14話 束の間の凪の日(下)
「しかし気になったのだけど、どうして私に気づけたの?目立たないように席取りしてたつもりなんだけど」
「同じ理由で席を選んでおりまして、なのですぐに気が付きましたわよ。それよりも、貴女も貴族の出ですわね?」
やっぱり見抜かれていたらしい。サラ・フォン・ヘルヴィルム、見る目は馬鹿にできないわね。確かに貴族というか王族の出ではあるのだけど。
ここで下手な回答をすればトコトン問い詰められて王女であることが露見する。どうしたものか。
まぁ冒険者の論理を用いるのが一番楽だけど…。
「沈黙と言うことは事実なのですわね。お姉さんには通じませんよ」
この令嬢、冒険者の論理ではなく貴族の論理で動いてるわね。うわー…めんどくせー…。これだから貴族社会は嫌なのよ…。
貴族の論理で動いてる以上、交友関係を持ちたいのは分かるけどね。人脈は大切である。
「冒険者の秘密を探るのは御法度であることはご存じないのですか?」
「あらあら、そんなことは言わないの。貴族同士なんだし良いでしょ?」
やけに強引ね。一応冒険者の論理は理解してるらしい。ならば何か目的があるはず…。
「冒険者の論理を理解はしているのね、なら何のこと強引に迫る理由、何かしら?」
「パール・フォン・ネリマン夫人からの依頼なのよ。幼子が危険な方角に歩いていくのを見ていられないと言われてましてね。一応、気になる話だったから特徴だけ聞いて少し探して見ることにしたのよ。まさか街で大暴れしてるなんて思わなかったけど」
あのオバハン…何話してくれてんのよ…。
「パール夫人か…。確かにこの街に来る途中で遭遇したわ。本当に社会を理解できない悪い意味で典型的な貴族だったわね…」
「貴女も酷いことを言うわね…。つまり伯爵家以上の出なのね」
「答えないわ。でも事実でしょ?平民が何たるかすら知らないのだから」
彼女の瞳が鋭くなる。
「そう、平民に偽装してるつもりだったのかしら?でも見る人が見れば分かるわよ」
まぁバレかけたことはあるから否定はできない。
彼女は続けた。
「それに貴女の態度を見る限り実家から飛び出した家出娘じゃないかしら?私のように傷付きで親を説得できたのならまだしも、そんな歳で家出なんて家門そのものに影響が出るわよ」
うん、家門どころか国レベルで影響出るわね。何しろ王太子候補筆頭で実権握ってた王族が出奔してるのだから政治的にも被害がある。当然王家の醜聞そのものと言って良い。自覚はある。
今頃王宮は大混乱に陥ってるだろう。
でも残歴転生の使命の方が重要、だから私は覚悟を決めた。その覚悟に後悔はない。
「私は実家に戻らない覚悟を決めてます。貴族社会での生活も正直好きじゃないの」
「あらあら、これはもうお手上げね。ここまで露骨に個人主義に走って実家を気にしないと言うのはある意味冒険者らしいわ。貴族社会が嫌いと言うのも本音ですわね」
ようやく諦めてくれたみたいね。とっとと去ってほしい。
「分かったなら下がったらどうかしら?しつこい女は嫌われるよ」
「ぐっ…」
この反応、どうやら図星のようで元の婚約者とは反りが合わなかったようね…。性格的にグイグイ攻めていく姿勢がドン引きされて嫌われてしまったのかな?
親同士の仲が悪く、子供達も性格的に反りが合わない。確かに婚約破棄に繋がりやすい条件が綺麗に揃ってる。これは納得だわ。
会話しつつも食べ続けてたので完食できた。こうなれば向こうにどっか行ってもらうよりこっちから離れた方が良い。流石に面倒だわ。
「食べ終わったのでお先に失礼します」
「あ!逃げられた!」
逃げられた、じゃねぇよ!そんなんだから婚約者から嫌われたんだろうが…ハァ…
言ってても仕方ないけど…
やることは沢山ある。教会にも足を運ばなくては行けない。あんなのと関わってる暇は無いわね、うん。
ーーーーーーーーーー
まずは予定通りに教会を訪問した。
目的は神々に祈るわけではない。一応来たからには神々に祈りを捧げるつもりだけど、本当の目的は手紙を託すことだった。
「はーい、礼拝されに来た方ですかー?」
「はい、そうです」
「ではこちらにどうぞ〜」
受付の神官は手慣れた感じで私を礼拝堂にエスコートしてくれた。
ん?エスコート?普通は案内だけだよね?ちょっと尋ねてみた。
「エスコートしてるのも邪悪な存在たるワルカリアをこの街から排除してくれた貴女への感謝の印です。貴女はこの街の救世主であり、聖戦士にも等しい存在だからです」
「聖戦士?」
「えぇ、神官の中には稀に信仰を深める中で凄まじい魔力と超人的な体質を得る者がいます。そうした神官たちは戦士として教会の指示に基づき戦う聖戦士となります」
「へぇ…」
普通に知らなかった。まぁこれは教会内部の話なので私が知らないのはおかしい話では無いのだけどね。
もしかしたらこの使命の旅の中で聖戦士に会う機会があるかもしれない。私は神々より使命を授かり戦いを続けている。彼らも神々を崇めその信仰心より力を受け戦う。上に立つ存在は同じである以上、何処かで相見える可能性は十分に考えられる。そもそもこの時代に聖戦士がいるのかは知らないけどね。
エスコートされた先で私は感謝と祈りを捧げた。
私に力を授けてくださったこと、前世で最期を共にした仲間たちの仇をとる機会を与えてくださったことに感謝し祈りを捧げた。
「これにて礼拝は終わりとなります。玄関までお送りします」
「その前にこの教会の神官長にお会いしたいのですけども大丈夫ですか?」
「分かりました。そちらに向かいましょう」
神官長の部屋は基本は清貧であるものの、凝った造りの部屋だった。
「まずはこの街を邪悪な存在から救ってくれたことを感謝する」
開口一番、神官長は私に感謝を述べた。
「して、英雄殿は私に用件があると伺った。単刀直入にその用件を伺いたい」
「この手紙を王都の大聖堂にいらっしゃる大神官ミハイル様に送っていただきたい」
「内容はワルカリアの件だな?」
「えぇ」
「我々のところにも連中は押し寄せていた。だが何故か教会の周辺では奴等は弱体化し、聖騎士の手で軽く捻り潰されていた。故にここは監視され状況を伝えることができなんだ。その手紙は早急に届けよう」
「助かります」
この後は神官長と少し雑談を交わし、帰路についた。
昨日のこともある、しっかり体を休めよう。うん。
いつも理を越える剣姫をお読みいただき誠にありがとうございます。これからも宜しくお願いします。
次回は7月8日(月)となります。
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