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1話 冒険者登録(上)

 私はハルタルの町に入った。

 町に着いたらやらなければならないことが幾つかあった。

 まずは守衛所に向かった。


「すみません、ちょっと良いですか?」

「おや?見慣れない子供だね?何処から来たのかな?もしかして両親とはぐれちゃったのかな?」


 全然違う、はぐれたどころか王宮を出奔してきた王族だよ。

 というツッコミは置いといて、まずは凍らせた山賊の亡骸を引き渡した。


「あの森に山賊が出たのか?これは早急に掃討を実施せねばなりませんな。それで親御さんの下に行かなくても大丈夫かな?」

「そこは問題ないわ。冒険者になるつもりだから」

「そうか、頑張れよ嬢ちゃん!」

「うん、ありがとう!」


 私は手を振って対応してくれた衛兵と別れた。

 1つ目の仕事が終わった。これでアイツの仲間たちは森の中で蹴散らされるだろう。王宮の緊急脱出路の近くに山賊がいるとなれば一大事だ。徹底的に叩き潰されるわね。


 さて、冒険者ギルドに向かいますか。

 身分無しで動き回るのは不都合が多過ぎる。冒険者の立場があれば少なくとも旅はしやすくなるはず…。


 王都のものと比べると町の冒険者ギルドは小さかった。まぁでも機能はしっかりしてるわね。

 朝早すぎることもあって流石に空いてるわね。これがもう少し後だと急激に混み出すのがギルド会館の特徴だった。これは今も昔も変わらないのね。

 この時間を狙った理由は人が少なければ不届き者と出会す可能性を減らせるからに他ならない。王女の立場でフリードとギルド入ったときは絡まれた事をいいことにチャラ男どもをぶっ飛ばしちゃったしね。初日から正当防衛以外で暴れるのは流石にアウト、やってはいけない。


 受付まで行くと受付嬢から声をかけられた。


「あら?見慣れない子ですね。もしかして新規登録かな?危険だけど大丈夫?」

「元から逃げるつもりなんてサラサラ無いわね。昨晩この町に来るまでに山賊やら魔物やらを斬り捨ててきたところよ。ほら、素材あるでしょ?」


 そう言って私はテーブルに羽が生える少し前くらいのエンジェルビーストの子供の死体を見せてやった。川を渡ったところにちょうど一匹でいたのでサクッと狩ってた。エンジェルビーストの肉は本当に美味しいのよね。まぁ解体は面倒だけどね。


「え?それエンジェルビーストですよね?しかも山賊を?その歳で?え?え?」

「私、こう見えても強いんですよ。あ、山賊の死体は衛兵に引き渡してます」

「そうだったのですね。ではこちらの書類に名前と年齢を記載してください」


 懐かしい新規冒険者の登録申請書が出てきた。様式は今でも変わってないのね。

 年齢は10歳、名前はアリシアと書くわけには行かない、多分早い段階でバレて連れ戻される。なのでジャンヌと名乗った。因みにこの名前は協力者であるミハイルとフリード、グレンは知っている。

 しかし私の字を見た受付嬢は首を傾げた。


「あれ?この字体は…レリエント体?もしかして貴族の方ですか?」


 しまった!

 王族としての教養を出してしまった。と言うかあのレリエント体で書くことが多くてレリエント体に慣れてしまった自分を曝け出した格好になった。まぁ火消は可能かな。


「故あって実家と縁が切れまして…その辺は探らないでくれると助かります」

「分かりました。ジャンヌさんですね。これで登録受付は完了です。ライセンスカードを発行しますので待合で少しお待ち下さい」


 冒険者の秘密を探るのは野暮と言う風潮を利用してやればこれくらいは余裕で火消しできる。


 待合で待ってたら3人の少年少女のパーティーがやってきた。

 服装が似ている、同郷の村落出身の仲間たちで組んだってところね。それぞれ魔道士、弓士、剣士かぁ…。戦力的には確かに辛そうね。

 魔道士と言っても別に金持ちだけがなれるわけでもない、多分村で運良く入手できて保管されてた共有資産の魔導書を読んで習得したタイプね。この手の魔道士は独学で学ぶ為、習熟度が地頭の良さや適性などに左右されやすくオールラウンダーとまではいかない事が多いし、もしかしたら治癒魔法が使えなかったのかもしれない。現に唯一の前衛である剣士の男の子は左腕に包帯を巻いている。まぁでも応急処置は出来てるし利き手は生きてるから軽い任務ならこなせそうね。

 なんて考えてたら弓士の男の子が声をかけていた。


「あのー、もしかして一人ですか?うちのパーティー入りませんか?」


 やっぱり勧誘だった。前衛1人を解消したのはモロバレね。


「断るわ。今はライセンスカード発行待ちをしているの。それに、私は強いからソロでも十分な実力があるから心配しなくても大丈夫よ」

「ほ、本当にソロで大丈夫なの?私たちなんてゴブリン20体の群れを相手に怪我してるのに…」

「あらら…まぁでも私たちの年齢ならそれが普通よ。尤も私は実力者だからブラックホークやウィズダムデビルボア、エンジェルビーストとかを倒してるけど」

「え!?本当!?すごい!」


 経験不足が過ぎるわね。仕方無い、少しだけ介入してあげよう。このまま放置していてもこの子達は形はどうあれ冒険者として失敗する可能性が高い。それを自業自得と言うのは簡単だけど若手にホイホイ死なれても社会に負担がかかる、仕方無い、少しだけお節介焼きますか…。見た目は10歳だけど中身はベテランだからね。


「パーティーと言うのは一番下に合わせるのが鉄則よ。私とあなた達では格に差がありすぎて釣り合わないわ。それと魔道士の貴女、治癒魔法は使えるかしら?」

「え?使えないけど…」

「やっぱりね。良いわ、治癒魔法だけは指導してあげるわ。あなた達のパーティーは前衛1人、治癒魔法があれば壊滅せずに済む可能性を上げられるわ。剣士の君の負担は大きいことには変わりないけどね」

「え?良いの?と言うか剣士じゃないの?」

「戦闘スタイルのメインは剣士よ。魔法が使えないとは一言も言ってないわ」


 驚いてるわね。私が普通じゃないのは事実だし。


「さて、言うより見せた方が良いわね。ほら!」


 そうして治癒魔法を使い剣士の男の子の怪我を治してあげた。


「な、治ってる!?ありがとうございます!まさか本当に治癒魔法が使えるなんて…!」

「これくらいは良いわ、さて…」

「ジャンヌさーん!すみません!ギルドマスターがお呼びです!ちょっとこっち来てくれませんかー!」

「ごめん、ちょっと行ってくる」


 ああ、あの老人男性がマスターね。鍛えられてるのがよくわかる。歳を感じさせないあの綺麗な姿勢、間違いなく強い、大成した前衛職だったと見て良いわね。


「むっ、ジャンヌとか言うたか。お主、儂の体幹を見ておったな?若いのに大したものだ」

「あなたこそ、歳を感じさせないその体躯、素晴らしい実力者ね。見ればわかるわ、最低でも元Aランクの前衛職、老いても鍛え続け、最低でもBランク下位クラスの実力は維持できてるんじゃないかしら?」

「ほう、ほぼ当たりだな。怪我の影響でBランク級の活動はもう無理だがな。申し遅れた。儂はこのギルドのマスターをしておるグフタスと言う」

「つまり怪我が無ければやれたと」

「うむ、その通りだ。これは期待の星だな。エンジェルビーストの件も盗賊の件もあながち法螺吹きではない可能性が高いな。すまんがジャンヌどの、手合わせ願いたい。特別登用しようにもお主の話は異常過ぎる」

「なるほど、受けて立つわ」


こうしてギルドマスターと模擬戦をすることになった。

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