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8話 抗争の街

 私は受けた依頼の集合場所である依頼主のバズテル商会に来た。


「すみません!依頼で来ました!担当の者はいますか?」

「はいはい、こっちに来てね」


 店前で掃除していた老婆によって店の奥の応接室に案内された。


「ちょっと待ってね。息子を呼んでくるからね」


 そう言って老婆は店のさらに奥に入っていった。


 少しして彼女は中年の男性を連れて戻ってきた。


「君が依頼を受けてきてくれたかな。私が商会長のローインだ。有難いは有難いのだけど…大丈夫?依頼主である私が言うのもあれだが、この依頼は非常に危険が多い。相手はマフィアなだけあって子供は特に狙われやすいんだけど本当に良いのかな?」

「例のマフィアなら怖くないよ。連中、この依頼を受けただけでなんと3人がかりで襲いかかってきてね。如何にも口先だけの連中にしか見えなかったから3人とも斬り伏せてやったわよ。他の冒険者曰くギルドの見張りは手練れらしいけどそんなに梃子摺ることは無かったわ。腕には自身があるの」

「うちの娘と同じくらいの少女にしか見えないんだけど…」

「ここで嘘を付く意味は無いわ。斬り捨ててやったのは本当よ」


 完全に驚愕してるわね。子供を殺そうとしたことに驚いてるのか、私がワルカリアをしばいたことに驚いてるのかは分からないけどね…。


「わかった、信じよう。でも怖くなったら逃げても良い、君はまだ子供だから」


 ひとまず飲み込んでくれたみたいだね。話を進めよう。


「本題に入りましょうか、集合日時を教えて欲しいんだけど」

「明後日の昼だ。私と共に商会保有のソーディニウム鉱山に向かい、向こうで1~2泊してここパステルまで輸送する計画だ。ソーディニウムは刃物を作る合金の材料として極めて優れた特性を持っている」

「だから戦力拡大を図るワルカリアが横取りしようとしてるわけね」

「そう言うことだ。集合してからの宿代やら食費やらと言った旅費は全て商会持ちだ。娯楽費は出さないがな」

「助かるわ」


 その後もローインと雑談をしていった。

 ワルカリアの襲撃はクリエルマ伯爵家の対ワルカリア作戦以後増え始め、王都落ちして爆発的に増えたらしい。たぶん、これは武力クーデターを目的とする大規模な反乱を狙ってるわね。水を差してやらないと気が済まないわ。

 でもこうした情報は重要、特にこうした確かな立場の人から得られる確かな情報はデマが少なく非常に重宝する。


 途中からは来客に気づいたローインの娘のレンも入ってきた。


「パパ?可愛い女の子が入ってきたのを見たけど…」

「レン!今は来客の対応中だ。後にしろ」

「構いませんよ。特に重要な話は終わりましたし雑談に入れるくらいなら問題はありません」

「すまない、ジャンヌ殿。娘のレンだ。もう少し落ち着いて欲しいものだが…」


 うん、私があれこれ言えるわけが無いわね。まぁ普通の子供はわんぱくなもんだし。


「わぁ!可愛い!」


 うーん、子供、年相応ね…。羨ましいと言えば羨ましい。確かに顔は可愛いけどね。


「えーと、格好からして冒険者?可愛いんだから店とかで働けば儲かると思うんだけどなぁ…」

「確かにそういう生き方もあるわね。選択できない事情があるけどね。と言うかそれを選択するくらいならもっと良い生き方を選択できたし」

「?」

「気にすることはないよ。それにしてもローインさん、レンちゃんは正直者なのですね」

「不躾な娘で申し訳ない…」


 純粋で正直なのは良いんだけど、もう少し空気を読んで欲しい。父親もそう思ってるみたいだった。だけど普通に商会の娘らしくお金や商売のことについてよく学んでいるようだった。

 性格をどうにか出来れば商人として成功しそうではある。


 少し長く話し過ぎたようだった。そろそろ良いだろう。


「だいぶ時間が経ってしまったようですね。実はまだ宿すらとっていなくて…何処かオススメの宿とかありますか?」

「この辺りの宿はワルカリアの連中が見張ってるところが多い、だが『迷宮の拠所』だけは連中は来ないみたいだ。有力な冒険者が何人も利用してる。連中とて実力者に襲われては堪らんだろうしな。それを逆手にとって有力冒険者に対する値引きサービスも実施してたくらいだ。ワルカリアを撃退すればさらなる割引もあるそうだ」

「素晴らしいわね。情報ありがとう。そこに泊まるとするよ」

「だが…一般客に対しては値上げだそうだ。まぁ一般客も安全を買えるから今のこの街では十分に元は採れるんだろうな」


 なるほど、商魂逞しい。治安悪化を逆手に取った上手な商売だと思う。

 まずは訪れてみよう。楽しそうだし。


「今日はどうもありがとうございました!明後日宜しくお願いします」

「では明後日、待っているぞ」


 そうしてバズテル商会から出た。


ーーーーーーーーーー


 街の北に位置するバズテル商会から薦められた宿屋『迷宮の拠所』の近くにやってきた。周辺が厳戒態勢なのがよく分かる。そこら中に風俗店や賭場、飲食店など、娯楽施設等が建ち並ぶ区画で一見楽しそうに見えた。

 でもよく観察してみると様子がおかしいことが分かる。住民も利用客もずば抜けて警戒心が強い。まるで何者かと抗争中を疑う程に…。


 なるほど、宿屋だけじゃなくて地域全体で冒険者の囲い込みをやってるらしい。ここで下手な真似をすれば直ぐ様、付近で遊んでる有力冒険者が飛んでくるはずだ。冒険者たちは迷宮で荒稼ぎして、ここで楽しく散財しつつ治安維持に協力して過ごしてるみたいだった。

 よく出来た社会だと思った。

 その時だった。


「オラァ!死ねぇい!」


 とんでもない声が聞こえてきた。

 そちらを見てみると何者かがリンチを受けていた。男5人組が周囲からワラワラ湧いた男たちから集団暴行を受けている。

 集団暴行してるのは服装からして多分冒険者たちね。リンチを受けてる5人は…胸にワルカリアのバッチが付いてるじゃない!


 どうやらこの区画では冒険者たちによるワルカリア狩りが行われていた。法律的に問題ないから質が悪い。『普通の子供』には見せられない光景ね…。冒険者ギルドでこの区画の情報が貰えなかったのも納得出来てしまった。


 さてこの喧嘩はすぐ終わるでしょうからさっさと宿屋に行こう。



 街ですらとんでもない厳戒態勢だったけど宿屋はその中心だけあって恐ろしいレベルだった。

 エントランスホールで普通に武器手元に酒を飲み交わしてたりともう完全になんかあったらすぐ殺人事件が起きそうな状態だった。いや、これがこの地区の抑止力の極みなのかもしれない。


「すみません、部屋空いてますか?」

「まずは身分を提示してください」


 いきなり身分提示を求められた。まぁこの環境では仕方無い。

 ライセンスカードと敢えて依頼受注書を提出した。


「この依頼は…なるほど、これを受ける冒険者ならボディチェックや持ち物チェックは不要です」


 ボディチェックまであるのか!


「料金は前払いでお願いします。一人当たり800ムルとなっていますが大丈夫ですか?」

「はい!」(即金)

「はい、これで手続きは完了です。連泊の際はまた先払いでお願いします」


 そうして私は部屋の鍵を受領して宿泊棟に向かった。



 部屋はめちゃくちゃ良かった。金払って有力冒険者が泊まるだけはある。うん、本当に良いビジネスセンスしてるわね。

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