27話 マウントゴブリンの軍勢(上)
目的地である鉱山の採掘拠点になっている街は異常事態に陥っていた。
目的地の直前でキャラバンは停止した。前方にマウントゴブリンの群(?)が確認されたからだ。その規模は大規模になることも少なくないゴブリンの群としても多過ぎる、もはやゴブリンの大軍勢とも言うべきレベルだった。
「これは…少なくとも万はいますね…」
「防御設備が無ければ城攻めになってましたな。街が落ちていないだけこの状況はマシなのでしょうか」
「いや、数が多すぎるだろ!」
目の前の惨状を見てキャラバンのメンバーは揃い揃って頭を抱えた。
簡単な解決策と言えば私が大魔法で蹴散らすことだけどそれにしたって限界がある。広域に展開し過ぎで途中で魔力切れを起こす可能性は高い。
しかし時間的な制約もある。既に太陽は落ちかかっている。日没までに片付けないと危険だった。こんなところで野宿はできる訳が無い。襲ってくれって言ってるようなものだからね。だから私たちには何がなんでも撃破して街に入る必要があった。
マウントゴブリン、山岳地帯での生息に特化した特殊なゴブリン種の魔物だ。高山地帯でも息切れしない特殊な構造の肺を持ち、険しい場所を踏破するための強靭な手足を持つ特別種のゴブリンである。しかし弱点がないわけではない、水辺にトコトン弱く、一定以上の水深で立てないとすぐ溺れてしまうと言う特徴がある。
因みにこの街は温泉が湧いているらしく、その廃湯で水濠を構築していた。あれなら簡単には抜けない。特にマウントゴブリンならね。
さて、どう攻略したものか。ワルカリアの拠点を粉砕したアレは戦闘面での魔力効率があまりにも悪すぎる為、あの群を蹴散らすには使えない。威力で見ると効率は良いんだけどね。
「ワルカリアの拠点を潰した嬢ちゃんの魔法で蹴散らせないのか?」
グラットさんの質問は尤もなんだけど、今回のように持久戦を覚悟しなきゃいけない場合は悪手なのよね。
「アレは威力はあるけど無駄に規模がデカくて戦闘面での魔力効率が悲惨なのよ。少なくともそれなりの長期戦を覚悟しなければならない今は使って良い魔法じゃないわ」
「それは残念だな」
この感じ、グランリアで戦死したあの時を思い出す。いや、あの時よりはマシね。上級種だらけで、さらにドラゴンが混ざってたりなんてことはないからね。数ではあの時よりもヤバいけど、敵の質が低い分だけマシだわ。
「あのワルカリアの拠点を粉砕したアレができるのだから威力落として効率的に潰して回れるくらいの魔法は使えるだろ?」
他の冒険者からその様な指摘があった。私に頼る気満々なのが腹が立つけどね。
でも一考の余地はある。
威力の高い魔法を使えば…そうか!
「そうだ!あの手があったわ!」
皆から不思議そうな顔を返された。まぁ何を考えてるのか分からないものね。
「策を思いついたわ」
「な、なんだぁ?」
「何を思いついたの?」
「アレをどうにかできるのかしら?」
期待と不安が渦巻いてるわね。それは想定の範疇、この手の説明は得意なのよ。何しろ王太子代理で色々やらされたからね。
「まず私が一発だけ魔法を打ち込んで一角を焼き払います。多分派手な魔法を打ち込んだ私に向かって連中がやってくると思いますので、そこを急襲します。数百とかに達する比較的大規模な部隊の場合は私が魔法で蹴散らします。ある程度減れば退却していくと思います」
私の作戦を皆が真剣に検討しだした。
効率面ではこれが一番良い、だけどこの作戦には1つ問題がある。
「この規模の軍勢を興した親玉は放置して良いの?」
「特定の方向に逃げるのなら私が追跡しようかなと思っています。ちょっと帰りは遅くなると思いますが、敵の拠点を探るつもりです。かなり大きなゴブリンコロニーが形成されていると思いますので…」
コレを只々見過ごして置くわけにはいかない。少しでも減らしておく必要がある。
「多方面に逃げた場合は潰せるだけ大きな部隊を潰しつつ、追える部隊は追うつもりです」
さて、これで反応は如何かな?
「貴女に任せっきりなのは心苦しい限りだがこれが一番効率が良いか…」
「向かって来る敵部隊の殲滅は任せな!こんな幼い女の子が体張ってんだ、ここで逃げるなら男が廃る!」
ほぼ賛成してくれてるわね。じゃあ作戦を始めよう!と、その前に…
「商会員の皆さんは馬車を守ってください。前線を担うのは冒険者の仕事ですから」
「分かった、私たちは戦いのプロではない。大人しく後方を守ろう」
ローインも認めたわね。これでようやく始められるわね。
最初に攻撃する場所はやはりある程度集まっているところじゃないとね。それとその後の迎撃がしやすそうな場所だと最高ね。
軽く見た感じ一番の狙い目は…門の近くのあの広場かな。密集してるし、近くに隠れるのに十分な密度と高さのある草むらもある。奇襲もしやすそうね。
そこまでの道筋にも幾つか部隊がいるけど蹴散らして進めば問題ないわね。無論道中の敵は一匹残らず狩るつもりだ。残った個体によって予定が狂ったら困るからね。
「皆、あの地点を狙うわ。道中の敵は蹴散らすわよ」
皆無言で頷いた。因みにここは高台になっているので敵の布陣が分かり易い。
皆が目標地点を理解したことで進軍開始だ。まずは高台を降りた先に布陣する20体程の小部隊を蹴散らした。数は少しだけ少なくとも質が違いすぎたのだ。私たちはこの部隊を瞬殺した。当然のように一匹たりとも逃しはしない。
そんな感じで進軍し4個部隊撃破したところで目標地点に辿り着いた。
ここからが正念場ね。
いつも理を越える剣姫をお読みいただき誠にありがとうございます。これからも宜しくお願いします。
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