4話 神々の座‐祝福‐
「ここは?」
「ここは神界…神々が集い、世界を見届け、世界を導く場である。よくぞいらしたアリシア・フォン・グレイシア…いや…アンよ…」
驚いた…。まさかアンと呼ばれるとは思ってなかったわね。
私の目の前には一柱の神がいる。神界というのも頷ける。
「あなたは?」
「我は輪廻神、輪廻転生を司り魂を導き生物界に返す者」
「貴殿が私を流歴せず残歴転生させた神であるわけですね」
「是である、ここに導きしは加護を与え使命を授ける為である。知識があるようで何よりだ、手間が省ける」
私は畏れを抱いていた、圧倒されていた。輪廻神の高圧的な態度、圧倒的存在感、その美しくも恐ろしい雰囲気に、そして普通では考えられない神秘を体験したことは理解の範疇を越えた。
彼の背後の空間が歪む、歪んだ位置から他の4人が現れた。この4人、いや、この4柱も神々であることは確実ね。この絶対的な気配は神々しいとしか表現できない。
「吾輩は戦武神、戦を、戦技を、体力を司る者也」
「妾は魔導法神、魔法魔術を司る者じゃ。お主の来訪を待っていたぞ」
「我は技匠神、匠の技を司り人々に技術を与える者也」
「世は創造神、世界を創造し世界を支える神々を創造しこの世界に君臨せし者。我々はそなたに加護を与えに来た」
力が漲るのを感じていた、それは加護を与えられた証左なのだろう。しかし同時に恐怖を覚えた、力の大きさ、そして事の次第の大きさに。
そんな中、創造神が言葉を発した。
「光あらば闇生まれり、世界に混沌が迫っている。邪なる者が今再び現れるだろう。
邪なる者の起源は古代生物界まで遡る。世が世界を創造しその中でも生物界は生物の手によって繁栄した。その一方で弱肉強食による混乱をも齎した。その怨嗟より産まれし悪意の塊と化した存在…魔族、してその中でも一際恐るべき力と悪意を持つ存在、それこそが邪なる者である。
邪なる者は世の中の怨嗟が溜まれば貯まるほど強くなる、故に一定以上溜まると覚醒する。覚醒した邪なる者は討滅しその力を封印してきた。しかしその封印は解けつつある」
邪なる者、人々からは魔族の王と呼ばれ本来の住処である穢世より現れ世界を混沌へと導き破滅を誘う存在、神話に登場する悪意の塊である。魔物はその眷属であり、その子孫でもある。それが再び生きる者達の世界たる生物界に現れようとしていた。
「何故、私なのですか?」
「地獄の中、身を世界に捧げたそなたこそ、邪なる者を滅するに能う器である」
「創造神の神意は示された。お主を護られる立場に産まれさせたのはこの神意を成すためである。我が残歴転生させた者よ、使命を果たすが良い」
「はい…」
創造神の神意、輪廻神の宣告に私は頷くことしかできなかった。残歴転生の使命の拒否の先には死しか無い。
王族の産まれなら確かに思わぬ事故で死ぬのを防ぐのは容易だ。最初から全て仕込まれていたことを理解するしかなかった。
戦武神が問を投げかけた。
「一応お主に問おう、何か疑義はあるか?」
「はい…私は王都の大聖堂の聖域にいました。この後はどこに往くのでしょうか?」
「お主は魂のみここに連れてきておる。魂は肉体へと戻されるのみ。少なくともあの場には危険はない故、気にしなくとも良い」
「奴等の気が強くなれば魔物もまた勢いを増す、人々がスタンピートと呼ぶあれは奴等の気に反応したものでもあるのじゃ。そして奴等はまた潜む者でもあるのじゃ、気配にも気をつけなされよ」
魔導神は助言を与えた。その助言でアリシアはここ数十年で解けてきたことを理解した、そして戦慄した。
アンが死んだあのスタンピードも邪なる者が現れた予兆であり、その当時から魔物の出現数は増えていた。つまり今後更に魔物の被害が増えスタンピードも増加が予想される。
緊急事態だけにのんびりしてる余裕は無い。
「ということはそんなに時間は残されてないじゃない!直ぐにでも戻らないと…」
「後10年は少なくとも保つだろう、それ以上は保証できん。お前に生物界の未来を託す、それでは戻るが良い」
私は光に包まれ神界から戻された。直ちに何か動かねばならぬ訳では無いと言う安心と、対策を行う時間という猶予と共に。
第一章については今後はAM5:00の定期更新とさせていただきます。
第二章以降についてはまた追って案内を出します。
また何かありましたら活動報告で案内を出します。