15話 名が売れた代償
翌日、予想外の人物が私のところに訪れてきた。
「領都で暴れるワルカリアの討伐に手を貸してほしい」
クリエルマ伯爵家の代官長が直接私に指名依頼の受注要請をしに来た。
ギルドに申請を出した上での指名依頼の依頼人による受注要請だった。
Cランク以下の冒険者への指名依頼は拘束力が弱く断られるケースが極めて多い。Bランク以上に上がると途端に断るのが難しくなる。Bランク以上は冒険者として責任を負う立場になる為、広報活動や諸々の意味で指名依頼を受けることが求められるからだ。
因みに指名依頼を理由に通常依頼をキャンセルしても罰則は無い。今回はそれの要請だった。
「断ります」
「な、何故…」
「そもそも選択権はこちらにあります。通常依頼のキャンセルを強要してまで指名依頼をさせる行為そのものが嫌いです。それに貴族社会とは距離を置いておきたいのですよ」
彼等は意図的にダブらせている。こっちを舐めてるのだ。そんなもの許すわけにはいかない。安請合いほど愚かな真似は無い。特に今の私の場合は指名依頼のせいで使命を果たす為の活動に支障をきたす訳にはいかない。
因みにワルカリアをしばくという意味では元の依頼をこなした方が効率的だ。戦略資源の損失を減らすことができれば今後の被害を軽減できる。まぁ目先のことしか考えられない奴に理解はできないだろうから説明はしないけど。
「しかし貴族からの指名依頼は名誉ですぞ」
「名誉等に囚われて大切なモノを失うような愚物でありますはありませんのでね。お引き取りください」
「普通は名誉を…」
「いい加減にしろ」
流石に頭にきた。
冒険者の一番のメリットは『自由』と言うことをコイツは忘れてる。やりたいことをやる為に冒険者を目指す者も多い。
「お前は冒険者を侮辱している。冒険者は自由に活動し依頼を受ける存在だ。無理に縛り付ける行為は最も冒険者を馬鹿にした行為だ。私が冒険者になったのは売名でも名誉のためでもない、あくまでもやるべきことを成す為の選択肢として選んだに過ぎない。去れ」
ここまで言われてもまだ抵抗するつもりらしい。
私は躊躇うことなく部屋から摘み出しフロントに連れて行き身柄を預かってもらった。多分他の強面の冒険者たちから制裁を受けることになる可能性が高い、でも自業自得だ。宿からも伯爵家に抗議が入るし、治安維持のできてない伯爵家は無視することができない。なので仕官先にも思いっきり迷惑が掛かるし解雇される可能性も十分にある。冒険者たちの口コミは絶大な影響を誇るのをクリエルマ伯爵は知っている。多分彼はギルドに謝罪しに行くことになると思う。
それでもアイツの手先の手によってギルドにアレコレされては面倒なので直様ギルドを訪問した。
「クリエルマ伯爵家の指名依頼は断ります」
「分かりました。本人不在でしたので依頼変更手続きが停止しておりましたが、本人意思を確認しましたので手続き破棄とします」
本人確認のところで留まってて良かった。
今回の原因は名前が売れすぎた影響以外に考えられない。正直、報道の面倒さを思い知ったわ。
今回の話は依頼主にもしておくべきだろうと判断した私はギルドを出るとバズテル商会に足を運んだ。
「あぁ、ジャンヌさん、依頼はキャンセルと…」
「クリエルマ伯爵家からの指名依頼をキャンセルしたわ」
「そうだったんですね。先程クリエルマ家の代官が来ました…」
商会長からは予想通りのシナリオを聞くことができた。やっぱり代官がここにも来て諦めさせようとしていたらしい。
「これはクリエルマ伯爵家の悪評をばら撒くべきですね。ここまでされて放置はできません。民の平穏な為にも悪行を行う貴族家を放置してはいけません」
恐らく派手に抗議活動や悪評バラ撒きが行われたらクリエルマ伯爵は徹底的に調査を行う。伯爵領全体で領地経営の健全化が図れるはずだ。
「しかしそれでは領主側からの罰則が否定できません」
「罰則されても事実を知れば補填してくれるはずよ。あの伯爵はそこは信用できるわ」
「わ、分かりました。やれる限り他の商人たちに今回の話を広げます」
よし、これで強い味方を得ることができた。少々困惑気味だけど…。
冒険者には私が広めよう。今日は宿の近くの歓楽街で遊びつつ噂を広めよう。それが多分冒険者に広めるには最適解になるわね。
そして私は歓楽街に遊びに行き、徹底的に噂を広めた。英雄として名を馳せた私の名前の威力は絶大だった。噂は異常なスピードで拡散し、近隣にまで広がった。
当然冒険者は地域を越えて移動するので王国中の冒険者に広まるのも時間の問題だろう。
そう遠くないうちにクリエルマ伯爵は動くはず、それで健全な領地になってくれることを願おう。
いつも理を越える剣姫をお読みいただき誠にありがとうございます。これからも宜しくお願いします。
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