20話 王都の混乱
【お知らせ】
当話を以て休載します。
詳しくはX(旧twitter)もしくは活動報告をご覧ください。
「陛下!緊急事態です!」
余はグレイシア王国国王ガイストである。この日、余は夜も明けぬうちに近衛騎士に叩き起こされた。
「余を起こすとは何事だ?」
「アリシア殿下の姿がありませぬ!今行方を追っておりますが、どこに居られるのか分かっておりません!」
「何!?夜中にこの王宮から姿を消しただと!?直ちに探しだせ!」
まさかこんな形でアリシアが居なくなるなんて思いもしなかった。一体に何がどうなってるのだ?
「近衛騎士団長を呼べ!現段階における状況を報告させよ!」
まずは状況を確認する必要がある。手の空いてる者にはアリシアの部屋を探らせた。
慌てて寝間着から着替えて執務室に向かうと既に近衛騎士団長が真っ青になって控えていた。人払いもされている。
「報告せよ」
「殿下の部屋の窓が開いておりました。王宮からの脱走ルートはあの緊急脱出通路と考えられます」
まさかあの地下通路を利用したのか、しかしあそこには手練れに守らせていたはずなのだが…何故あの通路を使えたのか、最悪の想定を考えながら近衛騎士団長に質問を突きつけた。
「まさかとは思うが失踪の幇助をした愚か者がいたと言うのか」
「いえ、残念ながら本人たちは魔法で眠らされておりました。取り調べをしたところ正面から一人の子供が現れ太刀打できずに敗北し眠らされたとのことです」
逃げ出したのか?状況的にその子供はアリシアで間違いないだろう。それにしても脱走の手際が良過ぎる。残歴転生の使命の為とは言え、こうも強硬手段に出てくるとは…。
「はぁ…ひとまず宰相を直ちに呼び出せ…今後のことを考える必要がある」
「はっ!失礼します」
「待て、今日の朝から緊急の国務卿会合を行う。王都にいる国務卿全員に通知せよ」
「はっ!そちらも連絡いたします」
近衛騎士団長はすぐに動き出した。
すぐにでも準備が整うだろう。
近衛騎士団長が退出してすぐにアリシアの部屋を確認しに行かせた使用人が戻ってきた。
「部屋中を探した結果、3通の手紙が見つかりました。宛先こそ書いてありますが紋章がありません。宛先は陛下とローラン殿下、フラジミア公爵家のマリア嬢です。状況的に姫様が書かれた手紙かと思われます」
まさか、本当に家出してしまったのか…。相も変わらずとんでもない行動力としか思えなかった。
手紙があるなら届ける他あるまい、兎も角まずは情報を集める必要がある。読むか…。
書いてあったことは…ローランを王太子にして欲しいとのこと、探す必要は無いと主張していること、これまで育ててくれたことへの感謝だけで終わっていた。
これ、完全にアリシア一人に周りが一方的に振り回されてるようだ…。これはどうすれば良いのだ…。
暫く考え夜が更けてきた頃、宰相が駆けつけてきた。
「アリシア殿下が出奔したと伺っております。一体何が…」
「余に宛てられた手紙だ。読んでみよ」
宰相は余から手紙を受け取るとすぐに目を通し溜息をついた。
「これは…全て既定路線だったと言うことか…」
「何?」
「全てアリシア殿下の計画のうちだったという訳です。我々はまんまと踊らされました。すぐにでも冒険者ギルドを通じて探すべきかと思います。殿下はこの時を狙っていた。10歳になり、万全の準備を整えて出奔した。使命を果たすまでの食い扶持として冒険者の道に進むつもりでいらっしゃったわけです」
「なるほど、冒険者の登録は10歳から、それを待っていたというわけか」
「間違いないかと」
してやられた。ここのところ旅の道具と思わしき物品の購入等で活発に動いていると報告されていたがまさかこの為だったとは…。
しかしここまで計画してたとなると名前も変えてる公算が高い。
実のところ、彼女の活動は王宮を中心にしたものと想定していた。突発的な家出をするなど誤算も良いところだった。
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フラジミア公爵家王都邸宅にて(sideユーグ・フォン・フラジミア)
「王宮より一通の手紙が届いております。宛先はマリア嬢です」
「マリア宛か…しかし紋章が無い手紙だと?」
「詳しくは存じ上げておりません。侯爵家にこの手紙を届けるよう陛下より命を下されただけであり、その内容については全く解っておりません」
「分かった、ご苦労だった」
一体何があったのだ…?夜が明ける直前に…。
「マリアを呼び出せ、至急手紙の中身を確認してもらわねばならん」
「はっ、ではお嬢様を起こしてきます」
家宰に娘を起こしにいかせ、別の使用人に2人分の軽食の準備をさせた。場合によってはすぐに王宮に向かう必要がある。
少しして
コンコンコン ガチャッ
「お父様、こんな時間にお呼びでしょうか?」
寝間着姿の娘が執務室に入ってきた。
「マリア、お前宛の手紙だ、すぐに読め」
「手紙?」
娘は不思議そうにしながら手紙を受け取ると開封し読み始めた。
「本当に…出ていかれてしまわれたのですね…」
「何?」
「お父様、手紙の差出人はアリシア殿下でした。自分自身のやるべきことの為に王族を身分を捨てて身を隠すそうです。アリシア殿下はローラン殿下を王太子に推す意向で私に補佐をお願いしたいとのことでした」
「意味が判らん、何故そのようなことをするのか糸口すら掴めん。他に何かあるか?」
「いえ、大雑把に言えばこれだけです。内容が内容ですのでお父様も一度目を通していただけますか?」
我が娘、マリアがそこまで言うのような手紙、一体何が書かれているというのだ?
内容を読んで溜息をついた。アリシア殿下が何を考えているの全く解らない。これは直ちに陛下に報告すべきと判断した。
「マリア、すぐに支度をせよ!支度が終わり次第すぐに王宮に向かう」
「分かりました」
この手紙の内容は不味い、娘が王宮に向かう支度のために部屋を退出したのを見ながら私は陛下に如何に説明するか考えていた。