6話 進むべき道
残歴転生していることを知ってから私は考え続けていた。私は何をしたいのか、使命の為に何をすべきなのかを…。
アンとしての記憶を取り戻す前の私ならマトモな大貴族の子息と結婚して華々しい生活を送りたいと答えたと思う。
でも今は違う。
今の私にはアンとしての記憶がある。あの地獄の真実を知り、戦闘技術の知識を持っている。そして使命を負って自分だけが取り残されたような感覚だった。
「ふぅ…いくら考えても答えは出ないわね…」
独り言は広い王宮図書院の中で消えていくはずだった。
「意外ですね、殿下が悩まれるなんて…」
「あら、マリアも来ていたのね」
話しかけてきたのはマリア・フォン・フラジミア、この国の筆頭公爵家たるフラジミア家の令嬢だった。王家と筆頭公爵家の関係で歳も近いことから幼馴染の関係にある。
「殿下も変わったわよねぇ。前だったらこんなところ来なかったでしょ?」
「来ることはなかったわね。でも今は知りたいことがある。だから通ってるの」
「へぇ〜」
何を考えてるのか全くわからない、これだから「へぇ〜」は困る。まぁ隠し事している私が言えたことじゃないけどね。
「こんなところで悩むくらいなら楽しくお茶会でもしませんか?」
お茶会の提案ね。なるほど、良いこと考えたわ。
確かフリードはバリネット伯爵家と深い繋がりが合ったわね。都合の良いことにバリネット伯爵家には歳の近い令嬢がいたはずだわ。
呼び出して強引に関係築くのもありなのかもしれない。いや、強引にいくのは避けたほうが良いかもしれない。無難に招待だけに留めるべきね。
「良いかもしれないわね。私の方から何人か呼んでみるわ。皆でお喋りした方が楽しいでしょ?」
マリアも頷いた、これで確定ね。
私とマリアとバリネット家の、確かレーナ嬢だったわね。3人では味気ないわね、もう何人か呼ぶとしましょう。
これで得るものがあれば私としては万々歳、それくらいのつもりでお茶会を開催しましょう。気負ってても碌なことがないからね。
この手の子供会は社交界デビューに向けた練習や貴族間の友好関係の構築によく使われる手だから私が開催しても文句は言われない。ただし、爵位の差が激しすぎると問題になるケースもあるけどね。子爵家以下は余程の事情がないと色々と問題になるけど伯爵家なら王家が招待しても問題はないはず…。
まぁ保護者の相談無しに進めるので白い目は向けられるだろけどもう気にしない。
最終目標を考えたら貴族社会での名誉は要らないからね。
決まれば準備を進めるしかない。
まずはレーナ嬢の日程の調査から始めた。彼女だけは絶対に来てもらいたいからね。
彼女が王都にいるタイミングで王都に来ている伯爵家以上の令嬢を何人か見繕って招待する方向で調整しよう。これなら余程おかしいことをしない限りは大丈夫!我ながら見事な策だわ!
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開催したお茶会はハプニングだらけだった。
当日、なんと複数の参加予定者が国内最大のマフィアであるワルカリア・ファミリーの襲撃に遭って不参加となる事件が発生、さらにその関与を疑われたウラミア侯爵家の令嬢が途中で騎士たちにつまみ出されると言う珍事まで発生した。
主催の私は頭を抱えた。来るはずだった参加予定者が次々来れなくなるなんて誰が想定できただろうか?
これだけの不運が続けば雰囲気は暗くなる。暗くなれば参加者たちの満足度は低くなる。どうにもならない悪循環が起こっていたのだ。
唯一の救いはレーナ嬢と良い関係を持てたこと、彼女も貴族令嬢としては活発な気質の持ち主なので私との相性は比較的良かった。
ただ、このお茶会で私は悟った。私には貴族の道は無理だと言うことを。致命的な程に貴族らしい振舞いが苦痛であることを知った。
私の心は自由を求め、戦場を駆け抜けることにあるのだと言うことを痛感した。
そして共に散っていった仲間たちへの義理立てとして、弔いとして、仇討ちをしなければならないと言う想いが芽生えてきていた。
ただ一人残された者として…。
幸い私の使命は邪なる者の退治、前世の私が散ったのもそいつのせいだった。愚直に使命の道に突き進めば彼らの弔いはできるだろう。
私の中で戦う理由ができたのは大きな成果だった。
私はもうくだらないことで迷わない。
全ては己の道を進むため。
いつも理を越える剣姫をお読みいただき誠にありがとうございます。これからも宜しくお願いします。
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