛ばした。いい感じに爆ぜてたので即死したわね。
続いて2体が正面から突っ込んできた。奴らは得物を上段に構えていて、どちらかが攻撃を当てれば良いくらいの感覚で突撃しているわね。でもその得物、リーチが短いのよね。その差を埋めるのって案外難しいのよ。横に一閃、攻撃範囲を最大に活かした範囲攻撃で斬り伏せた。無防備なお腹を斬り裂くくらい余裕でできるわ。これで3体!
斬り払ったところで後ろに気配を感じた。右側に横跳びでその場を離れると私のいた場所に槍の穂先が現れた。どうやら器用に後ろをとって突きを放ってきたようね。本当に危なかった……
槍の穂先が引かれるのと同時に槍の持主に確認した。やることは1つ、顔面にファイアボールを直撃させた。いい感じにこんがり焼けて即死したわね。因みにこの至近距離ならロスタイム無しで発動できる炎系最弱クラスの火炎弾でも耐性持ちじゃなければ即死させられる。
ここでボーナスタイムが終わってしまった。等間隔で残りの6体に放置されてしまった。
しかし打つ手が無いわけではない、私は浮遊魔法が使える。
急ぎ窮地を脱するために身体強化を使って跳び上がった。私が動いた瞬間にゴブリンたちも攻撃をしてきたが当たらない。巧く避けることに成功した私は空中で浮遊魔法を使い、姿勢を安定させた。
そして空中から爆炎球を落として6体まとめて爆殺した。
「ふぅ……本当に危なかったわね……」
こっちが10体の精鋭たちの相手をしている間に例の集結していた部隊は編成を終えたらしいく進軍し始めていた。
でも今なら間に合う、大群を効率よく屠れる属性の魔法が使える。細長い隊列相手にあの魔法はあまり効率よくないから今が最後のチャンスだった。
あの部隊をを壊滅させるのに使う魔法は『破却の雷』、拡散性のある雷撃を叩きつける魔法だ。これを生物犇めく空間に撃つと面白いくらいに敵を蹴散らすことができるから実戦で使うのは結構楽しいのよね。見た目の派手さは無いけどね……。
いつも理を越える剣姫をお読みいただき誠にありがとうございます。これからも宜しくお願いします。
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